異世界篇 2 『魍魎ごっこ。』
本日投稿の2話目になります!
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ガコゼはゆっくりと右手を上げた。
屈服はしてないと云う意思表示なのか、
彼の自尊心に拠るものなのか、
とてもゆっくりとした動作で、
その姿勢は、ふてぶてしく感じる、
決して真っ直ぐでは無いものだった。
「彼女が今、何処で何をしているのか、
教えて欲しい。出来たら、自主的に」
ガコゼはスイを睨みつけ、
上げた右手をゆっくりと降ろそうとした。
彼は言葉を発する事を、
スイの精霊によって禁じられたままだった。
───『“息を止めろ”』
「!?!?!?」
スイがそう言った瞬間、
ガコゼは呼吸をする事が出来なくなり、
のたうち回って苦しみ出した。
「スイ! やり過ぎ!! マジ死ぬから!!」
ユンタにそう声を掛けられて、
スイは我に返り、魔法を解いてやった。
「……ヒィー……ヒィー……」
「余り時間も無い。
知ってる事が有れば、さっさと教えてくれ」
「……お前……、あの女の何や……?」
「コトハさんは、わたしのお母さんだ」
「コトハの娘……? 娘なんか居ったんかい……」
「ネイジンで会ったの?」
「いけ好かん女やったで……、
あのアホと一緒や、
天恵者か何か知らんけど、
与えられたもんに胡座かきよってからに」
「余計な事は言わない方が良い。
わたしは今、冷静では無いから」
「ホンマにあっさり殺されてまうやろなぁ、
せやけど、
出来へんやろがい?
コトハの事を知りたいんやったら、教えてやるわ。
ワイを逃がしてくれるんならな」
「スイちゃん。真面に話を聞いては駄目だよ。
君は今、加減をする事が難しいかも知れない。
この男には、ちゃんと公正な裁きの場で、
罰を与える。
コトハちゃんの事も、必ず聞き出すから、
おじさんに任せてくれ」
「ちゅうてはりますわ。
けったいな魔法を使いよってからに、
流石、あの女の娘なだけは有るわ、
母娘揃って、バケモンじみとるわ」
「黙れ!! ガコゼ!!
我が王国イファルに対する狼藉も然ることながら、
これ以上、この娘を侮辱する事は、
このクアイが許さん!!」
「けっ……、
たかが、死体をなんぼか貰うただけやろが。
死んでもうたらな、ゴミや。
あんた、ゴミを大事にするか?
ワイは、要らんゴミを、
また使える様にしてやっただけやろがい?
狼藉ぃ?
しょうもない事抜かすな、アホンダラ」
「ちょっ……!! 何なんスかこの人!?
マジむかつくッス!!?」
「えーーー、もう死んでたって事にして、
殺しちゃダメかなーーー?」
「グラスランナーの姉ちゃん。
お前も亜人と大して変わらんやろ?
餓鬼の頃から、踏み潰されて踏み潰されて、
性根なんか真っ直ぐになる訳無いねん。
お前も人間と接してたら分かるやろ?
ワイらみたいな、人外、腐って育つもんや」
「あ……、あんたなんかと一緒にして欲しくないッス!!」
「一緒やて。
しょうもない世界やで。
自分の腐った部分、直視して生きた方が楽や」
「もうコイツと喋んない方が良いヨ。
頭おかしいんだヨ」
「えーーー?マジコイツなんなんですー?
ロロ助に舐めた事抜かすとか、極刑ーー♪」
「殺すし。こんなヤツ亜人の恥だし。
知らんけど」
「ヤエファさん。
申し訳無いですが、
義妹さん達に落ち着いてもらって下さい。
……僕が先に大声を出してしまったのですが。
このままでは本当に殺してしまうかも知れません」
「……わっち達は、
人間の国で人間の法律に従って生きとるけ。
あんたら、約束を忘れたんじゃなかろ?
手は出したらいかんけ、堪えてくれの」
「すまんなぁ、堪忍してくれるか?
ヤエファ、お前が一番、ワイを殺したい筈やのにな。
人間たらしこんで、巧いことやったつもりかも知れへんが、
もっと上手にやらなあかんわ。
せやさかい、また殺しそびれてもうたな?
殺しはお前のが得意かもあらへんが、
ワイの方が一枚上手やったなあ?」
「そうかも知れんの」
「あっさり認めるんかい。
何が指切り姫じゃい。
なんぼ、お前らが強いかて、
人間には敵わへんねん。
ワイからしたら、お前もロウウェンも、
死んだ後に、ワイに利用されるだけのゴミや!!」
「よいよ道化じゃの」
「どういう意味や?」
「人間に気に入られようとして、
ゴミ漁りの止められんお前が哀れでの」
「何やとコラァ!?」
「いつか報われるとええの。
……応援してるね♪」
「負け惜しみも大概にせえよ!!?」
「惜しんどらんけ。
お前だけじゃ、執着し続けとるのは。
それに、
ロウ兄が、哀れで惨めなお前みたいな者を、
側に置いとった理由がよくわかるでの」
「この……!!」
「続きは言わんでも、わかるかの?
頭の良いガコゼ君なら?」
「殺す!! 殺すからな!?
殺したらぁ!!」
「ま。こんな程度のヤツじゃけの。
他人にゃ好き勝手に抜かすが、
それは自信の無さの現れじゃ。
こげな者に、調子を狂わされる必要なんか、
これっぽっちも無いけ。
ほいじゃ、
スイちゃん。あとは宜しく頼むけの」
「少し落ち着いた。ありがとうヤエファ」
「『魍魎のガコゼ』。
鬼火の仲間と聞いていたので、
一体どんな人物かと思いましたけど、
典型的な小者でしたね」
それは、突然現れた男の声だった。
スイ達にとっては、聞き覚えのある、
平坦で無機質な声だった。
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