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毒殺されかけたら前世思い出した

はじめまして。またはお久しぶりです。

そしてよろしくお願いします。


私、アトリシエ伯爵家が三女、アリステラは、いつも通り、まだ陽も顔を見せぬ早朝から起床し、裏庭から汲んだ水で顔を洗って、畑の野菜を収穫、料理長(シェフ)に渡し、料理を教えてもらいながらも食器類を磨き上げる。

朝食が伯爵たちの食堂に運ばれていくのを傍目に、料理長が別に用意してくれたパンとサラダとジュースを、使用人たちの食堂で食べてから、1人で着替えて、さて、今日も特に役に立たないマナーと教養のレッスンを自室で受ける。

因みに家庭教師は見つからなかったので、使用人たちが持ち回りで教えてくれます。……使用人用のマナーと教養だけどね。


私には姉が2人いる。2人は本妻の子で、母親と同じ金髪と、父親の青色の目を継いだ、まあ中身はともかく見た目は麗しい令嬢。私は所謂妾の子で、父親と同じ黒い髪と母親の紅い目を継いだ。……黒髪は別に珍しくもないんだけどねー。


……ああ、私の早朝の日課が、伯爵令嬢にしてはおかしすぎるって?5歳の時に母親死んでからずっとこうだよ?勿論上2人はちゃーんと侯爵夫人とかから、令嬢としてのマナーを習ってるから安心して。その常識は間違って居ない。まあ、詳しくは言わないけど、本妻からの嫌がらせみたいなモンですわ。ぶっちゃけ使用人マナーとかそっちの方が色んなことに役立ちそうだから、それでいいやって思ってるし。

父親も庇ってくれる気、ゼロだし。


……と、まあここまで割り切れるようになったのは、この間、10歳の誕生日に、珍しく本妻が"優しさを求めていただけのただの弱い令嬢"の私に、毒入りジュースを送ってくれたお陰なんだけどね。


初っ端からヘビーだよねー。


まあ、それはいいよ。寧ろ、毒を飲ませてくれて感謝してる。

そのお陰で、……"我"は、人間に生まれるという何とも面白い運命に気付いたのだから。


10歳の誕生日、何も知らない哀れな少女は毒入りの飲み物を口に含み、倒れた。貴族の女は喜びに緩む頬をなんとか抑え込もうと誠に気味の悪い顔をしていた。

焼け付く喉、締め付けられるような痛みと、早く大きく感じる心音。声にならない悲鳴が呼気と共に口から吐き出され、傍目から見ても即効性の毒であると、誰もが分かる状態だった。

そんな中でも、哀れな少女は、なんとも稀有なことか、目の前の犯人を恨むでも憎むでもなく、憐れと、思った。


それは奇しくも、"生前"の我と重なった。


我が力の前に敗れ、幾度となく死に行く勇者に対して抱いた感情と、同じだった。


そして我は思い出した。

自分がかつて、"何であったか"を。


今世で散々魔王と罵られ蔑まれ、この少女はその度に傷ついて来たが、全て思い出した今となってはまあ……よくわかったなと思うだけなのだが。


前世、我は魔王だった。

それ故に、……いやあー、思い出した途端に、全ての能力が目を覚ますとは思わなかったよ。毒は無効、呪いも無効、精神系の魔法も無効、魔力はメーター振り切って、その他諸々ヤバいことになっちゃった!えへっ!


それで体を巡っていた筈の毒が無毒化しちゃったんだよね。突然苦しんで死にかけた人間が、その数秒後、何事も無かったかのようにけろっと起き上がって欠伸をしたら、流石に本妻も顎が外れて腰を抜かしちゃってね!いやぁ、驚きすぎだよねー?折角の麗しの美貌(笑)が台無しだった。それはそれで笑えた。


それから、本妻は私を怖がって近づいて来なくなった訳だけども。ぶっちゃけた話、父親も貴族の三女なんて要らないって思ってるよねー。と言うわけで、私がここにいても私もあちらさん(伯爵家)も幸せにはならない訳よ。

なら、出て行っても良くない?


思い立ったが吉日。私は領地を開けて、王都で仕事をしていた父親が帰ってくる日を待っていた。

それが今日である。この日を一日千秋の思いで待ち続けた……。……毒殺されかかってから、まだ2日しか経っていないがな。大方まともな執事長から、私が本妻に殺されかけたと連絡を受けて急いで帰って来たのだろう。殊の外早く帰って来たな、父親。何せ父親は私になんの興味も価値も無いと割り切っていたようだから、少し驚いた。


追求された本妻曰く、私に宛てている莫大なお金(可笑しいなあ、私のドレスは二着着まわしで特におもちゃの類を買ってもらったりした事はないんだけどなぁ)を節約したいが為にやったそうな。

勿論私が生死の境を彷徨ったので流石に父親に責められた時は、顔を真っ青にして心配してますといった程で、オブラートに、この伯爵家の財政を心配して、私が自ら毒を煽ったと言い放っていたけどね。


まあお陰様で、この父親と2人で話すことになったのだが。


「……毒を飲んだのは本当か」

「はい。確かに毒は飲みました」


自主的じゃ無いけどね。と付け加えておく。父親は渋い顔をしてやはりかと呟いた。うん、流石旦那。自分の妻のやった事くらいはお見通しと。


「……執事が毒の容器を見つけている。入手経路的にも、お前が自分で毒を手に入れられた可能性は低い」


またもや意外にも、父親はこの話し合いに入ることも同席すらも許されなかった自分の妻の本性をよく知っているようだ。


「……姉2人の婚約が中々決まらない。令嬢を少なくとも2人嫁がせなくてはならない伯爵家では、持たせられる持参金が少ないのでは無いかと噂されているのを聞いたのだろう」


そういえば、誕生日の前日は本妻は夜会に出ていたな。

ならばちょうどいいじゃないか。


「伯爵、私を放逐しませんか?」

「は?」

「いえ失礼。貴族のアリステラ・アトリシエはこの間毒杯を煽って死んだことにして、私を家から出しませんかと申し上げました」


伯爵はそれこそ何を言われたのか分からなかったらしい。呆然としている。


「自分の容姿に嫌気がさして、こんな醜い姿なら、死んだ方がマシだと言って毒を自ら飲んだとでも言えば、すぐに忘れ去られる話になるでしょう」


暫くの間、伯爵は信じられない物を見る目で私を見ていたと思えば、私の余りにも淡々とした様子に、何やらその人の中で、"母親を亡くし居場所を求めていただけの弱い令嬢"であるアリステラは死んだと、納得したようだった。

まあ、以前の少女なら自分を死んだ事にしろだとか、家を出ていくだとかはいわなかったに違いない。


そして次の日、私は父親から「父親としてなにも出来なかった私が、唯一お前に与えられるものだから」と、渡された金を持って、家を出た。

先行投稿している分はなるべく早くこちらにも投稿していきます。

読了ありがとうございました!

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