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さがしてみてくれ
ヒコイチが、後ろの戸をふりかえったとき、ちょうど医者がでてきて、大家のおかみさんが頭をさげてみおくる。
「とにかく休ませろ。それから食わせろ。 ―― つぎは、わからんぞ」
このあたりの病人を一手にひきうける先生は、おこったようにヒコイチと大家をにらみ、ヘイタロウの頭をなでて帰っていった。
「 ・・・なあヒコイチ、おまえの仕事の親方の、あの《ショウキ》さまみたいな男、《テヅマ》をつかうそうだなあ? ―― それで金を、どうにか変えられねえか?」
「・・・まあ、きいてはみるけどよ」
「それと、ヒコイチ、」
「ああ。その手紙預かってもいいかい?」
「もちろんだ。 ―― キヘイジを、さがしてみておくれ」
大家はたたんだ手紙をヒコイチの着物のふところにつっこんだ。
みとどけた黒猫が、ばかにしたような鳴き声をあげると、ようやくこどもの手をすりぬけて、どこかへ走り去っていった。