27/67
誰かが先に
のぼりたくはないが、のぼらねば、めざす場所にはつけないのだ。
ヒコイチは、いままでひとりでのぼった『石段』に、いい思い出はあまりない。
むかし、山でじいさんに教えられたが、『段』も《なにかの》『境目』になるらしい。
みあげた石段は両側に生えた太くおおきな杉のせいで、黒くうっそうとした枝葉の影しかない。
しかたなく、苔におおわれた石段に足をかけたとき、数段上の苔に、泥がのっているのに気付く。
だれか先に、泥のついた足でここをのぼっている。
てのひらのなかで、振ってもいないのに、粒がころころとさわぐ。
それをしずめるように強くにぎり、 ―― 腹をきめて、のぼりだした。




