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75話 影牢。


 75話 影牢。


 大帝国で冒険者をしている『ヒエン』は、

 最高位である『十つ星冒険者チーム、影牢』のリーダーである。


 だが、彼の目に、『最高位の冒険者』らしい『英雄の輝き』などは灯っていない。

 『この世の闇』を煮詰めたようなドス黒い濁りに穢れている。


 今、ヒエンは、大帝国上層部の命令に従い、

 身分を隠して、グリド王国に潜入していた。


 影牢は、闇に潜んで仕事をする忍やアサシンの集まりなので、

 最高位冒険者チームといえど、誰ひとり、顔は割れていない。

 一般人に見える変装をして、フェイクオーラで身を包めば、

 容易に民衆に紛れることができる。


「魔人による革命が起こったと聞いているけれど……城下町の方に被害はないようね」


 影牢のメンバーの一人であるクノイチの『プッチ』が、

 グリドの町を散策している途中で、ボソっとそう言った。


 続けて、盗賊のワイヤーが、


「……城下町だけではなく、どこにも被害のあとがみあたらない」


 ちなみに、センの異次元砲によって崩壊していた城は、センとゾメガの魔法により修復されている。

 『トワネ』と『兵士たち』の闘いによって受けた損害も、

 センとゾメガが完全に元に戻した。

 ただ直しただけではなく、以前のモノよりもはるかに頑丈で質のよいものに進化させたのである。


 ――そこで、リーダーのヒエンが、ボソっと、


「俺たちのように、闇の中で動くの得意な魔王で、影に潜みながら静かに王族だけを暗殺して革命をなした……というのであれば、たんなる同業者だから、対策の仕方も明瞭だが……もし、革命による膨大な被害を、迅速に建て直した……というのであれば、想定を超える力を持つということになり、非常に厄介……」


「前者であってほしいわね。同じ土俵でやりあうなら、私たちに敗北はありえないから」


 などと、和やかに会話をしつつも、

 手際よく、情報を収集していく影牢の三人。

 彼・彼女らは、『常ににじみ出る絶対者の自信』にふさわしいだけの実力を備えている


 ちなみに、グリドには、大帝国のスパイが何人か忍び込んでいるのだが、今、影牢は、街の中を探索しつつ、大帝国のスパイの一人である情報屋の元に向かっていた。


 薄暗い路地裏を抜けて、

 小汚い『掘っ立て小屋』の中に入った三人を、

 『みすぼらしい老人』が出迎えた。


 その老人は、ヒエンたちに視線をおくり、


「……362662111?」


 と、尋ねてきた。

 ヒエンが首を縦にふって、


「233212」


 と、応えると、

 そのみすぼらしい老人――『パッサム』は、

 ニっと笑って、


「……十つ星冒険者チーム、英雄の影牢に会えるとは光栄だな」


 と、歓迎ムードでそう言った。


 ちなみに、先ほどの暗号には、あえて『意味』というものが削除されている。

 なんの意味もない数字の羅列を問いかけて、間髪いれずに応えるというのが、互いに大帝国の者である、ということを示す証。

 一応、禁止ナンバーというのが設定されており、テキトーな数字を返すだけではダメだったりと、用心・警戒は怠っていない。



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