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いい仕事
「ああ・・・かかあの飯が、食いてえなあ・・・」
指先をみつめ、キヘイジがさびしそうにつぶやくようすが、ヘイタにそっくりで、ヒコイチはわらってしまった。
何事もなく廊下を明るい方へとすすむと玄関につき、沓脱にキヘイジとヒコイチの草履がならべられ、袋にはいったキヘイジの道具一式も置いてあった。
ヒコイチがここにきたときにあったたくさんの下駄はなく、すぐそこのふすまのむこうにも、なんの気配もない。
ふたりそろって外へ出ると、キヘイジが平屋をふりかえり、やっぱりすげえ、とうなるように腕をくんだ。
「この家は千百年ほど前からたってるらしくてな。ときどき、見込んだ大工をよんで、修繕したり建て増してるってことなんだが、どいつもいい仕事を残してやがんだ。 ―― おれが欄間をほることになった奥の部屋ってのがまた、すごくてなあ・・・いやあ、ためになった」
いとしむように、かやぶきの平屋をながめる男は何度もうなずく。




