60話 腐り切った性根。
60話 腐り切った性根。
「国民のことは好き勝手してくれていいが、自分達が甘い汁を吸える部分は残せ……と、そう言っているようにしか聞こえないんだが、その認識は間違っているか? ちなみに、言い訳や虚言を口にした場合、交渉は打ち切らせてもらう」
「……そう捉えたいのであれば、否定はしない。だが、すべては国を守るためだ。完全な属国になってしまえば、人的資源の厳選的提供にはとどまらず、すべての命が傀儡として扱われよう。それは、王として、あまりにしのびない」
などと、『言い訳』を連発するバーサミー王を見ながら、
センは、
(もし、ノコがバーサミーの立場だったら……どんな提案をしてくるだろうか……)
何を言い出すか、容易に想像できて笑えてきた。
(間違いなく、自分の命を差し出して、民と臣下を守ろうとするだろう……たとえ、周りが止めたとしても、絶対に、言うことを聞かず、自分の『ワガママ』を押し通す……ノコは、そういう、稀代のバカ女だ……)
10000年前は、心の中限定であろうと、絶対に言えなかった軽口。
10000年と言う長い人生経験の中で、センは多くを学んだ。
『人の醜さ』、『当たり前の生理』、『解剖学的な脳の働き』、
『人』というものを知れば知るほど、
センは、ノコに対して『愚かである』という事実的認識を深めていった。
ノコはバカである。
より正確に言えば欠陥人間。
人が人であるための大事な何かが欠けている。
(その『欠けているというマイナス要素』に心底から惚れてしまった俺もまた、欠陥人間なんだろう……)
なんて、そんなことを考えていると、
その間にも、バーサミー王は、ずっと、ペラペラと、
自己保身の提案を続けていた。
「我々の管理力があれば、国民を黙らせることは容易。それは、これまでの実績が示している。これまで、何度か、国家転覆を実行にうつそうとした愚か者たちがいたが、そのすべてを、もれなく、完璧に血祭りにあげてきた。加担した本人だけではなく、それをとめなかった家族や周囲の知人も皆殺しにした。我々は『勤勉で優秀な管理者』である。残しておいたほうが、貴国の繁栄のためにも――」
と、そこで、センは、
「マジェスって名前に憶えはあるか?」
「……? どこの貴族だ?」
「俺の師匠の一人。俺はマジェスから、アイテム制作と召喚術を学んだ」
「……貴様ほどの優れた召喚士を育てる師とは、実に素晴らしい」
それは本音だった。
センを育てられる者がもし存在するのであれば、
その手腕を、ぜひ、王族のためにふるってほしいと思った。
「マジェスは本当に優秀だった。この国の貧困をどうにかしようと、アイテム職人としての力をフル活用して、この国の経済を変えようとした。マジェスの行動は正しかった。そのままいけば、国は潤うはずだった。しかし、お前ら王族は、自分達のコントロール下にない金の動きをゆるさなかった。膨大な裏金を要求し、断ったマジェスに、お前らは、理不尽きわまりない屁理屈で従属を要求し続け、最後には、俺以外にも何人かいたマジェスの弟子を全員殺し、妻も子供も拷問して殺した。7年前のことだ」




