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あぶねえとこだった
人力車におしこんだ医者と、かけこんだ家の中では、大家のおかみさんとヘイタを頼んだ若いおかみさんが忙しそうに働いていて、医者だけ中にひっぱられて、ヒコイチはおいだされた。
外には、ヘイタの相手をする大家がいて、手招きされる。
ちょうど、ヒコイチのところから黒い猫がでてきて、こどもを誘うように鳴いてみせた。
「 ―― クロがヘイタをよんでるよ」いっといで、と年寄りにいわれたこどもは猫のそばへ走ってゆく。
それをみながら「あぶねえとこだったなあ」と大家は腕をくんだ。
「 ―― おマチさんは、おれらに迷惑がかかるといけねえと思って、黙ってたそうだ。 うちのばあさまがいうには、気がふさぎすぎて腹のこどもが、いけねえことになる、ってのがあるそうだ。 まにあってよかったな。 ヘイタも小さいのに、考えたんだろなあ。 赤ん坊がいる腹がいてえ、ってかあちゃんが寝込んでるのに、『いっちゃならねえ』なんて、いわれてなあ・・・」
「 で、なにが『迷惑』だって?」
ヒコイチも腕をくみ、むこうで黒猫とあそぶこどもをながめてきいた。