表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夏のホラー2023『帰り道』

うずくまる女

作者: 家紋 武範

 駅の階段の隅に座り込むホームレス風の女がいる。年の頃は60ほどであろうか?

 毎日毎日、朝から晩までうずくまって、ブツブツと何かを呟いているのだ。


 通勤時、帰宅時間と、毎日毎日、ブツブツ、ブツブツだ。こっちは仕事で疲れてるっていうのに。


 何を言ってやがるか分からない。どうせ意味のない言葉なのかもしれないと思いながら、そっと聞き耳を立ててみる。


「……う


 ……がう


 ……がう


 ……がう」


 なにやら聞こえる。同じような言葉だ。俺の前のヤツが通りすぎたとき、ハッキリと聞こえた。


「違う」


 何が違うんだ? と思いながら、うずくまる女の横を通り過ぎると、俺の時だけ言葉が変わる。


「同じ」


 ハッとして振り返ると、また女は「違う、違う」と繰り返していた。


 一体なんだ? 家に帰って、考える。何故俺の時だけ「同じ」だと……?


 それからしばらく、やはり女の横を通る度に「同じ」と言われた。俺の時だけだ。

 俺はお前みたいにホームレスじゃないし、女でもないぞ?

 まったく。なんで俺だけ。




 そして明くる日。少し残業で遅くなり、回りの人はまばら。定期を出すのに手間取り、あまつさえ落としてしまい、拾い上げた頃には、乗客たちは遥か先まで行ってしまっていた。


 いつもの階段までくると、うずくまる女が一人。いつもの風景なのに、一人だけとなると多少ゾッとする。道を変えたらかなりの遠回りになってしまう。


 覚悟を決めて階段を上る。女は何も言っていないが、俺が横を通ると口を開いた。


「同じ」


 背筋が冷たくなる。そのまま通り過ぎたが、ある程度上ったところで足を止めた。そして振り返ると女の小さな背中が少しばかり遠くにある。


 そこで聞こえるように言った。


「おい、ばーさん。何が同じだってンだ?」


 すると女は怯えるように振り返った。

 襲われでもしたら怖いが、怯えていることに気持ちが大きくなる。少し近づいてもう一度聞く。


「なにが俺とばーさんは同じなんだよ?」


 女はボソボソと答えているが、聞き取れない。俺はすぐ近くによってもう一度聞いた。


「一体、何が同じなんだ!?」


 すると女の声が聞こえた。


「同じ、同じ、同じ、人間──」


 俺は呆れた。ため息をついて家路についた。そんなの当たり前じゃねーか。







 そして女は今日も繰り返しているが、もうどうでもいい。


「違う、違う、違う、違う、違う──」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 色んな解釈ができる物語だけれど、何時の間にか「違う」存在に取り囲まれているという不安、時々感じます。 [気になる点] 特にありません [一言] 「ゼイリブ」の恐怖を思い出しました。
[良い点] 同じなのが正常なのか? 違うのが正常なのか?  答えが出てないところが怖いです。
[良い点] はたしてどちらが正常? そこは読者にお任せ。 リドル・ストーリーで、F・R・ストックトンの『女か虎か?』を彷彿させます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ