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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
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イセカイ篇 5 『食べる習慣。』

イセカイ篇 5話になります!


昨日、評価をしてくれた人ありがとうございます!!



俺は彼女(ことは)が煙を吐く姿に、

完全に見惚れてしまった。


真っ白な肌に、薄い唇。

少しタレ目の物憂げな表情で、

横顔も、正面から見ても、本当によく分かる。

美人だ。


遅い時間帯のシフトに、

入っていたと言っていたからなのか、

彼女は化粧をしている。


煙草を咥えた唇に、

暗めの色が付いてる。


化粧の事なんて俺には何も分からないけど。



「僕もさ、(ナツメくん)に相談があるんだけれどね」


「な……、何?」


「君から先にどうぞ。

少し混乱している様に見えるから、

落ち着いて、ゆっくりで大丈夫だから」


彼女は短くなった煙草を灰皿で消すと、

換気扇を止めて、ベッドの上に腰をかけた。


座った拍子に、

パーカーが肌蹴(はだけ)て肩が見えた。


何でも無い事なので、

勿論、彼女は何も気にせずに元に戻す。

ところが、勿論俺には、ただ事では無い。


何か、何か言わないといけない。


「話を変えようか。

もう少し、整理してからの方が良いかも知れないね」


一瞬、間が空いて。


「僕の部屋はつまらないだろう?

テレビも無いし。

君はテレビをよく見る方かい?」


「そんな事無いけど……。

何でテレビ置いてないんだ?」


「見ないから」


「部屋でいつも何してるんだ?」


「そうだなぁ、ご飯を食べたり、寝たり……。

殆ど、それだけだね。

君は? 自分の部屋でどうやって過ごしてるのかな?」


「俺は……、漫画読んだり……、

アニメ見たり……、ゲームしたり……?

俺も、殆どそれだけ……」


「ふうん。

学校に行かずに、そうやって過ごしていた訳だ」


「わ……、悪いかよ」


「全然。君はそうしたかったんだろう?

だったら、それが正しいのさ」


彼女の声には、妙に納得の出来る説得力と、

縋りたくなる母性を伴った響きが有る。


何故か、俺は少しだけ眼に涙が滲んでいた。


「僕も別に学校は大して好きじゃなかったよ」


「好きなヤツなんているかな……?」


「さあね。

人それぞれだから。

好きで好きで堪らないって人も、

中には居るんじゃないかな?」


「お前は何で、学校が大して好きじゃないんだ?」


「えー……。何でだろうね」


「何か嫌な思い出があるとか……」


「嫌な思い出……、特に記憶には無いかなぁ」


「じゃあ、何でだよ」


「理由が無くても、

何となく好きになれないものってあるじゃないか。

例えば、曲がらないタイプのストローだったり」


「曲がらないストロー?」


「喩えだよ。

飲み物を飲むのに、曲がってようが、

そうで無かろうが、用途は一緒だろう?

でも、僕は曲げれるタイプのストローが好きだ。

曲がらないストローよりも」


「学校とストローを比べられても……」


「喩えば。だよ。

でも、僕には同じくらいの規模の話だよ。

なんとなく、曲がらないストローは好きになれないし、

学校も、なんとなく好きじゃない」


「お前変わってるんだな……。

話した事無かったから、知らなかった」


「僕が変わってると云うよりも、

僕は君より大人なんだよ。

実際、年齢も上になってしまったからね」


「見た目……、若いよな。二十九って……」


「バイト先では年齢を隠しているよ。

僕の年齢では本来アウトだろうから」


「ていうか、何でメイドカフェ?」


「服が可愛かったから。

何でも良かったんだよ。

その前はスーパーでバイトしてたよ」


「魔法が使えるのに?」


「魔法が使えるのに」


「お前の事、人類で最強だってユンタが言ってた」


「オーバーな表現だよ。

僕の授かったスキルのおかげだね」


「どんなスキルなんだ?」


「その前に。

君が使おうとしたスキルの事を教えてもらえるかな?

君には、どんな能力が有るんだい?」


「俺のは……、

相手のスキルを借りて、使えるって云う……。

ただ、そんだけ。

しかも、成功した事が殆ど無くて……」


「模写系のスキルか。

随分、珍しいスキルを貰ったんだね」


「珍しいだけだろ」


「そんな事は無いよ。

僕は二度、

模写系のスキルを持っている相手と、

戦った事があるけど、

それなりに苦戦したよ。

とても厄介な能力だと思っている」


「人類最強なのに苦戦?」


「それは相性と云うものが有るからね。

どれだけ能力差が有ったとしても、

相性は互いの属性同士に干渉し合うものらしいから」


「でも、属性を超越する様なヤツもいるんだろ?」


「そうだね。よく知ってるね」


「お前も超越する側なんだろ?」


「正確には僕の能力が。だけどね。

でも無敵な訳でも無いと思うよ。

現に僕は敗けてしまって、

こっちの世界に戻されてしまったから」


「お前が敗けた?」


「うん。属性云々の話とは違うかも知れないけどね、

()()()()()()()()()()()()()()()

それに相手が気づいてしまったんだ」


彼女はそう言うと立ち上がって、

台所に有る、備え付けの冷蔵庫の扉を開けた。


「さっき買ったカップケーキを食べて良いかな?」


「まだ食うのかよ」


「ナツメくん。

僕は毎日必ずデザートを食べる事にしてるんだ」


「よく食べるんだな。細いのに」


俺は言った後に、しまった、と思った。

短パンから覗く、

彼女の細くて白い足に、

どうしても意識が行ってしまう。


勿論、エロいヤツだ。


「今更だけど、着替えて来ようか?」


「え!? な……、何で?」


「君が話に集中出来そうに無いから。

僕としても、男の子と二人きりで居るにしては、

些か無防備過ぎる格好だなと思っているんだよ。

すまないね。

どうも楽な服装を選んでしまうから」


「べ……、別にやましい事なんて考えてないから」


「考えられては困る。

僕は一応、人妻だからね」


俺はヤンマの事を思い出した。

正直、スイに手を出すなと言って脅かしてきたヤンマを、

俺は怖いと思っていた。

自分の嫁さんと、男が夜に二人きりで居たと知ったら、

ヤンマがどんな反応をするのか、

考えなくても判る。


「わ……、悪かったよ! 考えないから!」 


「冗談だよ。それよりケーキ美味しそう。

いただきます」


彼女は何事も無かった様に、

美味そうにケーキを食べ出した。


「スイがね。甘い物が好きだろう?

彼女は食べる事自体が好きだけど。

僕はこっちに戻ってから、

毎日甘い物を食べる事にしたんだ。

スイの事を考えながら。

そうしたら、何か少し紛れる様な気分になるから」 


彼女は小さなスプーンで、

一口ずつ丁寧に口に運んで、

それを噛み締める様にして食べ続けた。


「ナツメくん。

僕はスイに逢いたい。

だから、向こう(異世界)に戻りたい。

君に、協力をお願いしたいんだ」


彼女の言った言葉を、

俺は深く考える事はしなかった。

きっと、本当に、そのままの意味だから。

それに何より、俺も同じだったからだ。


◆◆◆

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