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異世界に願いを  作者: 妖精1号ちゃん
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004

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 人の国、ヘルシャ。


 魔王勢力に対抗するべく区画された軍事区画、その一区画の塔の一室にて。


「所長!妖精の森でロケーションの魔道具のシグナルが全て消えました!」


「最初の消失から14時間だったか。消失箇所の個数は?」


「8か所になります!」


「消失事象の一番初めの点は割り出せるか?あと事象の広がる速度も出せたら出してくれ」


「サンプルが少ないので難しいですが、事象の発生地点は妖精の森のほぼ中心です。おおよそ時速で40㎞になります。事象は綺麗に同心円状に広がっています!」


「なるほど、速い騎馬隊の進軍速度だな。発生点から観測点に真っ直ぐ行って調査員を無力化すれば可能、と言う所だな。何度も同じことを聞いてすまないが、調査員は何か異常事態を知らせる信号は出してないんだな?」


「うーん、そうですね。強いて言えば3人、現地の弱小魔物と交戦の信号を飛ばしてから、数秒以内にロストしています」


「見かけは弱そうな魔物、それも脅威として信号を飛ばす必要も無さそうな魔物らしき存在に秒殺されたという可能性はあるわけだな」


 室内に緊張が奔る。


「その魔物らしい物は、この森の中心から物凄い量あふれ出し、外に外にと広がりつつ、途中遭遇した手練れの調査員を瞬時に無力化して居るわけだ」


 誰かがごくりと喉を鳴らした。


「しかし、この森は広い。あふれ出す存在が余程大量であるか、超遠方から探知できるのか、あるいは魔物を生み出す波動の様なものが時速40キロで広がっているのか…」


「そんな」


 誰かが悲鳴のように呟く。



「現刻を以って、妖精の森の異変を『妖精の森事変』と呼称する。暫定的に『妖精の森事変』の発生点、つまり妖精の森の中心点に『破滅級存在』が発生したとする。事態移行について何か異議がある者は申し出よ。1時間後、正式な認定とする。各自関係データを纏めてくれ。休憩はこことトイレ以外、外に出られないが我慢してくれ。では各自、作業せよ」



 ====



 ヘルシャ共和国が各国に、妖精の森にて『破滅級存在』出現を公表した頃、妖精の森近くの開拓村や農村で異変が発生していた。


 小さいながら強力無比なゴーレムの大群が、あっという間に村々を制圧したのだ。


 村の有力者、村長や開拓団長、屯田兵や駐留していた帝国軍、森の調査団などは全て音信不通になった。


 村が制圧される時、その様子を見ていた者が、魔道具で発信し発覚した。貴重な情報を伝達できたのだ。


 中小型の脆そうな見た目のゴーレム多数による大侵攻である。


 推定、破滅級存在発生の翌日、世界各国はその存在の勢いと危険性を知る所となった。


 なお、ほとんどの伝令は生きて帰ることができなかった。ゴーレム軍の進行速度は、時速40キロ程だが、ゴーレムの瞬間的な移動速度は80キロメートルを超える。


 ゴーレムが走って追いかけてくるのではない。逃げる先にゴーレムが居るのだった。


 枝に葉っぱが付いた形のゴーレムを大きなゴーレムが投げるのだ。


 逃げる伝令の先に優先してゴーレムを投げてしまえば、ゴーレムの制圧範囲はいとも容易く伝令を取り込むように広がるのだった。




 ゴーレムは妖精の森周辺の村々を制圧下に置いた後は勢力を広げるのを止めて、その境界の封鎖に努めた。



 ====



 妖精の森はフィルフォード山脈の麓から広がっている森林である。


 フィルフォード山脈を短く横断できる渓谷の向こう側にサガル正教国がある。


 フィルフォード山脈から流れる東フィル川の向こう側にバイカル王国がある。


 そして妖精の森から緑地続きで、現在妖精の森を開拓しているオスド帝国。


 妖精の森はこの三国に囲まれている。




 バイカル王国の通商外交をする屋敷に、各国から妖精の森の異変の調査に来た調査団兼、使節団が集まっていた。



 オスド帝国の開拓の橋頭保として建築された要塞が一番近く相応しいのだが、最新の要塞である事、国境に近い事、機密漏洩などを理由にオスド王国が渋ったため、各国とは中立を標榜しているバイカル王国に集まることになった。




「えー、本日はお集まりいただきありがとうございます。バイカル王国の外交大臣の補佐をさせていただいております、ハリスと申します。

 妖精の森とその周辺にて何らかの異変が発生し、現在は森周辺の村と連絡が取れない状況となっています。


 妖精の森はここにお集まり頂いた皆様にとって、資源としても、開拓先としても重要かと存じます。

 つきましては、各国が個別に今回の妖精の森の異変に当たるよりも、足並み揃えて対応する運びになりました。では、各国、一団の代表者の方は簡単に自己紹介をお願いしますが、まずはバイカル国の軍部からお願いします。バイカル軍遠征特務部隊、隊長トーマ殿」




「ご紹介頂いた特務部隊の隊長のトーマだ。ここに集まった諸兄らの国でもそうだと思うが、とにかく人と連絡が付かないし、誰も帰ってこない。生半可な事態ではない。


 ここは大河を挟んでいて無事だと思うが、各国の問題解決の努力に対して協力は惜しまないつもりだ。ただ、無理に調査を強行するつもりはない。ウチとしては情報収集を第一にする。以上だ」




「では、次は私が。

 ヘルシャ共和国の人類補完局局長のヤスベイだ。今回の事態の情報補足、そしてバイカルでの対策本部設置を提唱させて頂いた。

 今回お集まりいただいた各国諸兄らに感謝すると共に、本作戦に関して人件費、食糧費、装備費用などある程度補填させて頂く。また、人類対魔族についての争いに関して、ヘルシャは援助を惜しまない。


 さて、今回の妖精の森の異変だが、通信の魔道具にて先刻通達したとおり、ヘルシャは今回の事変を『妖精の森事変』と呼称し、その原因となる存在を『破滅級存在』と認定した。

 つい先刻に占星部の少なくない犠牲と引き換えに、この『破滅級存在』は『デク』と呼ばれる木の人形のゴーレムである事が判明した。これは妖精『イラ』の使役体だ。この妖精『イラ』をここで新たに『魔王イラ』とする。正真正銘、魔王として扱う。

 ついては本件によって難民となった民の受け入れと救済、対策への物資・資金援助、主要な魔王勢力の討滅への褒賞拠出を行う。今回の集まりもその流れと思って頂きたい。

 さて話を戻すが、妖精の『イラ』が本件の大本の原因と見て間違いない。驚異的な事に、この妖精は非常に弱い。そこら辺に居る妖精と同じ程度の戦闘力しかないらしい。

 つまりはゴーレムの包囲網を突破して妖精の森中心に到達さえできれば、『イラ』を討つのは容易という事だ。本作戦は如何にして森の中心に到達するかが肝要になる。


 現在ヘルシャの対魔執行部隊は魔大陸で作戦中だ。本作戦の為に呼び戻すには時間がかかる。できればここに集まった諸君らの武力でもって成し遂げていただきたい。以上、情報の関係上先に話させて貰った」




「オスド帝国の妖精の森周辺の開拓を執り仕切っている、ドゴル辺境伯騎士団団長のジャバだ。

 開拓村を含めた地域の治安維持をしている、普通の領主お抱え騎士団の団長だ。正直魔王が相手なんてのは今知った。戦力的には当てにしないで貰いたい。

 妖精の森の地形だとか、この中心へのルート選定だとか、人足や兵站の確保などであれば協力できると思う。帝国と仲良くできないって奴は多いとは思うが、まぁ今回はよろしく頼む」




「サガル正教国の司教のエリアスです。異教徒がどれだけ苦しもうが知ったことでは無いですが、ヘルシャの魔王認定とあっては対処せざるを得ないので会議に出席させて頂きました。

 皆さん森の中心まで分け入るおつもりでしょう。私としてはこんな広い森の中進むとか嫌すぎます。

 皆さんが決死の出発する前に、聖祈祷現法(宗教的な大規模魔法)で滅却できるか試させて頂きますね。無理だったら森に入るのは遠慮させて頂きますのでよろしくお願いします。


 あぁ、国として後方援助の労は惜しまないですよ。負傷者の治癒など積極的にやらせて頂きます。それも負傷者がここまで生きて帰ってこれれば、ですけどね。その様な指針にて対応します。皆様、よろしくお願い致します」




「俺が最後かな。勇者国イロハニの二級勇者のヨシュアです。魔王と言えば勇者ですが、今回の魔王さんは下馬評だと戦闘力は最弱っぽいですがヤバい気配がビンビンします。俺二級勇者なんで、まず勝てないので行く気がしないです。申し訳ないけど。

 皆さん知ってるかと思いますが、和名持ちの特級勇者とか召喚勇者は、ある程度非の打ち所の無い"被害"が出ないと来ません。俺は先遣隊です。ここで魔王勢力が出てきたときに皆さんを一秒でも長く生かして逃がして死んで、それを以って強い勇者が来ると思ってください。今ざっと紹介聞いた感じだと、正直魔王討伐無理そうなんで、下手に刺激しない方が良いんじゃないかな~と思わなくもなかったり…いや、なんでもないっす。じゃけんみんなでがんばりまっしょい。蘇生の準備は十分か!

 あ、つい癖で。


 俺は祖国で蘇生準備してあるので、森に入るのもやぶさかでは無いです。ただ、蘇生したら場所は本国だし、暫く弱体化して使い物にならないので本作戦への協力はそれっきりになります。作戦の配置の指図は受けますけどその辺を考慮の上でよろしく頼みます」



「はい、バイカル王国のハリスです。各国代表の方の自己紹介は一通り終わったという事で問題ないでしょうか?

 えーでは、新しい情報も出ましたので、一度整える時間を設けたいと思います。昼食休憩を挟んで二時間後、再びこの会議室にて、今度は問題解決の具体案の詮議となります。みなさま、午後もよろしくお願いします」




 午後の会議、作戦実行の長が新たに加わっての物となった。



 大きな動きもなく、どの国も全力を出そうとしてないのが明らかであった。


 他国を意識しつつの小手調べ、このくらいの協力であれば義理を欠かないというラインを模索している。

 厄介払いの二軍の部隊、金雇いの傭兵を威力偵察に、経験を積ませたい部隊には後方支援。


 如何にして犠牲を少なくするか。そして他国に犠牲を押し付けるか、隣国を出し抜くことばかりを考えている。あまつさえ都合の悪い情報は伏せている国もあることだろう。




 そうして、川を渡る羊達が選ばれた。それは邪神に贄を捧げる儀式の様であった。



 傲慢なる人類の総体を成す国家と社会は、そうせざるを得ない。



 人類全体を考えれば、人類はそれ以外全ての生物を駆逐しながら絶え間なく広がってきた。

 強力な魔王であっても、人類全体にとってはさしたる脅威とならない。

 その意味で、人類は一度も敗北したことが無いと言えるかもしれない。


 故にそれと戦う選択をしてしまった。


 後世の歴史で人類最大の失敗と言われる決定がなされた。

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