進展?
ルークとの実際の距離は縮まっていないが、少しずつ自分が成長できていることを感じていた。
今まで友達が少ないことや、異性と話す機会が少ないことをなんとも思っていなかった。
大好きなカレンとお茶をして、ルークを想って過ごせればそれだけでよかった。
それだけでも幸せだったけど、世界が広がると大事なものがより大事に、大切に思えるものなんだ。
(改めて気づけた大事なものを守るためにも、少しでもルークに見合う淑女になれるよう頑張るしかないわ。)
フリッツからの報告を受け、よりそう思った。
自分がこんなんだから噂が出回り、ルークにも迷惑がかかっているかもしれない。
助けてくれるみんなのためにも、そして自分自身のためにもやっぱり変わるしかない。
もう言い訳なんてしない、そう強く決意した。
「最近のシルビアはよう頑張ってんな〜。俺らの学年でも結構人気?出ちゃってて。ほら、マドラージュ殿は謎の美女とまだいるじゃん?不仲なのは昔からだけど、婚約破棄目前って感じで兄貴のルイスに紹介しろ〜って話がしょっちゅうきてるみたいよ。ま、ルイスは信じられないシスコンだからな、よく人が投げ飛ばされるのを最近見るわ、ははは。」
庭園の奥まったスペース
今まではシルビア含めた3人で秘密会議をしていたのだが、今日はシルビアはいない。
シルビアは他生徒にお茶に誘われてしまい、今回は不参加なのだ。
「他の生徒からお茶に誘われるし、教師からも評判いいみたいだし、来年の生徒会入りは確実かな。そうしたら、ルークが会長だしちょうどいいかもね。」
いつも通り軽薄そうに話すフリッツ。
「…私はシルビアの変わってきているところはとても素晴らしいと思っています。親友としてその努力はずっとみてきましたし、最近の彼女はとても楽しそうです。ですが、どうにもルーク様とうまくいくのかというとなんか違うような気がしてきたんです…。」
「おー、奇遇だね。それは俺も。だってさ…」
「「ルーク(様)はシルビアを避けている」」
「…ですよね…。」
「理由はよくわからないけど、多分そう。今なら挨拶できるかもしれないってシルビアが言うから俺が一緒について行ってやったのよ。学年違うのに突然いくとね、おかしいからさ。すごい自然な感じですれ違いそうだったのに、結構あからさまにルークが避けてさ。いや、俺からすると面白いけど、シルビアのショック具合がね。ただ、なんかブーストかかってるのか、「まだ私の努力が足らないんだわ!」とか言って自分の教室に戻ってったわ。なんか、二人とも変になってきてる?」
「私もシルビアと一緒に歩いていた際に同じような状況になり、一瞬身構えたのですが、ルーク様が進行方向をあからさまに変えられて…。シルビアは特に気にしていないようだったのですが、今までこのようなことがなく、どうしたらいいものかと。」
「それでシルビアがお茶会に連れ出されてる時に俺に声かけてきたのね、なるほど。」
異性とも同性とも分け隔てなく話せるようになり、委員会活動や教師からの頼まれごとも積極的にこなすようになったシルビアは元々の見目の良さもあり、校内でもジワジワと人気が出てきていた。
今のシルビアなら、ルーク・マドラージュの婚約者としてなんの問題もない。そのはずなのに、今度はルークがシルビアを避け出したのだ。
二人をしっかりとみている人間でないと流石に気づかない変化ではあるため、校内で噂になったりなどはない。そもそもルークも馬鹿ではないので周囲にわからないように避けている。
「いや、これは流石に俺もわからないね!てことで、この話だろうと踏んで助っ人を用意しときました〜。さ、いこ。」
フリッツに唐突に連れて行かれたのは学園の生徒会室。
なかなか近寄ることがない場所に連れてこられたことでギョッとするカレンだが、そんなことは一切気にせずフリッツが勢いよく入る。
「やっほー、お待たせ!」
「し、失礼します…。」
雑な感じに入るフリッツとは対照的に、身を縮こまらせて恐縮しながら入室するカレン。
ヒィと声が出るのではないか、と思いながら部屋を見渡すとそこには謎を解くためには必要不可欠な人間が揃っていた。
「遅いぞ、フリッツ」
そこらへんの女子を寄せ集めても敵わないだろう見目の美しい美女、否、美男子ナリス・ガーランドがいた。
「へーへー、ごめんて。でも、しょうがないじゃん。ナリス、目立ちすぎるんだもん。いつもの場所に来て欲しかったのにさぁ。」
フリッツの交友関係にも驚きだが、いざ目にするとナリスは美しすぎた。
(これは噂が流れても致し方ないわ…。)
少しポーっとしていたカレンだが、フリッツに席を勧められおずおずと席についた。
「…で、ルークの様子が変だって話だっけ?」
「そうそう、なんかシルビアを避けてない?あいつ、拗らせすぎてルークに自分の気持ちと真逆の対応しかできなくてさ、それ克服しようと頑張って結構効果出てきてるのよね〜。だから、シルビアもあいさつだけでも交わしてみたいんだと。まともな会話したことないから、ルークと。」
知らない人間に聞かれたらなかなかにまずい内容だが、事実である。
ナリスは、はぁとため息をつきながらフリッツを見やった。
「俺、シルビア嬢の今までのルークへの暴君具合、全く許してないし、なんならこのまま婚約破棄して欲しいぐらいなんだけど。ルークを幸せにしてくれる子がもっと他にいるはずだし。」
「それも知ってる。ルークへのことはシルビアも反省してるんだよ。だから、入学前の何年間かは会ってもないだろ?会うとひどいことを言ってしまうって、だから会わないって言って幼少期にもらったルークの姿絵を大事そうに見ながら過ごしてたよ。本当は会いたい、話したいって、泣いてた。婚約者なのに、ルークの好きなものも何も知らないって。だから、俺とかがルークの話してやってたんだよ。入学したら嫌でも会うから頑張るんだって、今はそんな感じ。だから、せめて挨拶ぐらいさせてやってくんないかなぁ。」
後半にいくにつれて感情的になっていったフリッツ。
カレンも感情的なフリッツは見たことがなかったが、ナリスも同様のようだった。
フリッツに対して驚きを隠せないような顔をして、すぐ気まずそうに視線を外した。
「…事情は分かった。今回はひとまず俺の感情抜きにして答える。…ただ、実のところ俺もよくわからないんだ…。あちらが避けるのはいつものことだが、ルークが明らかに避けていてどうかしたのか聞いたんだが、別に何も、と。だから、婚約解消の手筈が整ったのかと思ってたんだが、ルイスに妹を紹介しろという輩がルークにもちょっかいかけたんだ。俺が大事にするから、みたいなそんなことを言っていたと思う。そうしたらルークが見たことのないような顔をして怒ったんだ。ルイスがぶん投げたから事はおさまったんだが、婚約解消もするつもりはなさそうだし、俺には何が起こっているかさっぱりだ。」
「ルークが怒ったの!すげーな、ガチじゃん。でもじゃあ、なん…」
ナリスからの新しい情報に集中していたフリッツとカレン、そして一人で困惑していた話を吐き出して肩の荷を下ろしていたナリスはドアが開いたことに気づかなかった。
そして、そのあいたドアの先にいたのは最悪なことに。
「俺が何に怒ったんだ、全く記憶にないが?ナリス」
ルーク・マドラージュ、その人だった。