表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/85

83話 志望動機を教えてください。


 83話 志望動機を教えてください。


 センが生成した無数のジオメトリから、数えきれないほどの『実体のない、ユラユラしている影』が出現した。

 その影たちは、黒い涙を流しながら、ヒエンたちを睨んでいる。



「こいつらは、お前らに殺された魔人たちの残留思念。俺の魔力とオーラをつぎ込んで質量を与えているから、お前らに攻撃することも可能だが、テストとは無関係だから気にするな。――さて、それでは試験を開始しようか。まずは面接からだ。――あなたたちが、ゾメガの配下を希望する動機を教えてください」



 などと、センがチョケたことを言った直後のこと、

 残留思念たちは、いっせいに、ヒエンたちにおそいかかった。


「くっ!」


 襲い掛かってくる無数の思念達と全力で闘う影牢の面々。


 当然、影牢の面々の方が、資質的には上だし、実質的に強者なのだが、しかし、いかんせん、相手の数が多すぎた。

 それも、ただの雑魚ではなく、『怨みを背負った魔人』の連中なので、


「ぐっ……かはっ……ぐぅっ! くそがぁ!」


 ボッコボコにされてしまう。

 八方から遠距離攻撃をかまされ逃げ場がない。


 思念たちの手によってボコボコにされている間、ヒエンは、


(ぐっ……ふ……ふふっ……まさに、自業自得だな……)


 救われている気分になっていた。


(死にたいと思ったことはない……というか、死にたくないから、やりたくないことも全力でやって、必死に生きてきた……)


 そこで、ヒエンは自分の人生を思い返す。


 母が病気になって、延命させるだけでも莫大な金が必要だった。

 母は、常々『足手まといになりたくないから殺せ』と言っていたが、ヒエンは母に生きてほしかった。


 一人になりたくなかったから。

 だから、ヒエンは大金を求めて国に頼った。


 幸い、才能があったので、それを買ってもらえた。

 魔人の駆除係。

 やりたいと思ったことは一度もなかったが、一秒でも長く母と一緒にいられるなら、と、必死になって働いた。

 上に言われるまま、女性も子供も関係なく殺した。

 中には、身を挺して子供を守ろうとしていた女の魔人もいた。

 『どうか、子供だけでも助けてほしい』と泣き叫んでいた。


(……ああ……彼女だ……)


 思念の中に、『彼女』がいるのに気づいた。

 あの時、必死に子を守ろうとしていた女性。


 幼少期のころ、『飲んだくれの父』から、必死になって自分を守ってくれた母と重なって、どうしても、自分の手では、彼女を殺すことができなかった。

 幸い、すでに、チームとして動いていたので、彼女の排除はプッチに任せた。


「……すまない……」


 無意味な感傷だとは思いつつも、ヒエンは、その言葉を口にせずにはいられなかった。

 許されたかったわけではない。

 ただ、言わずにはいられなかっただけ。


「…………すまない……」


 心を殺して、必死になって、ヒエンは、どうにか母を延命させようとしたが、ある日、仕事から帰ったヒエンは、自殺した母の亡骸を発見した。


 涙は出なかった。

 心はすでに死んでいたから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ