迷宮と聞くと思い出す…
迷宮の入り口には兵がいて、コリーが差し出した許可証を確認した。我が通る時だけ物凄く見られたが、止められることもなく迷宮の入り口を潜った。
真っ暗な闇の中へ。逸れ防止という事でミエラと手を繋ぎ足を踏み入れると、全身を包み込むような圧を感じた。まるで水の中に入り込んだ時のような、少しの気怠さを一瞬だけ。
それは直ぐに霧散して、何事も無かったかのように、我々は迷宮の中にいた。
「…やっぱりだけど、広すぎて嫌になるわね」
ルナの言葉にミエラもコリーも苦々しい表情。
「何度か来ているのか?」
「ん?ああ、何度か来てる冒険者に話を聞いてたんだよ。ひたすら広い街が広がってるって。…言っておくべきだったね、ごめん。……ただ、厄介なことに、この街…この迷宮は魔化の影響か、侵入して来るものがあればそれを惑わして呑み込む為に道を変え、街の形を変えるらしいんだ。ダメな時は魔物を生み出して足止めする。
まあ、出入り口だけは動かないから、此処に入ったら必ず入ってきた場所に目印を付けて、それ目掛けて撤退するから、今までの冒険者や調査隊で帰ってこなかった人は居ないんだ」
「迷宮は規模も中の様子もそれぞれ違うけど、普通の迷宮なら、大体探せば価値ある宝飾品とか貴重な武器が出るから人気で、何人も来てたりするけど、此処は別ね。
どこを探してもしらみ潰しにしても、宝は出ない。なのに危険。割りに合わなすぎて依頼者も他の冒険者達に断られまくったみたいだからな」
とりあえず、進もうかとコリーの言葉で前進する。近場の家のドアから順に開けて探すらしい。非効率だな。作者の意地の悪さが窺える。
ふむ。だが、迷宮とはそういうものだったな。
我も魔王の端くれだったから、迷宮自体は知っている。作ったことあるし。勇者への嫌がらせ兼悪戯で。
勇者達が我が城に着くためにどうしても通らねばならない山脈の入り口に、迷宮を出現させた事がある。
道を逸れようとすれば橋から落ちて灼熱の泉に落ちて身体が溶ける。飛んで進もうとすれば大気中に漂う毒で体の中から腐る。勇者は耐えられようと、他の仲間は無事では済まぬからな。まだまだ魔王城に近く無い時点では、仲間を犠牲に進むなどと言う非道なことを勇者という立場が許さぬだろうと思っての入り口配置だった。
そして中に入れば、我がばらまいて置いた財宝に目が眩んで迷宮に足を踏み入れた人間どもが、出口を失ってそれでも財を得ようと彼方此方で血みどろの争いをしている現場を目にすることになるのだ。止めようとすれば逆に宝を奪いにきたと非難されて仲裁どころか巻き込まれる。無視しても絡まれる。
どちらに転んでも勇者一行にとってはさぞかし嫌なことだろう。迷宮を保っている核を門番達を倒してやっとのことで壊して外に出た瞬間、争っていた人間達も外に出られて正気に戻るが、得た報酬は一つ残らず目の前で泥や灰と化す。
疲れて体力もほぼゼロだというのに、得たものは何もない。迷宮内でした怪我が消えるわけでもない。まさに!骨折り損のくたびれ儲けというやつだ!我ながら良い嫌がらせだと思う。しかもこの直後、幹部が急襲し、3つ先の街に着くまでひどい悪夢に苛まれると言う呪い付きだ。嫌がらせとしては最高だろう。
だってあいつら、性懲りもせず何度も来るんだもん。しかも同じ道を通って。我、飽きた。でも可哀想だから魔王城の我の前までは生かしてやった。懐かしい思い出だな!迷宮!
改めてこの迷宮を見る。ただ荒廃しまくった街。……しかし、どこか懐かしい。思い出がどうとかは関係なく、懐かしい気配がする。
「うおっ!?」
『チョットご主人!なにボーッとしてるワケ!?』
リィが我の首元の服を噛んで直ぐにその場を飛びのいた。アレだ。親猫が子猫の首根っこ咥えて運ぶやつ。だが声かけてくれればいいのに。移動したのは良いが、首が締まった。超苦しい。
そうまでしたのに、我が先程まで居た場所には特に何もないし、リィ同様何故か戦闘態勢に入っているコリー達の視線の先にも何もない。
そう、何も見えない。
「…リィ、リィ。離せ。それから、お前の目には"何が"見えている?」
『何馬鹿な事言ってるノヨ!あんな馬鹿でかいゴーレムが見えないって言うの!?』
……見えんなぁ。
『アンタあのままあそこに居たらぐちゃぐちゃになってたワ!見なさいあの足元!陥没してんノヨ!?』
そう言われても、やはり我には此処に入った時から同じ、変わらない景色しか見えていない。荒廃して、整然として、静かで、生命の気配など欠けらもない。リィの言う陥没した地面もなければ、巨大なゴーレムとやらもない。
「アリスちゃん!大丈夫!?」
リィ曰く、ゴーレムと一太刀交えたと言うコリーが我のところまで後退してきた。ミエラが何やら飛び回ってたまに拳やら太刀を打ち込んでいるが、やはり、その標的は我には見えない。ルナも援護で魔法を放っているようだが、実際魔法は出ていない。
「……コリー、ゴーレムは今何処にいる?」
「え!?ミエラが戦ってるよね!?」
確定。我とリィ・コリー達では見えているものが違う。となればこれは、幻術の類の罠だな。実際は何ともない腕をコリーは抑えているから五感までも騙されている。
「…コリー、落ち着いて聞いてほしいのだが、我にはリィ含め見えているゴーレムとやらが見えない。感じ取れない。恐らくだが、幻影魔法の罠にお前達は嵌ってしまっている」
「え!?」
「まあ、我にだけ見えていないから、幻術にかかっているのは我かもしれんが…。幻影を閉じる方法は簡単だ。お前たちがゴーレムとやらを破壊すること。ゴーレムに対して勝算はどれほどだ?」
「……半分…以下かも。硬すぎる。ミエラの剣が通ってない」
「ならここからは別行動だ。我は聖剣とやらを探す。コリー達は怪我しない程度に、戦ってくれ。ヤバいと思ったら先に迷宮を出てくれても良い。リィは援護してやってくれ」
『大丈夫なのヨね?!』
「我の心配はいらん」
我の予想が正しければ、そのゴーレムとやらがいる場所に我が行っても、すり抜けるだろうからな。
「本当に大丈夫なんだね?」
「うむ。問題ない」
我、強いもん。
ケトケトと笑って見せれば、リィが深く溜息をついた。
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