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反撃したら出禁になった。ついでに襲撃された



結論から言う。大丈夫だった。

寧ろ食い気味に迫ってきた。迫ると言うより最早ベッタリだった。我のメンタルの方がやられた。


メジャーを両手に、布のサンプルを身体のあちこちに吊り下げ、スタイリッシュなメガネを光らせて、我の身体を隅々まで触りまくり、半日……。


「是非これからウチの服を着て欲しい!」

「…い、いや、我、贔屓にしてる店が」

「じゃあその店教えて。そこと業務提携するから。貴女の服だけ」


あまりに押しが強くて、流石の我ももう宿に帰りたくなった。


「採寸も終わったし!デザインが湧いて出て仕方がないよ!コートは数日で仮縫いまで仕上げるから!またきて!」


やっと解放された…。


『ご主人、お疲れサマ』

「う、うむ…」

『アレ、よく我慢できたわネェ』


うん。我頑張った。相手が女性じゃなければ訴えてる。


日も暮れてしまったので、宿に戻り元の大きさに戻ったリィに全力で抱きついて毛並みを堪能する。ああ、心が洗われる…。


「リィの毛はサラフワだな。流石相棒」

『まあ、アタシの毛並みがイイのは当然だケド、ここまでツヤツヤなのはご主人のブラッシングの賜物ヨ。流石ね』

「そんな、ほ、誉めるな…!照れるだろう」


でももっと言って。

我、自尊心の塊だから、褒めてくれなきゃ伸びたくないタイプ。


『折角楽しみにして行った先がアレって、軽く同情するワ』

「職人感強過ぎて、あんなに密着してたのに何も楽しくなかった…!」


ついでに、どこぞのツルペタ商人ほどでは無いが、寂しかった。需要はあるけど、…癒されるには乏し過ぎた。


「うあぁああ…」

『重症ねェ…』


ほらほらイイ子ねとリィが器用に我を抱きこんで頭を撫でる。肉球、ふかふか。


…それにしても、最近は散々な事ばかりだな。

人の形をしたマッチョからアリンコ呼ばわりされるし、モヒカン達のモヒカン刈り上げるのわすれた。バイト先は塩をケチって料理を台無しにしていたし、新たに出会った女性は仕事一筋過ぎて怖いし、合法ロリと聞いていた人物はまさかのショタじじいだった…。1番最後が1番凹んだ。


『ねェご主人。確か、王都にはコリー達がいるんじゃなかったかシラ?』

「こりー…?」


…………コリー!


『忘れてたでショ?』

「そ、そそそんなことはないぞ!我が女性の事をわわす、忘れるなど!」


……てへ。


疑わしそうにリィは我を見やるが、疑わしきは罰せずという言葉を知らんのかと問えば、引き下がってくれた。……ふう。


「冒険者ギルドを訪ねてみるか!コリー達に会おうではないか」


この時、我は忘れていた。コリー達、という言葉にて表現されるのは、とある"3人組"の冒険者である事に。

我は忘れていた。3人組の中には、文字通り、この我を震撼させた人間がいる事を。



_____________________________________________


(アリスのげんなり具合が最高値を超えた為、以下暫く擬音・音声のみでお届けします)



「アッリスちゃああああん!!!」

「ぎぃやぁああ!」


シュバッ!ぎゅううう!……ペキッ。


「ああ!もう!ルナ!?言ったよね!?無闇矢鱈にアリスちゃんに抱きつくなって!!!」

「アリスちゃんごめんな、今剥がすから少し待っててね?」


「だいじょうぶ。われ、こころのひろいこ。だいじょうぶ。われ、こころのひろさ、せかいいち。だいじょうぶ。あばらのいちにほん、すぐになおる……」


「アリスちゃんが限界だ!ミエラ!」

「わかってる!いい加減にするんだルナ!アリスちゃんに嫌われてもいいのか!?」

「すみませんでしたごめんなさい。反省してます。どうか嫌わないでくださいアリスちゃん」

「「…変わり身早っ…!」」


『ご主人、大丈夫?』

「……うむ。エディン戻る前に一度挨拶しとこうと思った我の落ち度だし。この程度、秒で治るし…」


でも一つ言わせてもらいたい事はある。


「次やったら、女性だろうが容赦なく、天井から生やしてやるからな」


「アリスちゃん、思ったよりもおこだった」

「いや単純にウザい奴の相手するのってストレスだろ」

「アリスちゃんから繰り出される、可愛い女の子とは思えないくらいキレのあるアッパーカット…!待ってます!」


…もうヤダ、この子



_____________________________________________



「それで…、これは一体…?」


そう聞くのは先程ルナを引きずり離したコリーである。うむうむ。疑問に思うのは仕方のない事だ。何せ、冒険者ギルドに入ってみたら、壁と天井から人間の体が生えているのだから。


我がきた時は間違いなくこんな斬新なオブジェは存在していなかった。では何故こうなったのか。簡単な話だ。


王都の冒険者ギルドに翌朝向かった我は、さっそく絡まれた。


「オィオィ?何でこんなふざけた格好のお嬢ちゃんが、ギルドにいるんだァ?」


何故こうも単細胞なのだろうか。ギルド内で見知らぬ子供を見かけたら、とりあえず殴りかかるか挑発しろという決まりでもあるのだろうか。


「碌でもないな」

『ええ、そうネ…。でもね、かかってくる方も方だけど、1人残らず殴り飛ばしたご主人もご主人ダワ』


うそぉ。


「だって、我の事ふざけた格好って言ったんだぞ?…それに、あまりにうざかったから、アッパー食らわせてやっただけだ!」


よく回る口は下から顎を殴れば物理的に閉じて暫く静かになるって料理長も言っていたし。


「ちゃんと静かになったのに……」


ちゃんと正当防衛なのに…。

周りを見渡すと、我に絡まず遠巻きに見ていた冒険者達は急いで我から更に距離をとった。そんな避けずとも良くないか?くすん。


「と、兎に角、壁に埋まった人たち助けてあげようね?気を失ってるみたいだし、早く建物も元に戻さないと…!」


急ぎつつ我にそう促すコリーを横目に、ミエラが既に天井から冒険者達を引き抜き始めている。ルナは壁から。


……まあ、絡まれたからとはいえ、我がやり過ぎてしまったらしいし、仕方あるまい。…納得はしてないけどな。


「《引け》」


我の影に命じれば、ゆらゆらと足元で蠢く影が真っ黒な煙のように具現化し、四方八方の壁や床、天井に埋まる冒険者達の身体に巻きついて、引き摺り出し、我の目の前に転がしていく。

全て引っこ抜き終わった。次だ。


冒険者達を引っこ抜いた場所にできた穴を塞がねば。


「《回帰セヨ》」


一瞬の閃光の後、冒険者ギルドの中は今までと同じに戻る。ここで私的な乱闘があったとは思えないほどに。


「うん、よし」


直し終わったぞ。と、コリーに言えば、ミエラや周囲の冒険者達と共に目を丸くして、乾いた声でそうだねと応えた。


ふふん。建物は元に戻ったが、我にかかってきた冒険者達はそのままだ!誰が治してやるもんか。


「こ、これは一体、何事だ!?」


直後、騒ぎを聞きつけた役職持ちらしい職員が駆け込んできた。結局冒険者どもの怪我の具合から、色々バレて1週間出禁にされた。


何故っ!?



仕方がないのでやることもなく、今は街の中を歩き回っている。


コリー達は任務の関係で先程エディンに旅立った。途中贔屓の貴族、とやらの関係者に会ってから向かうので、我がエディンに着く頃に着くかもしれんな。いつまでいるか我も不明だけど。

だって露店のメニューは制覇してしまった。


『まあイイじゃない。元々王都には観光の為に来てるんだシ。コリー達にも会えたじゃナイ』

「…そうだなー。出会い頭に肋少しぺきぺきされたくらい、どうってことないなー。だって冒険者ギルドに行った時なんて、絡まれて撃退しただけなのに出禁になったもんなー」

『…散々ネ』

「だよなぁー。うむうう。何をしてもいいことがない。露店の食べ物が美味しいこと以外何もない。何かおかしいぞ、リィ」

『何かって…何ヨ…』


なんというか、世間一般的に言う虫の知らせというか、嵐の前にちょこちょこ嫌な事が起きているような、そういうアレだ。

いつもなら全くもって気にしないのだが。


「うーむ…?」


平民街の中を歩きながら思考する。そして思い至る。この何とも言えない不快感の原因に。


「あ」

『エッ!?』


風が吹き抜けるが如き自然さ。


職人芸を思わせる実に鮮やかかつ早技であった。

恐らくここ数日の我の微妙な不快感の原因である姿の見えない何某は、我に薬を嗅がせ視界を奪い急所を突くことによって完全に意識を刈り取った。

読了ありがとうございます

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