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やましいことは何もない

おはようございます。

よろしくお願いします。

本日の更新は5時、9時、12時、15時、18時、20時、22時です。



「…アリス様…」

『ご主人…』


何故我がそんなにも恨みがましい目で見られねばならないのか理解に苦しむ。まあ十中八九、我の傍に張り付くというか、片腕に抱きつき至極幸せそうな顔で我の隣に座る精霊が原因だとは思うのだが。


美女を侍らせてるからって嫉妬しないで!これは我の意志ではないぞ!嬉しい状況だけれども!!


……とはいえ、このまま放置というわけにもいくまい。


「…えっと、精霊さ『ルシアとお呼びください。深潭の君』る、ルシア?」


はいっ、とそれだけで嬉しそうに笑う。


「ルシアは、精霊…?」

『はい。左様にございます』


"深潭の君"という呼び方が引っかかる。前世でよくよく呼ばれ慣れた名ではあった。主に、精霊達から。


その名の由来は、ミイラ取りがミイラになるというやつな。言い換えれば、勇者が魔王になる?とかか?


勇者が魔王という脅威を倒した時、次の最大の脅威としてその世で魔王と同じくらいに認識されるのは勇者である。


ミイラ取りがミイラになる、と同じような状況だろう?

しかし、我は唯一の魔王。君臨し続けた魔王。

どんな勇者も敵わぬ魔王。


謂わば、途絶えぬ深淵。


故に、とある精霊王が我を深潭の君と称して以降、精霊達はそれに倣って、我を深潭の君と呼ぶのだ。


しかし、それはあくまでも前世の魔王であった時の我の事。この現在、その名で呼ばれ侍られても我も困るというもの。

そこで、先にこの精霊と話をつけようと思う。


気付かれぬように"保険"をかけておいて正解であったな。


我が魔王であり続ける程の強さを誇った理由、その一端の魔法を発動する。


『嗚呼、世界の時を停止したのですね…!』

「うむ。ルシアはリィ達がいる限り、何も話す気が無いのだろう?」


精霊は笑顔を浮かべる事で応えた。


我が今発動した魔法は、時空間に関する魔法である。今この瞬間世界の中で動けるのは我と我が指定した者のみ。今回は我とこの精霊だな。…勇者の素質がある者であれば、我がこの魔法を解除した時に多少の違和感を覚えるだろうが、まあそんな事は今どうでもいい。


それよりも、ルシアには我をそう呼ぶ事をやめさせる必要があるのだ。その呼称だけでバレるとかは無いし、隠す必要があるとは思えんが、ぶっちゃけ料理長にもリィにも、我が前世魔王であり、それが今世で覚醒したなんて事言う必要ないと思うのだ。


それにこのルシア、リィと料理長をまったくもって相手にしていない。眼中にない。どうでもいい奴だから、我にとって話される事が不要な事を話されてしまう可能性もある。それが困る。


我は簡潔に、今世では人間として生きている旨と、周りには一切我が魔王であった事などは話していない旨を伝えた。そして、今のところかつての力が全て戻ったとしても、魔王として数千年前と同じ在り方をするつもりはないと。


「承知いたしました。深潭の君」

「…それと、その呼び方、何とかしてくれ」

「お名前を呼ぶ事をお許しくださるなら」


分かった許すと言えば大変嬉しそうにはい、アリス様と恍惚を滲ませた。


「…して、ルシア。何故お前はあの木の中に眠っていたのだ?」


長い話になりますよとルシア。構わんだろ。どうせここには我とお前しかおらんし、世界の時は止まってしまっているのだから。


『では、早速…。


深潭の君……魔王として君臨していた頃のアリス様が唐突に消失して幾数千時が経ち、それでも我らは皆、御帰りになる日を待ち望んでおりました。

片時も貴方様を忘れる事なく。

貴方様が居たからこそ、魔族の秩序は保たれ、世界のバランスは安定し、あなた方魔族の持つ強い魔力の残滓のお陰で精霊達は存在できた…』



しかしながら、精霊を庇護していた魔王が消え、頼りにしていた魔族も消え去り、結果、精霊達は自分たちを生かす為の力を、残りの種族から得なければならなくなった。

時に同族と争い、相手が消滅したとしても。


下位精霊は、魔力はあっても魔法を使えない人間から魔力を食らって生きていた。

しかし、上位精霊達はその程度の魔力では生きる事は出来なかった。


だから少しでも長く生きるために身体を結晶化し、眠りについた。魔王の再来を願って。


『…どうやら上位精霊達が眠っている間に、下位精霊達は消滅してしまったようです』

「…また生まれてくるのか?」


ルシアは少し驚いたように、または意外そうに我を見る。失敬な。その話、我が消えたせいで精霊が消えたり眠ったりになったと言われてるんだぞ?

つまり、我のせいであの可愛らしい小さな精霊達が消えたと言う事。正直な話、知ったこっちゃないのだが、その点に関してだけは反省する。


我のせいで精霊達が美女クラスまで成長どころか絶滅の危機だなんて!


世界の損失もいいところである。


という事で出た質問ではあったが、ルシアは心底可笑しいと言わんばかりに笑っている。こら。袖口で顔を隠しても笑われてるのはわかっているぞ。


『ふふ…、くふっ、…!いえ、っ、失礼いたしました……っ…!

…はぁ。……生まれ変わってもお優しいのですね』

「ん?」

『アリス様は、…深潭の君は、私ようなものも見下す事なく遊んでくださいました』


生まれ変わって人間になっても変わらないと分かり感心したのですよ。と。


……我、こんな美女な精霊と会った事あったっけ?


『…覚えて、居られないのですか…?あんなにも眠れぬ夜を共に過ごさせて頂いたと言うのに……!』


よよよと泣き崩れるルシア。待って待って待て!我何したの!?そんな美味しいとこ忘れるってどう言う事だ!?

一先ず泣かせてしまった罪悪感がひどい。何とかせねばなるまい。ハンカチを差し出してよくよく考える。前世、前世の我…!


………いや、どう頑張ってもやっぱり姿も取れぬ下位精霊達と戯れたりした覚えしか無いのだが。恐らく前世の我の死の直前については、ごっそり記憶抜け落ちてるし。…その時美味しい思いをしたのか、我?


『あんなにも…、あんなにも激しく…ッ…!』


本格的にマズイ。早い事思い出せるなら出したい。


『罠と幻覚魔法を迷宮に嬉々として配置し、どちらがより多く勇者を罠に嵌めることが出来るか競い合ったのに……!!』


……覚えてた!


読了ありがとうございます。

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