第十話『雷で貫く。』
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“多分、スイが危険な目に遭うのが嫌なのと俺がスイにくっついて回ってるのが間違いなく気にいらねえんだろうな………。でも誤解だからそれ!!そして、スイに全く気づいてもらえなくてどんどん苛ついていってる。鈍感だよこの美少女!!”
リクがゼンに目をつけられないようになるべく気配を消している最中に、スイが少し怒りのこもった静かな声でゼンに言った。
「いい加減落ち着きなよ。それと大きな声を出さないで欲しいな。君は本当に声が大きいからビックリしてしまうから」
「お前がわけのわからんことばかり言うからだろう!!!」
「あぁ~……。もう……。君と喋ると頭が痛くなる……。大きな声を出さないでって頼んでいるんだけど、それも聞いてくれないのかな?」
「お前がさっきのを訂正したら止めてやる」
「さっきの?」
「アレだ……そこの男と一緒にだのなんだのと……」
「ああ。リクを連れて行って良いかって話かい?訂正をするところは特に無いんだけれどどうしたら良いかな?」
「またお前は……!!!そこのわけのわからん奴に何か吹き込まれたのか!!?なんでお前はいつもいつもニホンのことになるとそう夢中になるんだ!!?お前はこの世界の人間だろう!!?」
「あのさ。この子にはリクって名前があるんだ。得体の知れない奴でもわけのわからん奴でも無いし、彼の人格に関することを勝手に決めつけないでもらえるかな?
それに。わたしがニホンのことを好きなのは、大切な人が暮らしていた世界だからだよ。この世界だからとかこの世界じゃないからとかは関係ない」
「そんな奴の名前など知るか!!!くだらんことばかりぬかすな!!」
「わたしにとってはくだらんことなんかじゃない。少なくともリクは約束を守ってくれる良い人だ」
「な……!?なんの約束だ!!?いつもいつもお前はよそ者とばかり仲良くして……!!貴様…さっきシファの森で会ったな?こんな弱っちい奴になんか俺は謝らんからな!!」
“わ~~……矛先こっち来た~~……。そして良いから!俺のことで争わないで良いから!!”
「はぁ……。ゼン。君はまだまだ子供だね」
「誰がガキだ!!!?」
「そうやって大声出してわめき散らして、みんなが困ってしまって迷惑しているだろう?子供以外の何者でもないよ。もうみんなに謝った方がいいと思うよ」
「お前はそうやっていつも上から余計なことばかりを……!!」
「それはそうだろう?だって君、わたしと喧嘩して勝ったことなんか無いじゃないか」
「いつもいつも馬鹿にしやがって……!!!スイ!!俺は負けた覚えなんかないからな!!いつまでも子どもの頃と同じと思うな!!!」
ゼンは明らかに違う発音でスイを挑発した。一瞬間を置いて、スイが顔を真っ赤にしてわなわなと震えだした。完全に怒らせてしまったようだ。
“あ、コレなんか駄目な奴だ。マズイやつかもしれない”
「ゼン……?今なんて言ってわたしのことを呼んだのかな?怒りでわたしの名前さえわからなくなってしまったのかな?」
「どっちが子供だと言ったんだ!!いつまでも偉そうにして!!お前に俺の気持ちなどわかるか!!ガキの頃にからかわれたのをまだ気にしてるのか?一体どっちガキなんだろうな?スイ!!」
咄嗟にリクは身構えて、部屋から飛び出そうとした。
「我が親愛なる光と雷の精霊よ。汝、我と結びし契約という友愛の名のもとに、静寂を切り裂き、千里の先まで轟きし震える弦を鳴らしたまえ。邪な者を打ち払い焼き尽くす慟哭の雷鳴を。目の前の悪しき壁を汝らの蒼き牙で穿ち貫きたまえ……!!!」
スイがゼンを凄まじい形相で睨み付け、早口で詠唱を始めた瞬間、リンガレイも騎士達もリクも一斉にも逃げ出そうと走りだした。
────『雷光の弩!!!』
スイがゼンに向けて弓矢を放つポーズをとった瞬間。スイの両腕が青白く閃光を放ち、
───ズゴゴォォォォォォッッッ!!!
と云う様な、雷が駆け抜けるが如くの凄まじい音が鳴り響いた後、身構えたままの姿勢のゼンが白目を剥いて崩れ落ちていった。
「………………」
気を失ったゼンを憎たらしそうに睨み付けるスイの怒りはまだ治まってないようだった。
「国王様!やっぱり女神様の調査隊に行くことにします。リクも一緒に連れて行きます。良いですね?」
スイがリンガレイに詰め寄るように言った。
「う、うん!!もちろん!リク?スイのことよろしく頼んだぞ?」
「え?!あ……は、はいっ!!」
「捕らえろ!!ゼン殿を捕縛しろ!!」
「はぁ~ぁ……。レイシさん、お手柔らかにしてやってくださいね?落ち着いたら私からよく言って聞かせますから。国王様も許してあげてくださいますか?」
「そ、それはもちろんじゃ!ゼンも頑固なところはあるが儂の大切なウクルクの民だ。充分な恩赦は与えるので心配するでないぞ」
「ありがとうございます」
スイは深々と頭を下げた。
“コ………コイツ……怒らせるとマジでヤバいな………”
リクは腰を抜かしたように尻餅をついて、リンガレイや騎士達を圧倒するような雰囲気を出すスイに完全におののいていた。
「その代わりにこの部屋のお片付けは手伝わせてください。壊れてしまったものも弁償します。リク?悪いけど手伝ってくれるかな?」
「お、おう!でもちょっと手を貸してくれないか?立てなくて……」
スイはきょとんとした顔をしてリクに言った。
「なんだい?腰が抜けちゃったのか?ふふ。攻撃魔法で驚かせてしまったかな?君は情けないなぁ。ほら、立てる?」
「うるせぇ!あ、ちょっと待ってそんなに勢いよく引っ張らないで!」
「ほら、しっかり立って!君に恥ずかしいところを見せてしまったね。彼は喧嘩っ早いところがあるんだけど、でも本当は優しいところも少しはあるから、許してやってくれるかな?」
「いやいや!俺は別に怒ってないから!」
「良いのかい?怖がらせてしまったし、顔やお腹を蹴られてしまっただろう?それと……あの時、面白がって止めなくてごめん。調子に乗ってしまって悪ふざけが過ぎたよ。本当にごめんなさい」
スイが申し訳無さそうに困った顔をして上目遣いをしながら、リクに謝った。
リクはそれを見て少しだけ意地悪な笑みを浮かべてちょっと今までの仕返しをしてやろうと思った。あまり調子に乗ってはいけないことは察知しているが、それよりも彼女のこんなに弱気なところを見る事が出来て少し心が昂った。これはとんでもない好機なのかもしれない。
「いや、アレはマジで痛かったぞ?」
「うん……。本当にごめんなさい」
「お前にやられたんじゃないけどな?」
「うん。でも…わたしは見ていたのに。あの時すぐに止めるべきだったと後悔しているよ」
「そうだぞ?危うく殺されるかと思って怖かったなーーー」
「ごめんなさい。もっと早く止めなくちゃいけなかった。そしたら怪我しなくて済んだのに。あの…どうしたら許してもらえるかな?」
“くぅーーーッッッ!!スイが!俺に!謝った!!こんなに強くてドSなスイが本当にしょげちゃって。本当に悪いと思ってんだな”
リクは痛快な気分で身体中がゾクゾクとした快感に包まれるのを感じていた。
正直、まだこの状況を続けていたかったが、スイの背中越しにリンガレイが、「やめとけ。無理すんな」と無言で訴えながら首を横に振っているのが見えた為、先ほどのゼンを打ち倒した時のスイの表情を思い出しながら冷や汗が流れた。
“そ、そうだ。楽しすぎるけど、コイツは怒らせたらダメだ!引き際が肝心だ”
「い、いやぁ!わかってくれたらいいんだよぉーー!」
「本当に?もう怒ってない?」
「怒ってない!それにお前は俺のことかばってくれただろ?俺の方こそちょっと意地悪しちゃってごめんな」
「わたしが悪いんだからいいんだよ。怒っているのかと思って本当に心配になったよ。怒ってなくて良かった」
スイがホッとしたような顔をした。
「よし!じゃあとりあえずさっさと片付けようぜ。そんで仲直りだ。今夜はパーティーだろ?間に合わせよう」
「うん。リク。君を最初見た時には変な顔で笑うし気弱そうでたまに気色悪いところもあると思っていたけど、とても優しいんだね。ありがとう」
「今、すごい余計なこと言ったな」
「君のことはやっぱり嫌いじゃないなぁ。一緒に旅に出ることにも決まったし、楽しくなりそうだね。さっきも言ったかもだけれど、改めて。よろしく、リク」
「そりゃどーも。そういえば調査隊に参加することになったんだった。でも俺で本当にいいのかな?まだ何の役にも立ってないと思うんだけど」
「まあ、心配することはなかろう」と、乱れた敷物を直しながら
リンガレイが言った。
「王様まで手伝ってくれてんのか」リクやスイだけでなく、リンガレイや騎士達も全員で散らかった部屋の片付けを始めていた。
「国王様のこういうところ私は好きだなぁ」
「スイの同行者はこちらで好きに決めて良いそうじゃからな。リク以外の者の選定も任せるぞ。費用も向こう持ちじゃしの」
「そうなんですか?じゃあユンタに声かけてみようかな。あとヤンマかな」
スイは腕を組んで考えてながら、リクがまだ出会ってない自分の仲間たちとリクが仲良くやっていけるかを想像した。
しかし心配することは無さそうに思えて、少し楽しい気分になっていた。今夜は宴だし、ご馳走もたくさん出るだろう。
リクに何か美味しいものを選んで食べさせてやろうと考えると、
片付けを早く終わらせねば。と思い、人一倍動くことに決めた。
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はじめまして。
バーッ!と書いたものを投稿時間とかよくわからなかったのですけど、とりあえずザッ!と載せてみました。
明日以降も投稿しようと思っています。