行方の分からぬ男と金
「 ―― ほんとはまず、『奥方』が、山の中で殺されているのがみつかった。 前から刀でばっさりやられてな。 そのあとで、その奥方の旦那が行方知れずになっているのがわかった。そこでようやく、その旦那のお侍が、みつかった金貨を預かりしまうく金蔵番がお役目だったとみなが思い出して、蔵を確かめてみた、って順だ」
「その、『おかしな仏』とかの話は、いったいどっからでたんだよ?」
「 ひととおり事がおおやけになってから、《ヨミウリ》が、そこで『下働きしてた女』からきいたはなしを、芝居みたいに、したてなおして小出しにしたようだ。 ―― 侍の家には、金でできた小さな仏さんがあって、奥方は毎日それに手を合わせてたそうだが、その宗派も坊さんもみつからず、持ち出した『男』も『金』もゆくえはわからずじまい。 ただ、『重そうな箱をつんだ荷車をひく男』ってのを、後に奥方が殺される山のふもとの村の人が、みかけたらしくてな。 だから、順番がおかしくっても、その旦那が《金をひとりじめするため殺したんだろう》ってことになってる」
嫌なはなしをしたことを悔いたように、太ったからだをふるわせて息をつく。