大丈夫、ただの赤いソースだ
「アリス様、喉の保護の為に少しだけメト(*)を溶かしております。どうぞ召し上がってください」
「うん。ありがとう、料理長」
カラカラになった喉を潤す。ふう。良き一杯だな!
一仕事後の喉に染み渡る。
我は頑張った。頑張って時に寸劇まで交えて。超笑顔の料理長が、我の話を聞き、情報を知る度に笑顔の輝きを増していくのを必死に気づかないふりをして。
笑顔の裏で吹き荒れるブリザードに我は耐え切った。
呼称がアリス様になっているのは、我がアリスで冒険者登録をした事や、伯爵家とは縁を切った事を話したからだ。
「それにしても…、そうですか。まあ、アリス様が生計を立てる為に冒険者になったというところに対しては少々遺憾ではありますが、その魔獣といる為には仕方がなかったと納得しましょう。
私が散々探していて見つからなかったのも。私はアリス様が、使用人達に習ったマナーを活かして他国の貴族の使用人として過ごしていると勝手に思っていましたから」
未だに使用人のマナーを使う日は来ていないが、使用人に教えてもらった小銭と買い物の仕方、そして値切り方のタイミングについては大変役立っているぞ。
「……あの小うるさいペテン師、街から追い出すだけでは生温かったか。息の根くらい止めておけばよかった。エディンの冒険者の小僧達も。アリス様を見下した挙句手を出そうとしたなど、万死に値する」
まあ、あの時の件については既に決着もついているしと宥める。喜べエディンの冒険者共。危うく料理長に魚の餌にされそうな所を我が救ってやったぞ。
「…そういえば、アリス様は何故王都の冒険者ギルドに立ち入りを禁止されているのですか?」
料理長と会う前、冒険者ギルドに知り合いを訪ねていったら囲まれて、やり返したら偉そうな奴に1週間出禁を出されたからだがと簡潔に伝える。
「…アリス様は甘い物がお好きでしたね。
今仕入れてまいりますので、少々お待ちください」
「うん…?」
料理長が出ていった。扉が閉まった瞬間、扉の奥に消えた料理長の気配が消えた。流石だな!
『…ネェご主人。マズイんじゃナイ?』
「何がだ?」
黙り込んでいた仔犬通り越して掌サイズのリィが、我の手にじゃれつきながら言う。
「料理長は我のために甘味を仕入れに行ってくれただけだぞ?」
『………エエソウネ』
なーにっかなー。
リィと戯れて待つ事本当に僅か。料理長は帰ってきた。トレーに美しく飾られたケーキを乗せて。ケーキの乗る皿もまた可愛らしい。我にぴったり。
「お待たせ致しました。アリス様。丁度新鮮なベリーが手に入りましたので、ムースとスポンジ、そしてジュレの三層で仕上げてみましたが、いかがでしょうか?」
「料理長のケーキ!」
「嬉しそうで何よりです」
わーいと我が心の赴くままマイフォークを手にして一口目を堪能しようとしたその時、リィが吠えた。何で?
『いや、アンタ!料理長の顔見えてる!?顔の半分真っ赤ヨ!?』
「……料理長、リィが料理長の顔半分が赤い事が気になってるみたいなの。ソレはどうしたの?」
「失礼しました。急いで加工した為、ベリーが飛び散ったみたいですね」
「料理長ったらまた?急がなくて良いって言ってるのに…」
「いやあ、申し訳ありません。早くお嬢様の喜ぶ顔が見たかったもので」
という訳でいつもの事だ。だから我は驚かずにケーキまっしぐらだった。
他にも色々あったぞ。トマトジュースの時もあったし、食紅使ったチョコレートの時もあった。赤唐辛子と言われた時は流石に痛いだろうから、早く顔拭いてとタオルを差し出した記憶がある。
『…分かったワ。そうよ、そうよネ。絶対普通じゃナイケド、ご主人にとっては通常なのヨね。気にしないワ…!これ以上気にするようじゃ、ご主人に侍ってられナイワ…!』
リィが何か葛藤している。
「ベリーを入手した時に耳にしましたが、アリス様の王都ギルドへの立ち入り禁止は解除されましたよ」
「え。何で急に?」
「さあ?向こうの勝手な勘違いが発覚したからだとは思いますが。何せ、アリス様が問題を起こすはずがないですから。"何か"あって間違ってることに気付いたのではないでしょうか」
「ふーん…」
隣でリィがハイ確定!と何やらテンションがハイになってしまっている。楽しそうで何よりだ。
「さて、ではお茶請けも用意出来たことですし、アリス様の冒険のお話の続きをお聞かせ願えますか?」
「うん」
とはいうものの、他に話していない事といえば…王都に来てからのこととか…
「あ。光る木」
「木?」
やべ。収納したまま忘れてた。
*メト:蜂蜜に似た何か
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