とても愉快な知り合いの子孫
こんにちは。
お約束を忘れずに楽しんでいただけると幸いです。
王と呼ばれる者には、大臣という部下と、国民という王が護るべきものが存在する。
王は国の支配者。国の全て。絶対であり、逆らう事は何人たりとも許されない。誰もが遜り、敬う存在…。
……などと人間はいうが、我からすればそれは間違いだ。王とは国というものの奴隷に等しい。その存在の尊卑が、賢愚が、全て、"他者に依存する"という点で。色々と言葉は足りないのだが、我の言いたい事を簡潔に述べるとするのならつまり、自らが賢王と呼ばれるか愚王と呼ばれるかは、国民の判断によるという事だ。
その為に王は自分の手足を選ぶ。それが部下。
我も選んだ事がある。その殆どが成り行きだったが、我もまた統治の上で必要と判断し、各種族から代表に相応しいものを選出させ、残ったものを事実上、それらの種族の長と認めて配下とした。
その中に半虫族というのがいた。
虫族と他の種族との間に出来た子であり、両種族間から異端とされて煙たがられていた男だった。生みの親ですら彼を捨て、名も与えず、ただ朽ちていくのをまっていたらしい。その男は、虫族の他の候補達をすべて喰い殺して、我に忠誠を誓った。
だから我は名を持たせてやった。…ああ、名付けるという意味ではない。ただ単に、"蠱毒の王"という肩書きを与えて、その肩書きに相応しい名前を名乗れといってやっただけの話だ。
そして奴は自らをドヴィアデズと名乗る事にした。
父と母の名からその名を考えたらしい。普通は両親の事を思い出しそうな名は嫌がりそうなものだが、それでも自らその名を名乗るという事は、どんなに酷い親でも好きだったという事だろうか。そう憐憫を向けていたのも束の間、我が右腕の配下からその名を持った理由を聞いて、我は大笑いしたものだ。
"奴らが嫌がるだろうから"。
たったそれだけの理由。両親が心の底から嫌がる顔を見ると大変気分が良いからという事だろう。自分の嫌より、他者の不幸を優先するところに狂気的なものを感じて、それはそれは愉快に思ったのだ。
今回我が細切れにするのを待ったこのサソリ達、成る程確かに言われてみれば、奴と似た魔力を持っている。まあしかし、1つ許せない事があるとするなら、奴の子孫が命に固執するような言葉を吐いた事だろうか。
あいつは命に頓着しなかった。まあ、半分とは言え同族を喰らうほどの男だから当然なのかもしれないが、奴の子孫なら、刺し違えて自分の命が尽きようとも、相手を絶望の淵に落として嫌がり死に怯え怖がる所を見たいとかかって来るくらいして欲しいものだ。
『…ご主人、何でイラついてるのかしラ?知り合いじゃ無いんでショ?』
「ん?……ああ、そうだったな」
確かに、知り合いではないな。この人間…アリスとは無関係の話だ。
息と一緒に苛立ちを吐き捨てる。よし、問題ない。我はアリス。このサソリ達自体は我とは全く無関係。
……ふう。
「さて、聞き覚えのある名前に免じて、とりあえずは殺さないでおこう。だが、我々を襲った理由を聞こうか」
『理由って…。ご主人サマ、魔獣の類は人を敵と認識して襲う事に理由なんて無いわヨ』
「それがそこらの話の通じない奴ならな。こいつらは、リィと同じで珍しい上位種らしい」
リィも側から見たら牧場襲ってるように見えたが、実際は野菜が欲しくて話しかけに行っていただけだろう?
「上位種は、無闇矢鱈にケンカを売るような阿呆ではない。…此奴らがどうかは知らんが。我の方が強いと分かった時点で撤退しないあたり、目的があるのだろう?」
リィがこれと同類?と物凄く嫌そうに唸った。こらこら、噛みつくなよ?存在を抹消してしまえば、同類はいなくなるとはいえ、絶対美味しくないもん。こいつら。
『その…あの…』
「我、はっきりしない奴嫌い」
プチってしたくなる。
『貴女がそこら中の魔物狩りまくったので私たちの食料が無くなっちゃったんですぅうう!』
『お願いします食料分けてくださいッ!』
『『『お願いしますっ!!!』』』
うむうむ。ハキハキしてよろしい。
「そういう事ならさっさと話せばよかろうに。解体してないやつもうあんまり無いぞ。ロックバイソンは専門の道具使うからまだ捌いてないが」
『ロックバイソン好物ですッ!我々解体してない状態でバリバリいけます!』
「だろうな」
その牙だもんな。
結局ロックバイソン10体とドレインレオンを2体くれてやった。足りるのか聞けば、我が狩ったのと同数程の魔物が、明日の夜には出現するらしい。だから今夜の腹が満たされればそれでいいそうだ。
『ありがとうございます!』
「ん。別に良いぞ。我もここがお前達の狩り場と知らなかったからな。だが次襲ってきたら問答無用で細切れにするからな」
『二度としません!絶対しません!』
「人間も襲うなよ?」
『かしこまりましたァッ!!』
そしてサソリ達は獲物を連れて、砂の底へと消えていった。地平線の果てからはすでに太陽が出始め、空も明るんできている。
「騒がしかったな…」
『夜も明けちゃったワね…』
「……気のせいだろうか、岩場の影にコリー達の幻影が見えるぞ」
『残念ながら本物ネ…。匂いがするもの…』
サソリ達が去って行ったところも、我がいつもの口調で脅しをかけていたところも、現在進行形でリィがフェンリルとしての元の大きさでいるところもしっかり見られていた事だろう。予想外のサソリ達に気を取られて、接近に気付かなかった我の落ち度だ。
釈明の余地はないな。ふむ。
……とりあえず、現実逃避がてら一度寝よう。
我は考える事を放棄した。
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