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武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり  作者: もろこし


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17/22

第十七話 ソ連の参戦

■1945年6月10日 早朝

 戦艦武蔵 第二船倉

 中央通路前 機銃陣地


 第32軍から、救援部隊が一時撤退した事と米軍が読谷に上陸した事が伝えられた。


 これにより外部からの助けの望みが消えた戦艦武蔵では、なんとか独力で防衛するため戦闘指揮所こと前部機銃弾薬庫の前に二つの機銃陣地を築いてた。


 木箱や機械を積み上げただけの急造の防壁にどれくらいの防御力があるか疑問ではあるが、せめて小銃程度は防いでくれる事を猪口らは期待している。


 各陣地にはそれぞれ1基の単装25ミリ機銃が据えられていた。それを射手1名と装填要員2名が操る。


 その左右には38式歩兵銃を構えた兵士2名が控えている。各陣地は越野大佐と広瀬少佐がそれぞれ指揮をとっていた。


挿絵(By みてみん)


「いいか、あの隔壁扉が開いたらすぐに撃て。弾はたっぷりあるから遠慮するな。装填手は弾を切らすなよ。小銃班は機銃装填の間に援護しろ」


 右の機銃陣地を指揮する越野大佐が小声で指示する。


 1時間ほど前からは通路の先の方から英語の話し声や扉を開ける音がし始めていた。


 すでに武蔵の全乗員がこの部屋に退避している。扉を開ける者が居るとすれば、それは敵以外にあり得ない。


 この場所は艦内で一番奥まった場所ではあるが、敵が艦の占領を諦めない限りはいずれはやって来ると覚悟していた。


 そしてついに、目の前の隔壁のハンドルが回され、扉がゆっくりと開かれた。


「撃て!」


 越野の号令とともに、二つの機銃が火を吹いた。




■1945年6月10日 早朝

 戦艦武蔵 後部甲板

 Dirty Dozen中隊本部


「やっと見つけたか」


 報告を受けたライズマン少佐はすぐに問題の船倉甲板に向かうことにした。すでに外の敵の脅威は無くなったため、甲板には警戒と連絡のためのわずかな兵だけを残してある。


「はい。連中は対空機銃(AA-gun)を持ち込んで通路を封鎖しています。おかげで2個分隊がミンチにされました。申し訳ありません、軽率でした。今は攻撃を控えて様子をみています」


 道すがら、第二小隊長の中尉が不手際を詫びた。


「まあ起きてしまった事は仕方がない。敵の方が用意周到だった。我々が時間を掛け過ぎて相手に準備を整える暇を与えてしまったのだろう。減った兵力はじきに補充される」


 そう言ってライズマンは中尉に状況説明を促した。


 艦内で敵司令部を捜索していた第二小隊は、ある階層から下の甲板に降りる階段のハッチがことごとく開かない事に気づいた。


 下に降りれるのは艦尾側の一部のハッチだけだった。


 そこから降りた階層は船倉のようだった。細かく区切られた部屋には様々な物資が保管されており中央には広めの通路が走っている。


 中央通路以外の通路の隔壁扉はすべて溶接されていた。慎重に中央通路の扉を開けながら機関室を超えた所で分隊は銃撃を受けたという。


 狭い通路に列をなしていた兵士らにそれを避ける術は無かった。


 横のボイラー室に逃げ込もうにも、その扉も溶接された上にご丁寧にハンドルまで外されていた。


 発射された機銃弾は、重なった兵士も閉じようとした隔壁扉も関係なく貫通し破壊していった。


 こうして最初に発見した分隊と、戦闘音を聞きつけてやってきた分隊があっという間に壊滅してしまった。


 今や中央通路は血の海となり異臭が漂う地獄となっていた。




■戦艦武蔵 戦闘指揮所


「そうか、なんとかなりそうか」


 先ほどの戦闘結果を聞いた猪口はホッとしていた。


 なにしろこちらは全員が陸戦の素人である。思いつきだけで防衛準備を指示したが、猪口本人も効果があるかどうかは自信が無かった。


「はい。機銃は装弾数が少ないので、2基の銃座で同時に弾切れを起こさないように注意しています。弾はまだ十分ありますので当面は大丈夫でしょう」


 直接指揮を執った越野大佐が太鼓判を押す。


 25ミリ機銃の弾倉には15発しか入らない。発射速度は毎分150発であるため、引き金を引き絞ったままだと数秒で弾切れとなる。


「しかしあの機銃、敵機には力不足でしたが人に当たればとんでもない事になります……あんなものに撃たれる敵兵は少し可哀相ですね」


 一緒に指揮を執っていた広瀬少佐が頷く。顔色が少し悪い。


 非力、低威力で知られる九六式25ミリ機銃であったが、それでもその初速は秒速900メートル、射程は8000メートルにも及ぶ。


 対人戦闘で用いれば完全にオーバーキルとなる兵器である。ひとたび機銃弾が当たれば手足は千切れ、頭や胴体は弾け散る。


 おかげで戦場となった中央通路は凄惨な状態となっていた。その様子を見た兵士の中には気分が悪くなって吐いた者も多かった。


「陸さんの方の様子は?」


 すでに米軍が読谷と嘉手納の海岸に上陸した事は武蔵にも伝えられている。


 本来であれば上陸した敵に対して武蔵が砲撃を加える手筈になっていたが、それは米軍の潜入作戦により無効化されてしまった。


 このため米軍は何の抵抗も受けず無血上陸を果たしている。


「第32軍は宜野湾の北に敷いた陣地で数十倍の敵を相手に善戦しておりましたが、浦添(ここ)にも敵があがり始めましたので首里手前の防衛線まで退くとのことです」


 加藤副長が戦況を伝える。


 第32軍は野嵩から新垣にかけて築かれた陣地を最初の防衛線としていた。だが背後の浦添にも敵が上陸し始めたため嘉数の防衛線まで遅滞戦闘をしつつ後退を始めていた。


挿絵(By みてみん)


 善戦出来ている最大の理由は、反斜面陣地に代表される入念に作りこまれた陣地線と湿地の多い地形効果によるものだった。


 さらに武蔵の存在で集中配備できた砲兵部隊と、武蔵から供与された高角砲・機銃の活躍も大きかった。


 また砲戦部隊の敵戦艦が半減していた事も理由に挙げられる。


 高角砲は徹甲弾でなくとも敵戦車を1000メートルの距離で撃破可能であり、25ミリ機銃も武蔵艦内と同じ地獄絵図を地上に現出させている。


 すでに米兵はこの機銃を「ミートチョッパー」の異名で呼び、恐れるようになっていた。


「なるほど。ならばこちらも意地を見せてやらないとな」


 まあ限界はあるけどね、と猪口は笑う。


 敵が浦添にも上陸した今、第32軍が首里まで後退するとなれば武蔵は敵中に完全に孤立する事になる。


「はい。弾薬より食糧と水の方が先に尽きそうです。それに便所もないので衛生面にも問題が……保って3日と思ってください」


 加藤が顔を顰める。広いとはいえ、現在この部屋には200人を超える乗員が居た。


 まだ籠城を始めて半日しか経っていないが、すでに部屋には異臭がしはじめていた。


「それとGFからです。本日、呉から樺太に向けて第二艦隊が出撃したとのことです」


 第58任務部隊が沖縄に拘束されていた結果、呉は3月を最後に空襲を受けていなかった。


 このため大和や葛城をはじめ日本海軍の残存艦艇はおおむね無事だった。大和の修理も最低限は完了している。


「今度の相手はソ連か。まさに四面楚歌という訳だな……指揮は伊藤中将が?」


「はい。一航戦の大和と葛城、それに二水戦の矢矧と駆逐艦10隻で向かったそうです」


「葛城も?たしか格納庫は空だったはずだが……」


 現状、一航戦に飛行隊は無いはずだった。


 未だ空母は多数残っているが、それに乗せる艦載機・搭乗員はマリアナ・レイテを経て完全に払底していた。


 今では特攻目的の速成搭乗員がほとんどである。当然ながら離着艦などできるはずもない。


「搭載機は色々な所からかき集めて、搭乗員は松山の三四三空を載せたそうです。近場では一番まともな部隊だったそうで。それと我々が敵の機動部隊を拘束しているせいか向こうは多少余裕があるとか」


「ふーん、米軍がそんな温い真似をする訳ないと思うがね。それとも本当に手抜きをしているのかな……それならこっちの方の手も緩めて欲しいもんだ」


 猪口の予想は半分当たっていた。


 既に日本の敗戦は既定路線となっている。この時すでに米ソは戦後を見据えた行動を開始していた。


「しかしこちらが穴倉に籠っている間に、向こうは艦隊決戦か」


 猪口が心底羨ましそうな顔をする。


「まあこっちは先に戦艦を何杯も食わせてもらいましたから腹一杯です。もうこれ以上は食えませんよ」


 加藤副長がそれを混ぜ返す。そりゃ確かにそうだと猪口は笑った。つられて周囲の将兵らも笑う。


 状況は最悪で暗い話ばかりだったが、猪口らはなんとか最後まで士気を保とうとしていた。




■ソ連参戦


 ソ連は英国ダムバスター隊の失敗後、5月22日に日ソ中立条約を破棄し日本に宣戦布告していた。


 それはヤルタ会談で英米と合意した時期よりはるかに早い対日参戦であった。


「大口を叩く割に、米国も大したことがない」


 ソ連が早期参戦を決断した理由は沖縄での米軍の苦戦と、それに伴う対日侵攻作戦の大幅な遅れであった。


 これを見てスターリンは、ヤルタで約束された千島樺太だけでなく、あわよくば北海道の占領も可能ではないかと考えたのである。


 ドイツの降伏前からスターリンは対日戦争準備を進めさせていたが、さすがにソ連であっても対独戦が終わった直後では準備期間が足りなかった。


 このため十分な兵力集積ができないまま始められた対日戦は、関東軍が弱体化し準備も整っていなかったにも関わらずスターリンの思う様には進んでいない。


 しかも北海道で先に既成事実を作ってしまおうというスターリンの思惑から一部兵力を北海道上陸に振り向けたため、更に満州での攻勢戦力が減っていた。


 早期に北海道へ侵攻したいソ連であったが、元々弱体だったソ連太平洋艦隊はなかなか艦艇と輸送船の準備ができず、北海道侵攻は6月にずれ込む事となる。


 この動きは日本側も把握していたため、急遽大和以下の出撃が決定されていた。


 また、ソ連の突然の宣戦布告は、ソ連を仲介とした停戦交渉に一縷の望みをかけていた日本政府に最終決断を迫る事になった。


 こうして、日本、ソ連、そして米国の政治状況は急激に動いていく事となる。

武蔵のせいでソ連が史実より大幅に早く参戦してしまいました。おかげで米国は大きな戦略の変更を余儀なくされます。


ついに物語も終盤です。暗い話は好きではないので一応はハッピーエンドの予定です。最後までお付き合い頂ければ幸いです。


作者のモチベーションアップになりますので、よろしければ感想や評価をお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見事な防衛戦闘!。 ・・・でも、凄惨。 25mm機関『砲』ですものねー。 [一言] 戦後、武蔵の旧乗員と大和の旧乗員の間で、お互いをうらやましがる会話があったかも知れませんね。 武蔵「お前…
[一言] アクション映画や架空戦記だと猪口艦長無双っての作られそう。
[良い点] ソ連が攻めてきた。史実ほど準備が整っていないなかどうなるのか楽しみにしています
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