イセカイ篇 2 『着信について考える。』
本日投稿の
1話目です!
不定期に投稿してごめんなさい!
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──ヴゥゥゥゥゥゥッッ…… ヴゥゥゥゥゥゥッッ……
スマホが鳴っている。
向こうでは、当然電波が繋がらず、
バッテリーも切れてしまった為、
無用の長物となっていた、
スマホのバイブ音を、俺は久しぶりに聴いた。
バッテリーは切れていた筈なのだが。
スキルを発動してみたものの、
警告音と、例の声による案内通りに、
俺は気を失ってしまっていた。
ズボンのポケットから、
スマホを取り出し、画面を見ると、
知らない番号からの着信。
──こんな時間に?
俺はスマホで時刻を確認し、
今が夜中である事を知っている。
真夜中だ。
こんな時間に、電話を掛ける用事を俺は知らないし、
大体、俺に用事があって電話を掛けてくるヤツなんて、
俺は知らない。
「間違い電話かな……」
電話に出ることが、何となく億劫だったので、
俺は画面を見続けたまま、着信を無視していた。
しばらくの間、鳴り続け、
不在着信の表示が出たと思ったら、
またすぐに同じ番号から掛かってくる。
俺は少し怖くなったが、
次に掛かって来たら出てみる事にした。
おかしな内容なら、すぐに切ってしまえば良い。
そう思った瞬間、また同じ番号からの着信だ。
「……も……、もしもし……?」
「…………」
「あの……、すみません? どちら様でしょうか……?」
「──……、──……」
何か、テレビの音の様なものが聴こえるだけで、
相手は返事をしない。
「もしもし? もしもーし……」
よし、切ろう。
俺がそう考えた瞬間。
「……ん? ああ、何だ。繋がっていたんだ」
ようやく相手の声がした。
女だ。
因みに、俺に電話掛けてくる女の知り合いは居ない。
「も……、もしもし……?」
「もしもし」
「あの……、すみませんが……、どちら様で……?」
「君はナツメくんでしょ?」
「え!? は……、はい……。そうですけど……」
「僕の事を憶えていないかなぁ?」
「えーと……。ごめんなさい……」
「君はホントにナツメくん?
もしかして間違えたかな?
違う人に掛けてしまったかな?」
「ナツメはナツメなんですけど」
「なんだ、やっぱりナツメくんか」
「あの、それでやっぱり、
俺は貴女の事が誰なのか分からないんだけど……」
「嘘だろ?そう云う風に言われてしまうのは、
僕としては、凄く心外だな」
「す……、すみません……」
「君の電話番号を調べるのにも、
ちょっとした苦労も有ったし、
僕にとっては不慣れな事で、些か手間取ったんだ。
それなのに、君は僕の事が分からないと言う」
「ほ……、本当にすみません」
「君にとっては、些細な事かも知れないが、
これは立派な悲劇だ。僕は悲しい」
「あ……、あの……、本当に申し訳無いんだけど、
貴女が誰なのか、教えて貰えませんか?」
「名乗るタイミングを失ってしまったからね、
今更、自分から名乗り出るのも少し恥ずかしいな」
「いや、今がタイミングでしか無いと思うんですが……」
「君は昨日の夜中、スキルを使っただろう」
「……え?」
「スーキールー」
「な……なんで?」
「とっても微弱だが魔力を感知した。
調べた所、君の住む街から発されたもので、
もっと言うと、それは君の部屋からだった」
「し……、調べた!? あ……あんた一体何者なんだよ!?」
「君の電話番号を調べるのには、
苦労したと言っただろう?
それよりも、こちらの質問が先だよ。
君は、スキルを、
誰に、いつ、どこで習った?
能力の内容は?
それと、
君はリロクの部下か?」
「ちょ……、ちょッッ!?」
「答えてくれるかな?」
俺は咄嗟に感じた。
この女はヤバいと。
「ま……、待ってくださいよ、質問が多くない?
それに順調なら、俺の方が先じゃない……?」
「む。そうかな?」
「あんたは……、あっちの世界の人なのか?」
「いや。君と同じ日本人さ」
「じゃあ、俺と同じで転移を……」
「そう。君は向こうに居たんだね?」
「ああ……。いつの間にか戻ってきちまったけどな……」
「じゃあ、向こうでスキルの鑑定を受けた訳か」
「そうだ」
「どの辺りの国に居たんだい?」
「最初はウクルク……。ここに戻って来る前には、
イファルに居た」
「ウクルク」
女はそう言うと、急に静かになり、
スマホのスピーカー越しには、
テレビの音だけが聴こえる。
「あの……、どうかしたのか……?」
「君がウクルクに着いて、誰か迎えに来てくれた?」
「来た」
「それは、誰だったかな?」
「……スイって女の子」
「……そうか。そうだったか」
「お……、おい……?」
「ナツメくん」
「はい……?」
「今から家を出て、逢えるかな?」
「あ……、あんたと?」
「うん。僕達は出逢うべきだ。
心配しなくても、僕は怪しい人間じゃない」
「いや……、めちゃめちゃ怪しいんだけど……」
「未だ僕が誰だか判って無いみたいだね。
僕の名前は二月二日だ。
まだ思い出せない?」
「二月二日……」
俺はその名前を知っている。
「出席番号なら、君の後ろの席」
「二月二日……!? お前……、二月二日かよ!?」
同級生の、変わった名字の女の子が、
クラスメイトに居た事を俺は憶えている。
四月一日や、五月七日と云った、
特殊な読み方をしない、
そのままの読みで、二月二日だ。
「君はあまり学校に来なかったけど、
クラスメイトの事くらいは、
きちんと憶えていて欲しかったな」
「なんで……、なんでお前……」
そして俺はどうしようもなく、
心臓が迅く波打つのを感じていた。
「お前……、確か下の名前って……」
「ようやく思い出せたか。
僕の名前は“二月二日ことは”
君はスイに出逢ったんだね。
既にスイから聞いて知ってると思うけど、
彼女は僕の娘だ」
俺は波打つ心臓の鼓動が、
胸の高鳴りである事に気づいていた。
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