完成
「出来たっ!」
PCの前で、彼が声を上げた。
「どうかな?」
「どれどれ」
俺は、彼の後ろから、ディスプレイを覗き込む。
「…………」
覗き込んで、絶句した。
これはひどい。
誤字・脱字・文法間違い・句読点の打ち間違い、
もう、何処からどう突っ込んで良いか分からない。
そもそも、日本語の様相を呈していない。
これなら、うちの妹が、小学校低学年の時に書いた読書感想文の方が、まだ何ぼかマシである。
この人、一応、義務教育受けて、高校卒業したんだよな……。
よく、現代国語の単位、履修出来たな。
俺が担任なら、単位を出さない。
て言うか、卒業させない。
セツさんは、キラキラした瞳で、俺を見上げて来る。
その目は、「どう?どう?」と、全力で訴え掛けている。
そんな純粋な瞳で、見詰めて来ないでくれ……。
本人は、ウッキウキで楽しそうだし、
別に、プロ作家を本気で目指す訳でもあるまいから、
ここで辛辣にダメ出しするのも、大人気無いだろう。
何とか、褒める所を探さないと……。
俺は、自分の持つあらゆる限りの語彙を駆使して、褒め言葉を脳内検索した。
「……セツさんらしくて、良いんじゃないですか?」
「そう?我乍ら、初めてにしては、よく書けてると思うんだよね!
よし、もっと頑張る!」
彼は、気を良くして、再びキーボードを叩き始めた。
まぁ、これで、幾らかストレスが発散出来て、機嫌良くしててくれるなら、安いモンだろう。
俺は、特に口出しせず、放っておく事にした。