なぜかまたランクが上がった
以前の習慣が抜けずにニワトリが鳴く前におきてしまったので、腹いせに野良にわとりを狩りに出かけた。そして2羽ほど絞めて帰って、宿で温かい食事を食べて、まだ眠そうなリィを頭に乗せてギルドへ向かうと、超笑顔のエルサ殿に捕まった。
「何故?」
「心当たり、あるでしょう?」
全く無い。首を傾げる我の頭の上では、リィが呑気に欠伸をしていた。
またあの小部屋に連れて来られた。
「昨日、アリスちゃんが教えてくれた契約書の件でデラグと話をして、あのお店の借金は帳消しかつ慰謝料を払わせたから、お金を届けに行ったのよ。夕方も過ぎていて、あれだけ壊れていたから生活も厳しいかと思って。
けど、行ってみたらなんとびっくり。お店は元通りどころか建てたばかりの新築ピカピカでね?ご夫婦が可愛らしい格好の子が現れて、魔法で直してくれたそうよ?」
「ほお?それは良かったな。まだまだ寒いからな。寒さは身体に堪えよう」
「……それから、最近東の森の奥に大型で危険なモンスターの目撃情報が出たから、討伐の為に冒険者を集めて日夜見張りをつけてたんだけど、今朝方、超機嫌悪そうな可愛い子が、物凄いスピードで現れて瞬く間にモンスターの首を飛ばして捌いて収納して街へ帰って行ったそうよ?5メートル級のコカトリス2体を」
「おお!妙に冒険者が集まっていたのはそのためだったのか!」
「……さっきアリスちゃんはコカトリスの素材を回収場に下ろしたわよね?薬草と一緒に」
「我が出したのは鳥の羽と卵と蛇に魔石だが?
…肉は午後から捌いて食べるもん」
「食用?食用なの!?」
「捌き方は昔教わったのでな。勿論専用包丁も持ってるぞ」
ちゃんと使ったら研いでる。使い込んではいるが刃こぼれも無い美品だ。胸を張るが、誰も褒めてないとリィとエルサが同時に応えた。なぜだ。
「はぁ。とりあえず、アレをやったのはアリスちゃんで確定ね。薬草とコカトリス討伐と洋食店のお手伝い…1番最後のはあの後依頼として事後申請があったから、受理。はい、これで実績は十分な事にします。アリスちゃんは今日からDランクね」
「…そんな簡単に上げると色んなところから怒られるのでは?」
「正当な評価だと思うけれど?」
こちとら本当はCランクまで上げてしまいたい所を我慢してるのよ。察しろと言われた。んなこと言われても我、別に悪い事してないもん。
「話は以上。今日は何か依頼を受けるの?」
「今から例の店で料理を習う。その後時間が余れば、今日の夕刻までに終わりそうな依頼がないか探すつもりだ」
しばらくはそんな感じだろうな。
「それはよかった。暫くは平和に過ごせそうだわ」
あんまり目立つ事はしちゃダメよ?と、再三注意をされて解放された。我、何もしてないのに。
『まあ良いじゃナイ。今から料理を習いに行くんでショ?アタシは屋根で寝てるから、気にしないで思う存分楽しんでらっしゃい』
「うむ!」
意気揚々とあの店にたどり着き、解体した鶏肉を材料に包丁の使い方の復習から。料理長には何度も教えてもらっていたものの、結局我が料理を作る機会は無かったからな。見た目も味も悪くはないと思うのだが、料理長を始めとした使用人達からは、絶対に、あの義母と義姉たちに見つかってはいけないと言われた。だがまあ、既に家もでたからな。作っても問題無かろう。
「アリスちゃん、料理習いに来たって言う割には、きちんと包丁も使えてるし、手慣れてるわね」
「ん?そうか?」
「味もいい。ウチの店で出しても良いくらいだよ」
そんな訳で、シチューから始まり唐揚げ、テリーヌ、蒸し鶏などを作った。我、褒められて伸びる子だから。
…途中から昼の営業が始まり、店が再開したと聞いた常連客が来て料理と酒をかっくらい、昼間から宴会みたいになった。いいのかこれ。店主も酔い潰れているぞ。
お陰で我も好きなだけ作れて楽しいが、店主が潰れては会計その他諸々困らないのか?
…という我の心配は無用だったらしい。
夕方も過ぎてしまって私が帰ると言ったらおかみが中華鍋とお玉を取り出して、裏側を思い切り叩いた。どら…。
「アンタたち!アリスちゃんが帰るよ!!だらしなく酔い潰れてないで金払ってさっさと家帰んなァ!」
先程までの酔ってぐでんぐでんの男達はどこへやら。顔の赤みはあるものの、皆ピシッと立っておかみさんの前に料理代、我の前にも何故かお金を置いて帰って行った。
「…お、おかみよ。これは…」
「アリスちゃんへのチップさ。貰っときな。暫くバイト代出せない代わりだと思って。それからギルドに依頼して、正式な仕事として申請しておいたからね」
「しかし、今私よりもこれは店の売り上げにした方が「い い か ら」う、うむ」
チップをしまって礼を言ってから宿へ戻った。おかみの圧が凄かった。この我を怯ませるとは中々だな。
『上機嫌じゃない…』
「いや中々に楽しかったぞ」
『あっそう。でもあの馬鹿でかい音は2度と御免ヨ』
それはすまない。とケラケラ笑った私に、しっかりマッサージして頂戴とリィはため息をついた。
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