インストラクターのつもりだった
あの不審者のお陰で思い付いた防犯対策グッズは、後ほどエディンの女性冒険者達に試作品を配り、実際に使ってもらったところ思ったよりも高評価で、マチルダ嬢からも大喜びされた。
子供でも携帯していざという時使えるように、ポケットサイズな上、最悪相手に投げつけるだけであの粉を振りかけることが出来るよう工夫を凝らす必要はあるが、マチルダ嬢なら上手くやるだろう。
ちなみに、我も一個持ってる。リボンを使って可愛くしたやつ。
リィからは、
『そんなアイテム、持ち腐れじゃないのかシラ…』
と言われたが、じゃあリィにあげようかと言ったらそんな劇物持たせんなとキレられた。命には関わらないのに。ついでに言えば親切心だったのに。
開発終了し、料理長作の昼食を味わい、暮れはあのブティックへと足を運んだ。
コートの仮縫いが完了しているらしいのだ。
覚悟を決めて向い、案の定、コルセットをギリギリと締め付けられ、また姿勢を矯正され(美しい外見は美しい姿勢から。服を生かすも殺すも着てる人間次第といわれ)頑張った。
変わるがわる試着や丈の直しが入り、お陰でオヤツを食べ損ねた。いや、食べ損ねた原因はまた別だが、そのオーナーのせいと言えなくもない。
『凄かったわネ』
「ああ、…凄かったな」
我の身体にめっちゃ負荷を強いてきたが、姿見の前に立てばオーナーへの怒りは飛んでいった。
なにせ、
『完璧でしたものね。アリス様がまるで女王様に見えましたわ』
その時の事を思い出したのか、ルシアが恍惚とした表情で虚空を見ている。思い出すのは結構だが、その体勢、上半身から何とは言わないが溢れそうであぶない。
黒と赤ベースのコートが、それはそれは我にぴったりだった。完璧と言わざるを得なかった。暫く言葉も忘れて鏡の前でくるくる回ってしまった。
レースの手袋にコート、よく分からんがステッキを持たされた我は某どこぞの国の赤い王といった風体だった。
我がおやつの時間に帰ってこないからおかしいと思って突撃してきた料理長も、これ見て撃沈してたもんな。ぶっ倒れて顔を抑えて美しいと呟いて暫く気を失ってたもんな。
リィは罪な女ネ、と満足そうだった。相棒が満足ならそれで良いだろう。
…まあ、1番驚きのハプニングはその後の事なのだが、それは料理長の教えに従い、我も忘れると決めた事なので何かあるまでは触れないでおこう。
「料理長、私、そろそろエディンに戻る」
アイス食べて観光してさっさと戻ろうと思っていたのに、思ったよりも長居をしてしまった。
マチルダ嬢に試作品を届けるのと、ミランダ嬢に元気な姿を見せてお土産を届け、猫可愛がりされる必要があるからな。リタ殿もお孫殿の所まで送迎を頼んでくる頃だろうし。
「エディン?冒険者の街の?……アリス様は彼方で登録なさったのでしたね。かしこまりました。出立はいつになさいますか?私も行きます」
「…料理長も?」
「はい。前回寄った時に少々…やり忘れた事を思い出しまして」
魚を絞め忘れた。と、いい笑顔で料理長が言う。まあ料理長の事だから、王都以外に幾つか懇意にしている宿があるのだろう。キッチンを手伝ったときに処理忘れがあったに違いない。大変だな。
「…そう…」
1人でいいのに。
…と、我が思ったからか否かはわからないが、我らは料理長抜きで王都からエディンに向かう事になる。
料理長に指名で依頼が入り、緊急招集がかかったらしい。
王都から出ようとした時に、関所の兵が料理長を連れて行ったのだ。料理長はすぐに追い付くと言っていたが、本当にすぐ追いつけるかは疑問である。何せ、我らは今回、リィを走らせるのだから。
本当は別の移動方法(勿論徒歩以外)があるのだが、今回はリィに頑張ってもらう。最近だらけ過ぎだから。前回は気のせいだと思ったが、最近は本当に我の首に負担が大きい。
ルシアも我の背中側から抱きついて乗っかることが多いが、ルシアに実体がない以上、質量も勿論ない。それはつまり、我が感じ取っている負荷というのは全てリィの重さによるもの、ということになる。
気づいてしまった以上、健康的になっていただくしかあるまい。
「さあリィよ。頑張って走ってくれ?」
余裕余裕とリィが言うので、もう一つ要件を追加した。
「2日以内にエディンにつかないと判断された場合、メニュー変更で野菜は60パーカット、肉とポーションの類で補って物理的に今の3割まで飯の量減らすからな」
リィはそれを聞いてよく働いてくれた。全く良い相棒を持ったものだ!
因みにエディンに戻って数日後、冒険者ギルドを訪ねた際にギルマスから、
「フェンリルに乗って昼夜問わずものすごいスピードで街を駆け抜けていく少女がいるって噂なんだか、お前何か知ってるか?」
と聞かれたが知らんと答えた。だって。
「我、ちゃんとリィと並走したもん」
ギルマスは暫く固まってた。
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