イセカイ篇 3 『花緑青。』
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「い……、いやいやいやいやいや……」
女が嘘を吐いているのだと俺は思っている。
スイの母親?
「ちょ……、おま……、流石にそれは……」
「流石にそれは?」
「無理があるでしょー……?
だって……、アイツ、十九歳だって言ってたんだぞ?
歳上じゃん。
お前が母親だとしたら、
年齢がバグを起こしとるわ」
「何だ。そんな事か」
「いや、重要でしか無いだろ」
「それも含めて説明をしてあげるよ。
今から十分後に家を出てくれ。
君の家から近くの、
大きな交差点の所のコンビニで会おう」
「え!? おい! もしもし!?」
──『通話終了 05:27』
「マジかよ、超怖いんだけど……」
俺はそう言いながらも、
女の言う通りにするべきだと思っている。
女が仮に、俺に幾つも嘘を吐いているとしても、
あの世界に繋がる何かを、
女が俺にもたらしてくれるなら、
それに縋りつかなければいけない。
俺は、女に言われた通り、きっかり十分後に、
家をソッと抜け出して、
女が指定したコンビニに足早に向かった。
“二月二日ことは”と、
スイがいつも嬉しそうに話すコトハさん。
到底、同一人物だとは俺には思う事が出来ないが、
ただ、名前が一致しているだけでも、
どんな、こじつけに聞こえたとしても、
俺には興奮を抑える事が、かなり難しくなった。
あの世界への繋がりを、
俺はどうしようもなく求めている。
(よく考えれば……、
コトハさんも日本から来たんだもんな……、
あながち……、ていうか、絶対確定じゃないのか?
それ以外無いだろ)
そう考えると、俺は少し、
本当のところ、かなり、
期待をせずにいられなかった。
◆◆
家から近いので、普段は絶対利用しないコンビニ。
いつもは夜中でも人が大勢居るように見えたが、
今日に限って、何故だか客が少ない。
だから、俺は店内を一周して探す前に、
二月二日をすぐに見つける事が出来た。
正確には、二月二日らしき女を。
彼女は、スイーツのコーナーでしゃがみ込み、
並べてある商品を次々と手に取りながら、
何やら真剣な眼差しで品定めを続けていた。
商品カゴを使えば良いものを、
スイーツを持っている反対の手には、
おにぎりやらサンドイッチやら、
お菓子、カップ麺やらを、
抱えきれ無い程に持ったままで。
(………もしかしたら、違うんじゃないかな)
俺は彼女の姿を少し離れて眺めながら、
そう考えていた。
猫耳の付いた黒のパーカーに、
ルームウェアの様な短パンに、厚底のサンダル。
異世界感ゼロやないか。
そして何よりも、
俺が違和感を抱いたのは彼女の髪の色だ。
青緑……、エメラルドグリーン?
あの有名なボカロの髪の色。
俺が最後に二月二日ことはを見たのが、
いつだったのかは、もう思い出せないし、
彼女と会話をした事も無い、
それでもあまりにも印象が違うのだが、
俺は、
彼女の事を、名前以外、何も知らない。
俺が声を掛けても、良いものか悩んでいると、
カップのスイーツを熱心に品定めしていた筈の彼女が、
ようやく俺の存在に気づき、
じーっと、こちらの様子を伺ってきた。
「…………えっと、二月二日か……?」
「誰?」
「な……、夏目だけど?」
「ナツメくん?君が?」
「展開というか、流れというか、
どう考えても、そうだろ……?」
「すまない。眼鏡を忘れてね。殆ど見えてないんだ」
二月二日は目を細めて俺の事を見ていた。
片手に抱えた商品が、
バサバサと雪崩の様に床に散らばって行った。
「しまった」
「カゴ使えよ……」
「ああ、ゴメン。ありがとう拾ってくれて」
声と、話し方から、
印象の違う見た目は置いとくとして、
間違い無く、
この女は、二月二日ことはに間違い無い。
「こんなに食うの?」
「一日じゃ食べ切れないよ。
残ったら、明日食べるんだ」
「あの……、二月二日なんだよな?」
「そうだよ?ここで会おうとさっき言っただろう?」
「そ……、そうなんだけど……。
お前って、そんな感じだったっけ?」
「ん?部屋着なんだけど、何か変かな?」
「い……いや、髪の毛とか?」
「ああ。
良い色だろう?
バイト先で勧められた美容室でやってもらったんだ」
「バイトしてんの……?」
「そりゃするさ」
「へ……へえ~……、な……、何のバイト?」
「カフェ」
「随分、派手な色でもオッケーなんだな」
「僕が働いているのは、メイドカフェだから。
それより、お会計をしても良いかな?」
「メ!?」
「それから、こっちと、こっちのデザート、
どっちが良いかな?」
「こ……、こっち……?」
「うーん。迷うけど、じゃあそうしようかな」
「あ……、あのさ」
「とりあえず、僕の家に行こう。
それから、ゆっくり話そう」
「え……?え……?」
「それと」
「な……、何?」
「悪いんだけど、お金。
少し貸してもらえないかな?
財布も忘れてしまった」
彼女は、俺の選んだデザートを手に取り、
躊躇う事無く、スタスタと真っ直ぐとレジに向かい、
俺の方を振り返ると、
“早く来い”
と言わんばかりに手招きをした。
猫耳の付いた、彼女のパーカーには、
尾も付いてる事に、
俺はその時に気づいた。
◆◆◆




