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キヘイジ
そのこどもはおなじ長屋に住んでいて、なにかとヒコイチをきにかけてくれる夫婦のこどもだった。
もう六つになっているだろうが、からだがまだ小さく、母親であるマチにいつもまといつくようにしている。
父親であるキヘイジは木を彫る職人だ。
もとは仏師をめざし、ありがたい仏さんなどを彫っており、かなり腕はよかったのに、なんでかあるとき仏を彫るのはいやだと感じ、ついていた師匠と縁をきるほどの言い合いをしてとびだした。
なぜ、そんなにいやだったのかは知らない。
キヘイジも、それについてははなすのがおっくうなようで、きいてもただ、いやだったからだ、と口をむすんでしまう。
それとはちがい、きいてもないのに、この街へながれてきて今世話になってる棟梁にあえた自分はツキがいい、と何度もいうのは、その棟梁に世話されたマチと所帯をもてたからだろう。
そのマチはいま、二番目のこどもが腹にいる。
ヒコイチがそれを知ったのは、いま、ヒコイチの家のまえで丸くなっているこどもが前に教えてくれたからだ。