宿は教えてもらったが案内人は頼んでない
こんにちは
よろしくお願いします。
驚きに目を見開く巨漢とギャラリー。
拳を手の平で止めたまま、幾つかの選択肢を思い浮かべる。
1、このまま回転をつけて体を捻って相手の肘を捻る。
2、拳を掴むように手を握ってそのまま砕く。
3、空いてる我が右手で腹パン
我が頭の中でどれにしようかなとあみだくじをしていると、正気に戻ったのか受付嬢が慌ててカウンターの外へ出てきた。
「ゾドムさん!ギルド内での乱闘は禁止されています!」
「…というか、その子はまだ冒険者にもなってないんだから、一般人の子供に手をあげた事になるわよ」
「エルサさん!」
異様な空気を感じ取ってか、小部屋から出て来たのはタイトスカートスタイルが美しい女性。脚の黄金比が素晴らしい。腰に巻いた長鞭が似合う眼鏡をかけた凛々しい顔立ち。いいものを見た。我もこの身体を最終的にはあんな系統にしていきたいものだ。……伝え聞く母親の容姿からすると、正反対になりそうだが、父親に似れば可能性はゼロではない!
「…そこのお嬢さん、貴女、本当に冒険者になるの?」
「うむ。そうでないと相棒が街に入れぬからな」
「…魔獣ギルドでも身分証の発行はできるわよ?」
「私は相棒に鞭を打たれたく無いのでな」
真意を探る様に我を見るその鋭い視線を余裕を持って受け止める。少し驚いた様に目を見開いて、何故か笑った。
「…分かったわ。私の名前はエルサ。ここのギルドのサブマスターよ。そこのゾドムは一応Cランクで、うちに所属している中ではトップクラスの冒険者なの。
脅しとはいえ、貴女に手を挙げたから罰則を与えなきゃいけない。けど、ゾドム。これ以上文句を言わずにさっさと受けてる依頼完了しに行くなら不問にするわ。このお嬢さんがそれでよければ、だけど」
どうするの?と、サブマスが睨み付ける。ゾドムとやらも暫く睨んでいた。(羨ましい。我も美人に睨まれたい)
「チッ!後で泣く羽目になっても知らねえからな!!」
と、捨て台詞を残して外へ出て行った。他の冒険者達もサブマスに睨まれて逃げ出した。
「…漸く静かになったわね。手続きお願い。…ああそうだわ。貴女の名前を聞いてもいいかしら?」
「アリスだ」
「そう、アリスちゃん。よろしくね」
これ、さっきのお詫びに従魔登録を終えた従魔につける印。と、金色の首輪を渡された。通常は購入しなくてはならないのだが、くれるらしい。曰くつける魔獣によって大きさが変わるそうだ。首輪か…嫌がらないといいが。
この街には無いが、従魔用のアクセサリーショップ(と言うのがあるらしい)に行けば、別なデザインや腕輪などの種類もあるそうだ。…うん、よし。そこまではコレで我慢してもらおう。
エルサはその後再び出てきた個室へと戻って行った。受付嬢にも気を取り直して手続きしてもらい、身分証を漸く手に入れた。
「アリスさんは新人なので、ランクはFです。
ランクが低いうちは戦闘系の依頼は受けられません。薬草拾いや街の皆さんのお手伝いが主ですね。ある程度依頼をこなして、ギルドもしくは依頼主から最高評価をいくつか貰えればEランクに昇格、ウルフ単体などの危険性が比較的低い戦闘が考えられる依頼を受けることが出来る様になります。
ランクが上がると、危険度が上がる。その代わり報酬も高くなるって事を覚えておいてくださいね?」
「うむっ!」
「アリスさんが魔獣持ちということも登録してあります。あとはその首輪を付けてあげれば完了ですよ。
それから、採取した薬草や討伐した魔物はこのギルド会館の隣りにある回収場に持っていっていただきますと、そちらで集計・鑑定を行い、それを受けて報酬はこちらでお渡しする手筈です。もし何か珍しいものを拾ったりした時は、鑑定して貰うために回収場に寄るのもいいかもしれません。
あと他に何か聞いておきたいことはありますか?」
「…うん。魔獣同伴で泊まれる食事の美味しい宿に心当たりは?」
「それなら《ユーグの跳ね橋》がお勧めです。値段が少し高いですが、女性のお客様に人気なんですよ。ご家族で宿を経営されていて、旦那さんは元Bランクの冒険者なので、夜も安心です」
ユーグの跳ね橋…。地図を書いてもらい、一先ずギルドを出る。とりあえず待たせてるフェンリル回収に向かうとしよう。
……そういえば、あのフェンリルの名前は何だ?呼ぶ必要無かったせいで気にしていなかった。街の外に出て合流し次第すぐに聞いた。リィーリィーというらしい。長いのでリィでいいか。
『シュミの悪い首輪ネ』
「やはりそう思うか?」
『ええ。ソレ、精神服従系の呪いが掛かってるワ。アタシにそれを付けろって言うのかしら?』
「だがコレが無いと入れないのだろう?」
『そのことなんだケド…』
小型犬サイズのまま、リィは街を覆っている結界に足を伸ばして、…すり抜けた。
『無くても入れるみたいヨ』
「なんとまあ。ではこれは閉まっておくとしよう」
『変な呪い染み付いてる限り、アタシは付けないからね』
「分かった分かった」
印も付けずにリィが元の姿で歩いたら、あの牧場主のように街の人が驚くと考えて、そのままの大きさで、先ほどまでと同じ様に我の頭の上に乗っかった。まあ、いいか。
『宿は決まってるの?』
「うむ。場所は聞いたぞ。先に部屋をとってしまおう」
そう決めて歩き出したは良いのだが、宿につく手前の店から物凄い音がして足を止めた。リィが耳を垂れて音を塞ごうとしているが、陶器や木片が割れる音や悲鳴だからな。塞いで中々聞こえなくなるものでも無い。
そして乱暴に音を立ててドアが開いた。…開いたと言うか、蹴り飛ばされてドアが外れた。中からぞろぞろとガタイのいい男どもが出て行く。最後に貴族風の小太りの男。
その男は店の中に向かって、今月中に立ち退かなければ命は無いぞと言って大笑いして去って行った。……のを、私は連れ込まれた路地から見ていた。
「…むぐう」
「ああ!すまない。失礼したね」
苦しい、と腕を叩けば手を離された。そこにいたのは爽やかなイケメン……いや、スレンダーで男前な女性冒険者らしい。すぐそばに可愛らしい魔法使いらしき女性と、鍛えた筋肉が美しい女性もいる。
「私たちは怪しいものじゃ無い。あのまま道に君がいたら、あの貴族に目をつけられていたから、つい…」
「……うん。おねえさん達、べつに私の事襲うつもり無かったんでしょ?殺気がないもん。大丈夫。ありがとうございました」
お礼をきちんと言っておこう。それから何故我の口調を変えたのか。それはこっちの口調の方が警戒心を持たれないと感じたからだ。
前世冒険者達は小さくて可愛らしい女の子に癒されていたものだ。特に、見た目が可愛らしく、言葉遣いも舌足らずな自分より幼い子に。女悪魔達はそれを分かってからは化ける時は大抵合法ロリ姿をとり、徐々に相手の好みを見極めシフトチェンジしていた。……まあ、変装みたいなものだ。人を騙してナンボの小悪魔達のする事だ。引っ掛かる方が悪いと思う。
「お礼を言われる程のことでは無いよ。それより、もしかして君がエルサさんの言っていたアリスちゃんかな?ゾドムに絡まれたっていう」
「…うん、多分」
「そっか。追い付けてよかった。エルサさんが厄介事に巻き込まれそうな気がするから、宿に帰るついでに一緒に跳ね橋に連れて行ってあげてって」
それはそれは。
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を言えば相当疲れていたのか、女冒険者達は何故かこちらこそなんて言って頭を撫でてきたので、ありがたく撫でられておいた。
宿へのチェックイン…はできなかったものの、寝床の確保は問題無くできて万歳。数日ぶりにベッドでゆっくり休んだ。
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