20話 『バカ王子』地獄サイド(3)。
20話 『バカ王子』地獄サイド(3)。
「マルファイ……もう一度……言ってくれないか?」
バルディに言われて、マルファイは、
額に汗を浮かべながら、
「はい、殿下……ノコ・ドローグの討伐に送り込んだ魔導師団は、敵側に寝返り、ガルム隊長は見せしめに殺されました」
「……」
バルディは、腰の痛みに顔の表情をこわばらせつつ、
「……サロメを……呼べ」
妻を呼ぶように伝える。
マルファイは、一度頭を下げて部屋を出た。
その十数秒後に、
サロメが、バルディの自室に入ってきて、
「あなた、お体の具合はどうですか?」
優しい口調と笑顔でそう声をかけるサロメ。
いつもなら、ここで、彼女に対する愛をささやくバルディだが、
「……貴様と一緒になってから……何一つ、いいことがない……」
憎しみのこもった声で、そうつぶやく。
その声には、殺気と怒気がこもっていたので、
サロメは、何も言えず、息をのむばかり。
「……ノコと婚約している時は、すべてが順調だった……何一つ、問題のない人生だった……だが、お前と一緒になって以降……ずっと、苦しいばかりじゃないかぁあああああああ!! ごほっ! おほっ! おぇっ!」
大声を出したら、セキこんで、むせてしまう。
喉と肺の機能が低下している証拠。
「疫病神めぇ!! 貴様なんかと一緒になるべきではなかった! ずっと、ずっと、ずっと、何一ついいことがない!」
理不尽な怒りをぶつけられ、
サロメは、心の中で、
(……ついに、精神が壊れてきた……このまま放置していたら、いつか、逆恨みで刺されかねない……バレることを恐れて、手をこまねいていたけど……もう、後先考えず、抹殺することに集中した方がいいわね……今度は、一人じゃなく、暗殺者を複数雇って……)
と、真剣に、バルディの殺し方を考えていると、
「おい、貴様、その目はなんだ! 殺気を感じたぞ、サロメぇえ!」
つい、思考に集中しすぎて、
表情の作りこみを怠ってしまった。
『貴族としてのたしなみ』があるので、『あからさまな表情』をしていたわけではないが、『悪意に対して、変に敏感になっている今のバルディ』のセンサーに引っかかる程度の殺気はこぼしてしまった。
「ご、ごかいです。殿下の体を心配していただけで、殺気など――」
どうにか、『バルディの思い違い』で済ませようと、
サロメは、バルディの体にしなだれかかり、
彼の背中を優しくさする。
いつもなら、これで落ち着くのだが、
気がたっている今のバルディには逆効果で、
「触るなぁあああああ!!」
――老化したとはいえ、
バルディの存在値は500という、とんでもない数値。
一般人からすれば化け物のように強い。
普段は、ちゃんとコントロールできている力が、
この瞬間は、うまく制御できず、
「きゃああああっっ!!」
つい、本気で吹っ飛ばしてしまった。
吹っ飛んだサロメは、壁に頭を強打して、
そのまま、ピクリとも動かなくなった。
それを見たバルディは、
「あ、いや……ちが……殺す気は……」
体を起こし、のそのそと、重たい体をひきずって、
サロメの元に近づいていく。
彼女の体に触れてみた。
息をしていないし、脈もない。
割れた頭からは血が流れていた。
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