女性からの誘いに即答できない理由がある
「アリスちゃんや、またよろしく頼むね」
「うむ。リタ殿。いつでも任せてくれ」
腰の曲がったご婦人をお孫殿の家まで送迎して彼女の家の前で下ろし、お礼にと飴を渡されたり、
「アリスちゃん…リボンほどけちゃったの…」
「どれどれ。我が直してやろ。妹君達も並べ。いじめっ子達は後で我がきっちり話をしておこう」
「「「ありがとー!」」」
宿の夫婦の娘やその妹や近所のちびっ子達とたまに遊んで悪ガキをあしらったり、
「アリスちゃん!今度ウチの店の手伝いもよろしくなーー!!」
「うむ!今度顔を出すぞ!」
例の我が直した跳ね橋亭以外の手伝いもしたりと、日常的にこの街でアルバイトをしていた結果、我の顔は広く知られるようになってきた。
我自身が注目を浴びることで、我に視線が集中し、闇討ち以外で勝手な恨みを晴らそうとする輩もいなくなった。いなくなったと言うより、白昼堂々人目のある所やすぐ見つかるような所では我に手出しが出来なくなったと言う方が正しいか。
「退屈だな」
『普通はこんなもんデショ。アンタこの間みたいに襲われるのに随分慣れてるみたいだけど、一体なんなのよ……』
「元いいとこのお嬢さんで現冒険者だな」
正確には"元魔王"が付くが、まあそんな些末なことはどうでもいい。
「襲撃ならよく受けていたぞ。定期的に来るやつと、突発的に下克上狙ってくるやつがいた」
『元いいとこのお嬢さんとは思えない程の襲撃ね…そもそもあるのね、襲撃…。…ああ、求婚ね?そうよね。令嬢なら。他の家だけじゃなくて使用人からもだなんて…。ワタシ並みに罪作りなオンナね…』
本当に定期的に勇者が来て我を倒そうとしたり、野心あふれる魔族が魔王の地位を簒奪せんと向かってきたりしていたのだが、どう説明すべきか分からんから、まあいっか。リィは何を思い出しているのか、アタシたちみたいなイイ女には宿命みたいなものヨネ…と、頭の上で黄昏ている。邪魔すると怒られるから放置。
そのままギルド会館の依頼掲示板を見ていたところ、急に身体が浮いた。理由はわかっているので驚く必要もないが。
「アーリッスちゃーん!」
「ミエラさん、こんにちわ…」
「ミエラッ、アリスちゃんを勝手に抱き上げるとか犯ざ……きゅう…」
その後ろから追ってきたコリーとルナの方にミエラが身体を向けた。ルナは倒れた。何故。
「アリスちゃんの、かわいさが…!可愛さが…!犯罪級です…!」
「ミエラの事が羨ましかったんじゃ…」
「コリー。そんな事、アリスちゃんの可愛さの前には塵同然だよ…!新しいお洋服がもの凄く似合ってる…!アリスちゃんのお洋服になりたい」
「「アウト」」
今にも我に伸ばそうとしていた腕をコリーと、我を下ろしたミエラが抑える。我も距離を取る。
「コリーさん、ミエラさん、ルナさん。こんにちは」
笑顔はにっこり、爽やかに。
「久しぶりだね、アリスちゃん。元気そうでなによりだよ。さっき冒険者ギルドに寄ったら、アリスちゃんがもうCランクに上がったって話を聞いたんだけど、本当?」
「あー…。はい、一応」
正式に発表されたせいで、もうFランクのお手伝い項目の飲食店のアルバイトを紹介してもらえなくなった。まあいい。めぼしい店の店主達とは顔見知りになったからな。各店ごとの様々なツマミのレシピを、料理や接客を手伝うという名目で盗み知る事ができる。厨房に不信がられずに潜り込めるというのは良いものだ。あとは可愛い制服が着れたら最高なのだが、大抵どこもエプロンだしな。
…それはさて置き。
「凄いな…。エディンを拠点にしている冒険者で、ここまで直ぐにランクを上げた者は珍しいよ」
「……拠点?」
「違うのかい?」
「…そう、なんですかね?今のところはまだここに居るだけで、もう少し資金を貯めたら別の街に向かおうと思っているので」
「あ。そっか。アリスちゃんはまだ駆け出しだったね、…一応」
うむ。本当に一応だな。
「…もし、良ければなんだけど、アリスちゃん。私たちと組んで依頼を受けない?」
「依頼、ですか?」
困ったな。我、基本ソロプレイ必須なんだが。影響が大きすぎて、我と共闘とかできないらしいのだ。戦闘に出れば我の殺気に当てられ気を失う、流れ弾に当たってぽっくり…とかよくあった。それからというもの、我が気兼ねなく戦えるのは最前線か最後尾(魔王の城の玉座の間)という事となった。
「依頼の、内容を聞いてもいいですか?それから、多分私、皆さんと共闘は出来ないと思います…」
「あ〜…連携とかについては、気にしないでくれていいよ。すぐに連携とか出来る方が変だし。後方支援とかくらいはお願いしたいけど。一緒に行ってみて、今回限りとかでもいいから。ね?お願い!」
「アリスちゃぁあん!おねがいいい!アリスちゃんは私が守るからっ!そう!それこそ毎晩添い寝して夜もバッチリガードをうぐっ…」
するりと拘束を抜け出したルナが飛び出してきて、今度はミエラから一発食らって気を失った。…う、うむ…。我、女子は漏れなく好きなはずなのだが、ルナに関しては少々……身の危険を感じる方が強いな…。
「あたしら、これでもCランクのパーティーなんだ。この辺の依頼は大抵受けられるんだが、ちょっと人数制限が邪魔して受けたい依頼が取れないでいる。報酬は勿論分けるし、アリスちゃんを無理やり連れて行ったりしない。
だから、話だけでも先ず聞いてもらえないかな」
ミエラがルナを簀巻きにしながら申し訳なさそうに言うので、話を聞くことにした。美人に悲しそうな顔をさせておく紳士などいないからな!
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