others side
冒険者界隈の中で集団戦最強の男、"将軍"の二つ名を持つその男は、一方で、(というか、この男に言わせればこちらが本業なのだが)とある元令嬢の冒険者に傅く料理人でもある。
「…さて、アリス様は、ゼリーとプリンのどちらを召し上がるだろうか」
朝食のデザートを決めかねるのは、何を隠そう。アリスが無類の甘いもの好きなせいで、1番お気に入りのデザートというものが存在しないのである。
かといって、アリスに聞けば料理長の作るデザートならば何でも好きだと本心からではあるが答えるので、大変嬉しいものの結論が出ない。全くもって困ったものである。
「……それを今考える必要がどこにある?」
「アリスちゃんって誰〜?」
料理長…本名、ガドフ・ゼスタインは、食材の仕入れの為に街を出ようとしたところで、緊急召集だと言われて王都冒険者ギルドの会議室の1つに足を運んでいた。
非常に渋々。
彼にとって今一番重要なのは、家を出てまでもついて行くと決めた主人であるアリス。そのアリスの為の食料を狩に行く事は、何事にも変えられない優先事項の1つである。
それを一時中止して召集に応じたのは、緊急召集であったからだ。
緊急召集は超危険な魔物が街に迫っているなど、急ぎ対応しなくてはならない案件の時にしか出ない。恐らく自分が応じなくても他の者が被害が出る前になんとかするだろうと思っているが、回り回ってアリスに危険が及ぶ事だけは避けなければならない。
緊急召集の、その理由の情報集め。その為にガドフは呼びかけに応じて、空いた椅子の一つに座り、ギルマスが来るのを他の冒険者と共に待っているのだ。
そしてまた1つ、席が埋まる。
「"炎槍"と"悪食"、"将軍"か。いやはや、まさかワシより早い到着とはな」
「あ。カゲのじいちゃん〜。やっほ」
「会議欠席常連の"将軍"が居るのは予想外だな」
にやにやとガドフを見ているその老人は、世間からは"影使い"と呼ばれる、正真正銘のSランク冒険者である。
「…会議?」
「なんじゃ、知らんのか。今回は冒険者の昇格会議だぞ?我々Sランクの功績と、その者の功績を比べ、最終的に我らと同等と定めるか否かを決める…な」
そこでガドフは気付く。ギルマスの野郎、出席率が悪い自分を騙しやがった、と。
そもそも料理長は、過去に冒険者を辞めると宣言している身。今この瞬間に至るまでそれを後悔していないし、寧ろ未だに指名依頼だ緊急依頼だと動かされる事は遺憾である。
そして今心に誓った。
次から緊急依頼もブッチする。なにかあるようなら、アリス様だけ全身全霊で守ればいい。と。
そういう訳で、ガドフは席を立つ。
「おい?どこへ行くのじゃ?」
「もうすぐ会議はじまるよ〜?」
「うっせえ。帰る」
…粗雑な言葉遣いに驚く者はこの場にいない。というか、基本的に、ガドフは仕えるという意識が向かない相手に対しては粗雑な口調だ。しかし、そんな事情は知られる事はないので、駆け出しの冒険者達や子供達の中には、将軍に憧れるが故に口調を真似しているものが一定数いる。
かつて少年であったゾドムという男も、その1人であったが、まあ蛇足というものだろう。
ガドフは時間の無駄だったと、時間短縮の為に窓に手をかけたところで、本来出入りに使うべき扉が開いた。
「待て帰るな短気のど阿呆」
「嘘つきのペテン師が言うな性悪」
ギルマスが、冒険者を1人連れて入ってきた。
そして帰ろうとしているガドフに阿呆と言い、ガドフはガドフで性悪と返した。
一応、険悪ではない。多分ない。
この2人は古い付き合いで、ガドフは冒険者になった当時世話になった恩があり、…その感謝の気持ちを帳消しにするくらい、ギルマスがガドフを扱き使っただけである。
ついでに、そのせいで2、3度死にかけただけである。
「会議なら俺は要らねえだろ。どうせ俺の意見なんざテメエは通さねえんだから。勝手にやってろ」
「いやいや。だから短気だっていうんだよ。今回に関してはお前から話を聞かなくちゃいけないし、お前も参加しなかったら後悔するぞ」
「何で」
「今回の昇格前情報精査対象は、最近エディンで冒険者になったアリスっていう、黒髪赤目の少女だ。
お前がその子に絡んだ冒険者全員半殺しにして、ウチのギルド職員を脅してそいつの出禁を解除したって言うだろう?十中八九、知り合い以上だと思ってな」
他の冒険者達も事前に話は聞いていたらしく驚いている様子は無いので、嘘ではないと判断し、ガドフは一先ず窓枠にかけた足を下ろした。
「話を聞く気になってくれたようで結構。座れ、始めるぞ」
アリスの預かり知らぬところで、"Sランク冒険者の円卓"と呼ばれる会議は始まった。
実はその時、他の場所でも今後アリスに関係しそうな事案が発生していたが…、まあ、そんな事を知る由もない。
虫の知らせでクシャミをするような余裕もなく、アリスはリィとルシアを伴って、地獄を見ていた。
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