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異世界に願いを  作者: 妖精1号ちゃん
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001

不定期更新。ほぼ自己満小説です。

刺さる人には良く刺さる感じではありそうですが、決してメジャーではないでしょう。

一話は癖を凄く出したので、これが無理ならたぶん合いません。

これが合うなら2話目以降も読んでみると良いかもしれません。

001


 人が生まれ、そして死んでいく。


 人生に満足して死んでいく者はどのくらい居るのだろうか。


 ほとんどの人間が、自ら死を選ぶ程は最低ではないが、されど満足には程遠い生活を送っていく。

 いつか報われると信じながら、だけどそんなことは無いと諦めながら、ただ今日を死ねずに生きていく。



 そして病気や老衰、あるいは認知症とは既に死に体と言えるかもしれないが、いずれにしろ無念のうちに死ぬ事だろう。




 性善説と性悪説というものがある。

 未だに人はどっちなのか議論されるが、物事の距離に拠ると言わせてもらおう。


 例えば学友を考えよう。

 友人と部活が違う場合は、競技大会はお互いに応援できる距離だが、同じ部活であれば選抜枠の席を取り合う敵同士になるだろう。クラスの美少女とどちらが恋仲になるか、あるいは他校の女子を狙っているのか。志望校に推薦で入るのか、勉学の成績で入るのか。

 目的が遠くの距離であれば同じ方向目指して共に走れる。

 近くの距離であれば、自分は右に、相手は左にぶつかる様に走るだろう。そして近い物は大抵1人分~数人分しか報酬が無いのだ。


 難しい事はない。端的に自分の利益を物差しにしているだけのことである。性善の時も性悪の時もある。人間どちらかに割り切れる物ではない。


 何事も他人に譲る如何にも性善な人間にも純然な理屈がある。要は経験的に即物的な利益を取るよりも、少しの譲歩で得られる好印象を将来の自分へ投資しただけの事である。


 性善な当人は普段からその様な事は考えてはいない。良い事をしたら気分が良い、相手の笑顔を見れて充実感を感じるなどという短絡した反応によって、自身の条件反射に類する報酬に繋がっている。


 個人的に嫌いではあるが、生物の全ての行動や性質は自身の遺伝情報をより多く残す事で説明できる。


 つまりは衝動的に美少女を強姦する事と、仏の様に他人に尽くす事は自身の遺伝子を残すための努力としては同じ方向性の努力とみる事ができる。


 もう一度距離の話をしよう。


 地球温暖化について対策する事。これは全人類、もっと言えば地球生物全体が改善に向けて同じ方向を向く。これの積極的解決は性善である。対象は遠い。みんな同じ方向に走れる。


 金を稼ぐこと。一見して皆同じ方向に走れる気がするが、金とは一つしかない物である。

 詐欺にて得た金は詐欺にて騙し取られた金である。

 金稼ぎは善行とは言わないだろう。ただ、悪とも言いにくい。

 結論から言えば、労苦あたりの稼ぎが平均以上なら悪、平均以下なら善である。


 労苦の算定は非常に難しい所ではある。


 一例を挙げれば、派遣労働でゾンビの様に死んだ目をしながら建設現場で働く作業員は、仕事量に対して低い賃金で働いて貰っている善人である。

 浮いた金がどこかに行く。

 貧困地域の孤児の食料を買う様な良い事にも使われるし、どうでも良い書類を右から左に流すだけで大金を貰っている悪人にも流れていく。



 善行を強いる社会という巨悪は善人という奴隷を量産し、利益を利権者に吸い上げる。


 善行とは社会やその上位者に利益を献上する事である。大体が善行者の利益が薄い。

 悪行とは社会やその上位者の利益を奪う行為である。


 善人とは善行を行う者であり、悪人は悪行を行う者であれば、社会の上位者は悪人だけである、まぁそれは言い過ぎかもしれない、―少なくとも善人ではない。これは正しい。


 違うというなら一年生活できる資産を残して余剰分は全て恵まれない子供に寄付して、求人割れしている仕事に就いたら良い。

 嫌であればそれは善行を拒んだ訳だ。

 極論の様でいて、よくよく思い返すと見て見ぬふりが多いのではないだろうか?

 最たるは給与とその他労働条件の格差である。

 集中力などの問題があるにせよ、極めて集中力などの要る手術などは準備時間を設けて均らしたとして、全ての職業は労働時間あたり最低と最高で2倍を超えるのはおかしいだろう。

 特に肉体労働や危険な作業は、寧ろ専門性のある頭脳労働と同等かそれ以上であるべきだろう。

 過酷な現場が最低賃金なのだから、殆どの安全な事務作業的な仕事は適正価格が最低賃金の半分程だろう。

 まぁそれだと法律に矛盾するので、今現在の最低賃金の危険な肉体労働を二倍の賃金。上位者の労働は今の最低賃金より僅かに上としよう。それが適正だ。


 おかしく思わないのは自分が悪人とは思ってない悪人である。一番始末に悪い誰も笑えない冗談にもならない事である。

 社会とは、冗談ではない悪の構造である。


 それは、社会的な生物の営みに避け得ぬ構造的欠陥と割り切れば、それまでの事ではある。


 が、その想いの嵩を考えると薄ら寒くなる物がある。

 社会は一体どれ程の酷虐をバラまいているのか。

 ストレスなどというマイルドな表現では表せない。

 ストレスというのは事故的な扱いをされる。

 ストレスがあって辛いですね~。仕事やっていればしょうがないですね~。

 違う。

 全く事実を見ていない欺瞞的な表現である。



 ストレスは与えられる物である。

 与えた相手が居る。

 そして、それは故意である。

 つまり、殆どがハラスメントであり、加虐や攻撃とも言い表せる。


 驚くべきことに、これは違法状態でも犯罪行為でもない。


 ストレスの計量をして、その人間が受け取った分と与えた分を再分配するのであれば、所得の多い層は全員悶死するだろう。何十回と死ぬ人も居るだろう。


 つまりは大多数に毒を盛って大量殺人を起こしたのと同等の悪である。今のところ無罪であるが。


 最近はニュースで怨恨や強盗殺人などが目立つ様になったが、全然少ない。己を殺して我慢している善人がまだまだ多いと思うばかりである。




 社会構造の上位に占める者たちは、下民のそれを顧みてないであろう。


 今日食べた肉の元となった動物のを肉にする際の動物の悲痛だの、それを実行する人間の労働環境などを考えたりしない。

 トイレを使っても下水道の処理について自分がやろうとは思わない。思わないが、それを好きで仕事にしている人間も居るんだろうな程度に考えているだろう。


 彼らも薄々気づいてはいる。


 自分は不当な搾取によって積み上がったの塔の上で、大きな下手をしなければ一生、あるいは子々孫々まで塔の上層で苦労なく過ごせる立場に居る。


 他の上位の人もそんなことは分かりつつ切り捨てている。

 逆に、塔の下の土台を叩けばより自分の地位は盤石になるとすら思っている。


 その土台に押し込まれて小さくなった石を取り出し、塔の上位に持ってくる行為は唾棄すべき背信行為である。

 ここで言う信とは、自分の立場が努力に応じた適切な物であり公明正大という事だ。


 汚くて重い石など土台から持ち出したら土台は脆くなるし塔の上部の重量も増える。

 その様な事は上層の住民として許容できない。

 よってその背信の咎人は、上部の住民全員で叩き落とす事になる。


 下手な事、とはその様な事だ。




 塔の上には地上の怨嗟など届かない。下を見ようとしなければ自分の周りには豪華絢爛でなんの心配事も無い生活が送れる。それでいい。



 ====



 人とは救われないヒエラルキーを宿命づけられた生き物である。


 とある世界の超常的な存在はそれを均そうとした。


 魔法を布く。


 魔法とは感情の大きさに比例して効を成す。


 誰でも成り上がるチャンスを。


 危険には対価を。


 怠惰と傲慢、権威と保守には疑念を向けさせた。


 ダンジョンという構造物、その中には野生の生物に優越する凶悪なモンスターが居る。


 救われぬ者、持たざる者にも救済の機会を。


 妖精、魔法生物が人を助ける事もあるだろう。


 特に非業から抜け出せぬ者達を。



 ====



 ある都市で娼婦が子供を堕した。

 普段から避妊薬を常用しているが完全ではない。その娼婦はまだ働く意思があった。子供は嫌いではないが、職を辞めて子供を育てる蓄えは無かった。


「ごめんね」


 穴を掘り、未熟な胎児を埋めて、娼婦は最後にそう投げかけた。




 ある山村は冬前にして食糧不足であった。

 借金奴隷として女子供を売り、それでもまだ足りない。

 ある女が双子を産んだ。産婆はすぐに判断した。体の小さい泣き声の細い赤子を湯桶に沈めた。


 「すまんのぅ」


 胎児の墓所で産婆は懺悔する。



 ====



 失意の内に死んだと思った。


 貧しい家庭で、親も粗暴で自分を愛さなかった。


 若い頃はなんとでもなると思った。


 でも努力も才能も足りなかった。


 どうせ何やってもダメなんだろうと思った。


 30歳フリーターの安アパート暮らし。初めて風俗でセックスしたが、相手に見下された気がした。


 そのまま死のうと思った。


 トイレで練炭を炊いて寝た。


 寝苦しいような感覚を最後に全ては終わった。



 ――あきらめないで――



 死後は安らかなる茫漠の闇を揺蕩うのかと思ったが、意識が続いていた。



 視界が開いている。


 森林の樹幹だろう。


 自然風景のテレビ番組の映像みたいだった。


 どうやら大樹の枝の上に立っている様な視点である。


 自分の体を見る。人をデフォルメした人形にファンタジー風の服を着せた様である。背側、視界の端に虹色の翅が見える。


 「ようせい」


 声は舌足らずの子供の声である。股間を確認してもなにもついてなかった。生殖能力は無いのだろう。妖精は生物では無いようだ。少なくとも俺は。


 惨めになってくる。


 これ以上俺を苦しめないでくれ。

 終わりたいんだ。


 クラスで一番かわいい女の子と処女童貞でお付き合いしてらぶえっちできれば良かったろう。


 そうでもなくても、まぁセックスしてみたい女の子は居ただろうから猛烈アピールすれば恋仲に成れただろう。


 でもそれをせず、風俗に行ったんだ。


 別に若い頃に性に興味が無かった訳じゃない。風俗での代償行為で、未成年時代の渇きを埋める事はできない。逆にその渇きを強く自覚する羽目になる。



 異世界転生。



 だから、なんだというのか。


 仮にここで万事上手く行ったとして、万年底辺人生の挙句自殺した俺が救われる訳じゃない。


 幸せに笑ってそうな奴すべて苦しめ抜いて殺したい。


 そうする事でやっと少しは渇きを忘れられるんだろう。少なくとも前に進める。


 だから、この意識が続くのであれば前には進めない。超常的な何者かが俺を転生させたのかも知れないが。俺は認めてない。



 清算してからにするんだな。



 苛めっ子がさんざん虐めた子にこれからは虐めないからそっちもヨロシクしてくれよ。

 と言っても滑稽なだけだ。

 せめて指でも詰めたらまぁ考えても良いかなというくらいだろう。



 世の中の虐められている人に聞いてみてほしい。

 どうしたら許してくれるか?と。



 これから仲良くしてくれるなら許すという人はほとんどいないだろう。実際は口ではそう言うかもしれない。しかしそれは結局は世間の体面を気にしての事だ。


 本当であれば苛めっ子とそれを許容した周囲の人間の致命的な不幸を鑑賞したい。それこそ家族含めて悲惨な目に合うくらいのやつが見たいのだ。


 それが清算というものだ。



 世界だか神だか知らないが、俺の過去の不幸の意識が残っている以上それを清算しないでもう一回やり直そうというのは虫が良すぎる。


 感謝どころか殺意すら沸くというものだ。


 さて、どうやって死のうかな。




 ふと、背中から抱きしめられた。


「だめ、さみしいの、だめ!」


 俺は緑ベースのカラーリングだが、ピンクベースのカラーリングの妖精が抱き付いてきたようだ。


「……」


「わたしがいるから!」


 妖精というのは感情を直接読み取れるらしい。この妖精からは段ボールに置かれた子猫が、飼い主に縋るような感情が伝わってくる。


 まぁ、保留はしてやろう。


 俺は虐げる者を決して許さない。


 人を陥れるような行動ができればもう少し良い思いを前世では送れただろう。


 だけど、それだけはできない。


 どこかで人生を清算する場面があったとしたら、俺はそこで何の落ち度も認める事無く、ズルして人生楽してた奴らを弾劾したい。


 流石にこんな妖精を置いて逝くのは憚られる。


 俺の死ぬ意思が弱まったのを察したか、ピンク妖精は体を放してくれた。


 改めて見てみるとかわいい。


 ニコニコして、人生とは良い事で溢れているのだと全身で表現しているようだ。


 でも俺の眼には映るようで映らない。

 どこか遠くの出来事の様だ。

 物語の桃源郷をVRで再現してみました。みたいな事だ。他人ごと様に意識の表層を滑っていく。



 ゲームやVRでいくら逃避しようが、現実ではVRに費やした資金と時間がキッチリ減算された現実が待っている。


 俺は死んだんだ。所詮これは走馬灯みたいなものだろう。


 この大木の洞に妖精の部屋ができていて、このピンク妖精の部屋に手を引かれて案内された。


 うまく抜け出して一人で死ぬ方法を考えていると、気づけば何か出していた。

 出すと脳髄を快感が奔る気持ちの良いなにか。どうやら然るべき条件で妖精も生殖行動っぽい事ができるらしい。


「わたしをみてよぉ~!」


 彼女は泣いていた。


 俺を引き留めるために何か気持ちいい事してるのかと意識を閉ざして考え事していたが、流石に意識が戻ってきた。


 二回戦をしてみた。すごい気持ちがいい。

 妖精ってのはかわいいので性的な満足度が凄い。ロリコンは妖精に成れたら満足だろうな。


 ……。


 まぁ、彼女が俺に構ってくれているうちは死ぬのは待ってもいいか。



 そう思うと、意識の表層を流れていた世界に色が付いた様な気がした。



 空気の質感。

 光の陰影の中で生命のうねりを体現するかのような樹皮の凹凸。

 簡素だが人形の部屋の様な整った部屋の内装。

 木綿のシーツのベッド。

 魔法の光のランタン。

 跳ね上げの木戸の窓。

 小さな木の桶に植物が植わっている。

 箪笥。

 映画のセットみたいだ。



 そして妖精の彼女。



「きみはなんていうの?」


 彼女は万遍の笑みで答えた。


「マリー!あなたは?」


 おれの名前か、流石に前世の名前は嫌だな。


 うーん、イラにしよう。憤怒だったかな。


 大罪はそもそも死に至る原因になる感情をピックアップして並べてみたくらいの意味なので、何とも言えない。


 どちらかというと俺は怠惰のアケディアなんだが。


 流石に宗教者も自分たちが虐げてるからお前たちは死ぬんだとは言えないからな。

 貧民は怠惰だから死ぬんだとか、なんだかんだと理由を付けるわけだ。


 最近のキラキラした感じの設定の大罪に倣って、俺の憤怒で全て燃やし尽くしてやるよ。


「……おれは、イラだ」


「イラ、イラ」


 彼女は、マリーは俺を抱きしめて寝息を立て始めた。


 マリーの寝顔を見て、頭を撫でていると俺も意識が遠くなっていった。

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