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Another side 1

こんばんは。

本日の更新分はこの話で終わりです。1話前の前書きのお約束をどうかお忘れずに。



商人、ミリアは死を覚悟した。


Cランクの冒険者たちを護衛に、いつも通りに街を出た。先日ランクを上げたばかりだと言う冒険者たちは幼馴染の間柄らしく、連携から繰り出される隙のない攻撃はAランクの冒険者も認める凄さと聞き、今回は彼らに護衛を頼んでいた。


それがまさか、街から次の街の中間辺りで盗賊たちに襲われ、命辛々逃げ出すも結局追ってきた盗賊たちに捕まるとは思いもしていなかった。


そしてまさか、正体不明の多分幼い子供に助けられた挙句、その子供に盗賊たちの寝城に行って冒険者達も助けてもらい、かつその子が盗賊たちを瞬殺してしまうとは思いもしていなかった。


いや、そこまでならまだいい。

最も重要な事は、さらにその後に起こった。


盗賊達が寝城にしていた洞窟は、まさかのゴブリンの巣穴だったのだ。


次々と出てくるゴブリン達。それだけでも20以上という絶望的な数。なのに、さらにその奥から、恐ろしい呻くような声を上げて、一回り大きく、より醜悪なそれが姿を現した。


「ゴブリン、キング……?」


知っていたわけではない。だが、その姿はどう見ても、ゴブリンたちの先導者だ。


冒険者たちは気を失っているし、盗賊たちは元々味方ではない。自分はただの商人だ。

戦えるのは、未だに姿もよくみていない小さな子供だけ。


「は……ははは……!」


絶体絶命。諦めから乾いた笑いがこみ上げた。ミリアは死を覚悟し、固く目を閉じそして……


地を割るような轟音に弾かれるように顔を上げて、絶句した。

夥しい数のゴブリンが、1匹残らず地に伏せて絶命している。


ミリアが顔を上げた際に見たのは、最後の1匹……ゴブリンキングの首が、子供が振り抜いた短いナイフで吹っ飛んでいく姿。


……運悪くも、意識を取り戻した冒険者達共々、その姿を見てしまい、彼らは再び気を失ってしまった。



数日後、依頼を受けてゴブリンを殲滅しにきたパーティーが居たが、着いてみれば巣穴は潰れ、ゴブリンの完全に炭化した死骸が彼方此方に転がっていたらしい。


その中にはゴブリンキングのものと思われる大きな死骸もあり、首だけが消えていた。


急いで依頼を受けた町からギルドに問い合わせると、自分達が連絡する数時間前に、冒険者と商人がやってきて、その依頼は既に達成済みになった事を知らされた。


パーティーのメンバーは獲物を横取りされたことに腹を立てた者もいたが、ギルド内に運び込まれた討伐の印であるゴブリンキングの頭を見て、あまりの恐ろしさに冒険者たちの内2人ほど腰を抜かした。

腹がたつなどとんでもない。


生きているうちに出会わなくてよかった。


そう思ったらしい。


ゴブリンキングの頭を届けにきた冒険者と商人に話を聞こうとしたが、討伐したのは彼らではないらしい。

どういうことかと耳を傾ければ、討伐した人物は冒険者ではなく、助けられた礼もしたい彼らが報酬を支払う為にもギルド登録をと勧めると、それよりオークの捌き方教えてくれと言い、教えたら教えたで為になったといって、さっさと消えたらしい。


仕方がないので討伐の印としてゴブリン達の耳と、ゴブリンキングの頭を持ち帰り、ギルドに報告した。

ついでにとその時捕まえた盗賊団(最近巷を騒がせ、冒険ギルドへの依頼が来るまで後一歩というところだった)も連れてきた。どうやらそれも見知らぬ人物がやったらしい。


夢物語と笑うには、報告に来た冒険者たちの実力と、ゴブリンキングの討伐難易度が合わないし、何より盗賊団も自分達を捕まえたのはその人物だと言った。

それから腹パン恐いとも言ったらしい。奴らの腹には1人残らず、小さな拳跡が、毒々しい色でくっきりと付いていた。


ギルド所属の鑑定士が嘘では無いと判断した為、ギルドでは、その正体不明の人物の捜索をする事になったらしい。


「それにしても、お前ら任務失敗にならなくてよかったなァ!」

「本当にねー。びっくりしちゃったよ。行ったら巣穴は潰れてるし、ものすっごい数のゴブリンの焼けた死骸が転がってるし!」

「オヤジよりもでけえ身体のゴブリンキングを倒しちまうってヤバくねぇ?」


チームメンバーが酒場の主人と今回の話を肴に酒を飲んでいるのを、少し遠くで彼らは見ていた。


今回は報告を受けていたゴブリンの数のが数なだけに、4名以上からという指定があり、その為に2人同士のパーティーでチームを組んだ。

結局やることはなかったものの、一応同じ任務を受けたという事で、今晩は一緒に飲んでいたのだ。


どうやら一緒にチームを組んだ2人は騒がしく飲みたい派だったらしく、同じテーブルに着いたものの、すぐに他のテーブルを回り出したため、結局チームメイト……いや、相棒と共に静かに酒を飲んでいた。


「……拳跡、1つ残らず同じでしたね」

「……ああ。しかも、あの小ささに、商人たちの口ぶりからすると、……まだ子供だろう」


商人はその人物の話をする時、あの子と言っていた。盗賊たちはあのガキ、と。


ゴブリンキングのあの形相。それを恐れず至近距離でなおかつ一撃で仕留めたと思われるその腕前。


ゴブリンの群れにゴブリンキング討伐、人命救出と盗賊退治。それだけの事をやれば報奨金はかなり貰えたし、冒険者に登録すれば実力はあると認められ、最下層からではなく、Cランクから始める事だって出来ただろう。


それをオークの捌き方を教えてもらうなどと、実質礼を受け取らずに姿を消した変わり者。


「是非ともあって見たいものだな」

「……はい、そうですね」


彼らはそう言って、酒を煽った。

読了ありがとうございました!


明日の更新を楽しみにお待ちいただけたら幸いです。

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