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ヘイタロウ
「 ―― おい、どうしたヘイタロウ、かあちゃんにしかられたのか」
今日は、《元締め》のところでつぎの仕事のはなしをしながら、一局だけ将棋の勝負をして帰ってきていた。
まだこんなに陽がたかいうちに、家に帰ってくることはあまりないが、いつもなら、こどもはどこかの手習いをのぞきに行っているか、友達と遊んでいる時間だろう。
声をかけられたこどもは、木の棒で地面を掘っていて、なにもいわずに首をふる。
「 どうした? 」
まるまったからだを、ひょいと持ち上げると、まるまったまま、ヒコイチにしがみつく。
かかえて戸をあけて家にはいると、すっとあしもとを黒いものが通り抜けた。
みゃあうう
かわいくないてみせた黒猫をみおろしたヘイタロウが、つかんだ棒で猫を打つようなまねをした。
猫は、さっと身をかえして、せまい縁から床下へにげこむ。
ふだんは、こんなことをするこどもではない。