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書状と一緒に千切ってやりたいくらい嫌い



『主様!』

「うぐえっ」

『重いじゃないッ!』


リィにくっついていた真っ最中。

急に後ろから抱きつかれてバランス崩しそうになった。相棒よ、重いのはわかるがレディーとしてはアウトな声出してる我をもうちょっと心配してくれ。


「アリス様、問題なく到着致しました」

「うん。ありがとう、料理長」


べりっと音がしそうな感じで灼華を軽々引っぺがしてくれた。首根っこ掴まれてる灼華は大人しく恨みがましい視線をリィに向けている。何?自分もふわふわの毛並みを持ってるって?…獣姿で言ってくれ。


予定通り北の町に到着し、呼びに来てくれたらしい。王都のギルマスが虚偽報告したとか訴えられないように、各地で我の姿を確認されなくてはならないからな。今回の依頼からは我も参加する。


「北の次は東回りで南に向かおう」

「はい。討伐報告は纏めてどこか遠い地で行えればまたいい目眩しにもなりそうですね」


住所不定で連絡しようがなく、緊急性の高い国内外の依頼を片付けに西へ東へ動き回っているせいで、ギルド側からも案内できないというふうに伝えているらしいからな。言葉通りにしてやろうではないか。




…そんな訳で、かかってくる魔物倒して、希少な薬草を取りに氷山やら火山を行き来し、川が氾濫してたから元に戻したり、面倒だったから橋をかけたり、文句も言わずに我は頑張った。そして各地の飲食店の通常メニューもほぼコンプしかけていた。

依頼もギルマスから定期的にラギア経由で補充されるが、それでも減ってきた。


気がつけばびっくり。


我、何処に行っても顔見知りがいる…!


「「「アリスちゃーん!」」」

「うむ!」


老若男女入り混じりだが、声をかけられて手を振れば殆どは嬉しそうに笑顔を向けてくる。我も悪い気は全くしない。


勿論我だけではなく、元々有名な料理長や、能力だけでなくその外見も人気のラギアも声をかけられることが多い。そして、更に…


「「「ルシア様ー!灼華様ー!」」」

「アリス様以外が私の名前を軽々しく口にしないで」

「不愉快。燃やすぞ」


野太い声援を送った主達は、冬の氷山を思わせる目を2人から送り返されて黙った。…静かなのはいいのだが、これがまた睨まれてるのに嬉しそうなんだよな。……気持ちは分かる。



「……アリス様、"コレ"はいかが致しますか?」


たった今受け取った依頼書を確認していた料理長が手を止めた。少し迷って差し出されたそれは、走り書きにも程があるカードだった。


差し出し人というか、書いたのはエルサ殿だな。


「………なるほど。不愉快だな」


エディンのギルドに我を探しているという貴族が来たらしい。我が来るまで滞在すると言い、例のあの…なんだっけ、…コリー達を贔屓にしてる貴族の所にいるそうだ。別に騒ぎを起こしたりしている訳ではないが、一日中ギルドが見張られて居心地の悪さ半端無いらしい。


「アリス様が不愉快に…!?何処の誰を闇討ちすればよろしいですか?」

『あら、誰か噛んできましょうカ?』

『木の養分にいたしますか…?』

『燃やします』


「う、うん。気持ちはありがたいけど、まだいい」


残念そうに引き下がっていった。

それはそうとして、…どうするか。情報精査した結果、恐らくエディンで待つのが1番効率がいいと判断したのだろう。


「エディン方面の依頼を片付けに行っていないので、そろそろ立ち寄る可能性が高く、居ないとしてもエディンに滞在していると聞けば渋々だとしても来ると考えたのでしょう」


まったく、我はともかくとして我の周囲にまで迷惑をかけるなど…忌々しい。


口には出さなかったが、我の機嫌を察したラギアが口を開こうとしたので、手短に待てをかける。


「……エディンへ向かう」

「私が話をつけて参りましょうか?」

「いいよ、大丈夫。どうせなら今回で色々終わりにしたい。公的な手段をとるなら私はその場にいないと親権振りかざして私の意志は無視されそうだもん」


我もアリステラも、父親を信用すらしていない。


料理長にして欲しいことがあるとするなら、父親に絶縁状に無理矢理にでもサインさせることだな。何が何でも。


もし、あの父親が家を出た我を未だに娘として貴族籍に生存という形でおいていたとしたら、あの義母が我に対する嫌がらせか何かでどこかに嫁がせようと勝手に契約している可能性も無くはない。その場合、義母には最も奴が嫌がりそうな苦行を味わった末にこの世を去ってもらおうと思う。


我は罪に問われようが、一矢報いることが出来るならば問題なし。あの老ぼれババアと違い、我はまだ10歳!…ならずものになろうが、生きていける自信はある。

ともあれ、何故わざわざ今我を探しに来たか、その理由の把握からだな。アノクに調べさせた噂からある程度の予測はついたが、…まだ確定じゃないしな。噂は噂。尾鰭とか背鰭とかついてるかもしれんし。


「ミランダ嬢のとこのランチメニューが増えたようだし、跳ね橋亭は新しく焼き菓子をメニューに加えたそうだからな。それを楽しみに嫌な事は早く終わらせよう」


何故かルシアは静かな闘志を燃やしていた。どして?


『ミランダ……(アリス様にあ~んする権利は、絶対に譲りませんっ…)!』


何かよからぬ事をしようとするなら止めねばと思ったが、リィに大丈夫、ただの嫉妬心、女の譲れない闘いが始まるだけだからと言われた。ならば大丈夫なのだろう。


………大丈夫か?それ。




エディンに着くのは早かった。というか、我自身が行ったことのある場所なので、我が単身転移魔法で移動して、亜空間を開けばリィ達もすぐに到着。あとは少し歩いて門を潜るだけ。ああ、楽。


『流石に街の中に出るとかはしないのネ』

「寧ろ個人宅でも出来るがやった方がいいか?」

『絶対やらないデ』


緊急時にしか使わない事をリィに約束させられた。我とてその程度の常識は弁えているのに。流石に他所様の家の中に勝手に転移はしない。



門のところにいる兵士に、久しぶりの挨拶をして土産も渡したのに、すぐさまギルドへ連れてかれた。先にミランダ嬢達に会いに行きたかったのに…。


そして、とんとん拍子で状況は変わり、我の前には今、父親がいる。……よほど迷惑だったのだろうな。扉の外から様子を伺い、姿の見えないはずのギルマスの圧を感じる。早く何とかしろと言わんばかりの圧を。


致し方なく対面するようにソファーに腰掛けた。料理長達は威圧も含めて後ろに控えた。


「…アリステラ、…久しぶり、だな」


父親は最後に見た時より、疲労しているのがよくわかった。やつれてるなー。どうでもいいけど。



我はアリス。

ある日養母に毒を盛られ、前世が魔王であったことを思い出した少女。今世の少女アリステラの意識が弱いのは、それだけ前世の我の記憶や人格の方が強いから…というのもあるが、アリステラ自身が特筆すべき個性を持っていなかったからというのも大きいかもしれない。


だからといって、無いわけではない。


でなければ、以前魔獣暴走を止めたとき、我が皆殺しにしないわけがないのだから。そもそも人間に生まれ変わっている事に気付いて発狂しなかったのも、冒険者になって人間と関わっていられたのも、アリステラという人間が根底にあってこその話。


アリステラが人間に対して、情をもっているからなのだ。


魔王であった我は、人間をその辺の草木と同じ程度にしか思っていなかった。風景に対してどう感情を持てというのだ。


だから、今、我が関わり合った人間に対して抱いた感情は、アリステラの感情だ。



それに気付いたからこそ、驚いた。


「…元気にしていたか?」


その問いかけに我は何と返そうか考えるつもりだったが、すらっと言葉が出てきた。


「…お久しぶりです。アトリシエ伯爵。今のところ問題はありません。出立の際はご支援いただき、ありがとうございました」


何の感情も含まない、事実とそれに対する礼儀だけの乾いた返事が。


アリステラは、唯一の肉親である筈の父親に、何の感情も持っていなかった。あの義母にさえ、悲しみと憐れみを向けていたのに。何もない。あるのはただ、空な感情。


「あの程度、気にする必要はない…。むしろ少なすぎただろう。…すまなかった」

「…いえ。あのお金には一切手を付けなくともこの通り生きていますので、ご心配なく。

それより本題に入りませんか」


わざわざ探しにきてまでする話ではないだろう?


伯爵は我の問いかけに対し、静かに息を吐き出してから


「お前に、縁談の申し込みがあった」


そう言った。

読了ありがとうございます。

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