血族だけど、家族じゃ無い
始まりは茶会の招待状だったらしい。
宛名は伯爵……及び、もうこの世に存在しない第二夫人と、アリステラ。差出人は第二夫人の旧家。
流石に第一夫人とその娘を連れて行くわけにはいかない為、都合が悪いと言うことにして断ろうとしたが、手紙の最後に書かれていたのは第二夫人の旧家の本家筋が主催と言うことだった。
旧家の本家筋。それはつまり、
「王家主催のお茶会を、伯爵家程度が断れるものか…」
……で、結局単身参加。
勿論行ってみたら針の筵。貴族特有の、表面上は見事な笑顔で散々答え辛い質問を連発され、何とか切り抜けたものの、第二夫人とその娘についてはそうはいかなかった。
「まあ、答えられないでしょうね。伯爵はアリス様達について何も知りませんから」
知らないだけならまだしも、既に近くにすらいない。
料理長の言葉に伯爵はぐうの音も出ないらしく、気不味そうに目を逸らしている。
「……で、その王子が伝承にある魔王となる為に力を求め、"時"の魔法を有しているであろう偉大なるアリス様を所望した、ということか」
『アリス様自身が有さなかったとしても、その子供が力を持つ可能性はありますものね~』
「そして混乱しつつ家に戻り、問い詰められてボロボロ夫人達に話してしまい、娘が暴走したというところみたいですね」
うむ。つまり、
「私には落ち度もなーんにも無くて、ただ単に迷惑をかけられている、ということで合っている?料理長」
「その通りです」
よし見捨てよう。
「帰るぞー」
我の号令で一斉に出口へと歩き出す料理長達。
ギルマスが家族のことなのにいいのかと聞いてきたが、…家族、ねえ?
「我の家族がいるとすれば、料理長たちであって、間違ってもそこの貴族ではない。
血が繋がっていなくとも家族と呼べるものがあるように、血が繋がっていようとそれだけで家族とは呼べぬ。そこにいるのは確かに肉親ではあれど、尊敬するべき家族ではない」
アリスにとっても、アリステラにとっても。
「…… 」
そのまま我も部屋から出ようとおもったが、もやもやとした何かが喉の奥に詰まる。息を吐き出してもすっきりしない。
「……アリステラにとって、あの屋敷は箱だった。
悲しいものだけが詰め込まれた箱。
母が生きていた時は、まだ温もりがあった。いなくなってからは、料理長達がいてくれた事で仄かに残る喜びもあった。
だが、
義母に、義姉に、使用人達にさえ侮られ蔑まれる毎日は悲しかった。
血の繋がる父親は自分を見ることはない現実も悲しかった。
産まれたのは自分の意思では無いのに、産まれたことを嘲られ、何度も殺されそうになるその現実が、悲しかった。
何故悲しいのか考えた事は無かったが、私は、…アリスは、アリステラが、"家族"を望んでいたからだと、そう思う。歪だろうが何だろうが、家族になりたかったのだと。
しかしそれは叶わない。だから、ずっと、…ずっと悲しかった」
今も胸の奥が重いのは、アリステラの悲しみを我が感じるからであろう。アリステラがかつて抱いた感情を、我が理解できるから。
「………今、は…?」
再会して初めて、伯爵は我自身のことを見た。目で見るとかではなく、興味を、関心を向けるという意味だからな。
…いや、再会してではないか。母が死んでから初めてか。
「…聞く必要がありますか?」
料理長が横に立つ。リィと狐姿の灼華が擦り寄り、ルシアが抱きつく。ラギアが恭しく我の手を取り、猫たちが頭や肩や腕に乗ってきた。重い。温い。重い。
「……すまなかった」
急に頭を下げた伯爵は、少しだけ顔の険しさが抜けた。いや、謝られても。
「……自分が楽になる為の謝罪は、謝罪では無い事をご存知ですか」
「…ああ。分かっている。それでも、…言いたくてな。私が何とかすべき問題をお前に背負わせようとした。こんな所まで来て迷惑をかけてすまない」
伯爵が我から視線を逸らしたその一瞬。…これを待っていた!すぐさま料理長とラギアとアイコンタクトをとる。うむ、いける!
「…家族の情に頼る話は終わりです。
さて、伯爵。ここは冒険者ギルド。ギルドに依頼をして、冒険者が依頼を受ける場所。
Aランクの冒険者以上になれば、指名依頼が可能です。そして、貴方が今対峙しているのは、Sランク冒険者アリス。
冒険者の私に、依頼をしてみればいかがでしょう?
問題を解決の上、娘を連れ戻して欲しい。と」
「お、おい嬢ちゃん?いいのか?!助ける気は無いんじゃ…!」
「勿論。私個人として助ける義理なんて何もない。今までのしっぺ返しを食らってるだけだしな。だが、依頼なら別だ。報酬が出るだろう」
えええ…とギルマスは引き気味だし、伯爵は呆然としている。
「当然ながら、迷惑料込みで高くつく」
「いや!だめだぞ!依頼として申請されたなら、その任務と報酬の釣り合いがきちんと取れていなければギルマスとして認めるわけには…!」
そこは見逃せ。
「誤解するな。金銭を要求する気はない」
無くても有り余ってるし。ぶっちゃけ我のポケットマネーは、既に金食い虫達に食われた後の伯爵家の総資産を超えている。
「で、では…何を…?」
恐る恐る聞いてきた伯爵に、我は前もって用意しておいたとある契約書を見せる。
「今すぐこの書類にサインの上、関係者全員が即厳守する事が条件だ」
ペラリと我が差し出した書類を見て、ギルマスは心底呆れていた。
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