83話 志望動機を教えてください。
83話 志望動機を教えてください。
センが生成した無数のジオメトリから、数えきれないほどの『実体のない、ユラユラしている影』が出現した。
その影たちは、黒い涙を流しながら、ヒエンたちを睨んでいる。
「こいつらは、お前らに殺された魔人たちの残留思念。俺の魔力とオーラをつぎ込んで質量を与えているから、お前らに攻撃することも可能だが、テストとは無関係だから気にするな。――さて、それでは試験を開始しようか。まずは面接からだ。――あなたたちが、ゾメガの配下を希望する動機を教えてください」
などと、センがチョケたことを言った直後のこと、
残留思念たちは、いっせいに、ヒエンたちにおそいかかった。
「くっ!」
襲い掛かってくる無数の思念達と全力で闘う影牢の面々。
当然、影牢の面々の方が、資質的には上だし、実質的に強者なのだが、しかし、いかんせん、相手の数が多すぎた。
それも、ただの雑魚ではなく、『怨みを背負った魔人』の連中なので、
「ぐっ……かはっ……ぐぅっ! くそがぁ!」
ボッコボコにされてしまう。
八方から遠距離攻撃をかまされ逃げ場がない。
思念たちの手によってボコボコにされている間、ヒエンは、
(ぐっ……ふ……ふふっ……まさに、自業自得だな……)
救われている気分になっていた。
(死にたいと思ったことはない……というか、死にたくないから、やりたくないことも全力でやって、必死に生きてきた……)
そこで、ヒエンは自分の人生を思い返す。
母が病気になって、延命させるだけでも莫大な金が必要だった。
母は、常々『足手まといになりたくないから殺せ』と言っていたが、ヒエンは母に生きてほしかった。
一人になりたくなかったから。
だから、ヒエンは大金を求めて国に頼った。
幸い、才能があったので、それを買ってもらえた。
魔人の駆除係。
やりたいと思ったことは一度もなかったが、一秒でも長く母と一緒にいられるなら、と、必死になって働いた。
上に言われるまま、女性も子供も関係なく殺した。
中には、身を挺して子供を守ろうとしていた女の魔人もいた。
『どうか、子供だけでも助けてほしい』と泣き叫んでいた。
(……ああ……彼女だ……)
思念の中に、『彼女』がいるのに気づいた。
あの時、必死に子を守ろうとしていた女性。
幼少期のころ、『飲んだくれの父』から、必死になって自分を守ってくれた母と重なって、どうしても、自分の手では、彼女を殺すことができなかった。
幸い、すでに、チームとして動いていたので、彼女の排除はプッチに任せた。
「……すまない……」
無意味な感傷だとは思いつつも、ヒエンは、その言葉を口にせずにはいられなかった。
許されたかったわけではない。
ただ、言わずにはいられなかっただけ。
「…………すまない……」
心を殺して、必死になって、ヒエンは、どうにか母を延命させようとしたが、ある日、仕事から帰ったヒエンは、自殺した母の亡骸を発見した。
涙は出なかった。
心はすでに死んでいたから。




