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鏡が女王の邪魔をする

作者: 猫側縁

深夜テンションで書いてしまったシリーズ(今考えた)なので、細かい事は気にせずに頭の中は空っぽにお願いします。




東の果ての小さな王国。

硝子と白亜でできた城の王の間にある大きな鏡の向こう側。

長い螺旋の階段を降った先の、暗くて冷たい静かな部屋。


壁掛け鏡を前にして、その女性は問いかける。


「鏡よ鏡。この世で1番美しいのは誰?」


腰元まで伸びた艶のある白金の髪。

髪と同色の長い睫毛に縁取られた目は澄んだ青空のよう。

透き通るような白い肌も相まって、その存在は酷く儚げでガラス細工を思わせる美しさだ。

今にも崩れ落ちてしまいそうな危うさが、その美しさに拍車をかけている。


その指先が鏡面に触れず離れずの位置で、撫でるように降ろされる。

誰もが目を奪われ、心を動かさずにはいられない。傾国級の美しさとは彼女の為の尺度である。


そんな彼女は自らの容姿のせいか昔から、悲しいことに容姿の美醜に酷く執着していた。

幼い頃から自分の姿は、人を惹きつけると理解していた。

例えば家庭教師になる人間は老若男女問わず最終的には自分を攫うか共に死ぬ事を望んだし、

例えばお付きのものはいつでもこの容姿に見惚れて碌に仕事をしなくなってしまったし、

例えばお茶会に出るとそれが好奇であれ嫌悪であれ視線を止めたまま、その場の誰も話さなくなってしまう。


彼女は、自分の容姿が毒である事を知っている。美しければ美しいほど、自分の思うがままに物事が進み、逆なら結果も逆になる。悲しいかなそんな世の中である。


そんな彼女は、斬新すぎて退屈な無音パーティーに出席していた時、この辺りでは見かけないある男性に声をかけられ、そのまま求婚された。大変珍しい事だった。いつだってダンスに誘われる事は無かったからである。というか、男性側が誘う為に目の前に出てきても、緊張で頭が真っ白になってしまい誘えないと言うのが真相ではある。


そんな彼女は、その男…現在彼女が女王として君臨する国の王に、『自分には歳の離れた物凄い美少女な妹だけしか家族がいない。こうして貴女に声をかけている事からわかる様に、美しい顔立ちには耐性がある。だから嫁に来てくれない?』…と、端的にはそんな事を言われて、二つ返事でOKした。

毎日毎日が退屈だった彼女には、その王がとても新鮮に思えて、まあ悪く無いと思えたのである。この容姿を前にして、妹を美少女と言い切ったその胆力がお気に召したと言うのも一理ある。


そして彼女がその国に嫁ぐ事になり、初めてお披露目された際、歴史あり過ぎる城は余りにも彼女が座すには趣深過ぎた為、各国の超一流大工達(過去彼女の姿に見惚れてからというもの、高い建物建設技術が向上してしまった)により、たったの3日で現在の新しい城が造られた。何故高い建物の建築技術が上がってしまったのかは分からないが、とりあえず、彼女の住んでいた部屋は高い塔の最上階にあった。


さて、その城の、秘密の部屋。

大きな壁掛け鏡があるその部屋。

彼女は最早、日課となったその言葉を投げかける。


「鏡よ鏡、この世で1番美しいのは誰?」


そのくらいしかする事が無いのである。

夫も義妹もこの城にはいつもいないから。

……最初はそんな事もなく、楽しい毎日を送っていたのに。



嫁いで来てすぐ、彼女は王の妹であるスノーに出会った。確かに美少女だった。

自分とは違ってクセのない濡羽色の髪は肩のあたりで綺麗に揃っていて、赤色のリボン飾りが良く映える。

こちらを伺う小さなお顔はバランス良く、髪と同じ黒い瞳は吸い込まれる様な輝きの黒曜石を思わせた。

シミひとつない象牙の肌…白くも健康的で、自分が隣に並ぶと病弱に思われそう。

はっきり言って、物凄く可愛かった。

しかも突然現れた自分を、お義姉さま(おねえさま)と呼び、慕ってくれた。

お忍びで2人揃って街に遊びに出かけたり、近くの湖にピクニックに行ったり、

読書会や刺繍を一緒にしたり、と、関係は良好だった。彼女にとって、それは本当に貴重な事だったから。今までこうして語らうことも触れ合うことも無かった彼女にとって、それは本当に貴重な事で楽しい毎日だった。…だが、非常に良好過ぎたのかもしれない。


端的には、王が嫉妬した。妹に。


「私のお嫁さんなのに!」

「私のお義姉様でもありますっ!」


生まれて初めてという兄妹喧嘩の末に、妹は城を追い出された。

女王は激怒した。離婚すると騒いだ。すると何処から嗅ぎつけたのか、離婚するならうちの国の王子の嫁にやらうちの国王の後妻にとか、手紙がわんさか届く様になった。

結果、


「ちょっと私の嫁に手を出そうとしてる輩潰してくる」


と、王はいい笑顔で騎士団を引き連れて他国に遠征しに行ってしまい、ほぼ国内にすらいない。

その留守を狙ってスノー・ホワイト…白雪に会いに行こうとしたが、どこから聞きつけて来たのか、王はこの鏡を持ってきて、


「この世で最も美しい人が誰か聞いて、鏡が貴女以外の名前を答えたら、この城を出て妹に会いに行っていいよ」


と、言った為、城から出られずに毎日毎日鏡に問いかける日々が始まったのだ。お陰で白雪姫が城の警備の目を盗んで会いに来てくれる日以外は会えない。ここ最近は警備が厳しくなったのか全く会えていない。

王の言う事は絶対である。その為彼女は大人しく、毎日鏡に問いかける。


「鏡よ鏡。この世で1番美しいのは誰?」

『はい。それはエルエダ様です!』


時に椅子や金槌や釘を構えながら。


「粉々になりたくなければ答えなさい?私より美しい人がいるでしょう?白雪ちゃんとか白雪ちゃんとか白雪ちゃんが」

『いやー、自分嘘付けないっていう罰で縛られて鏡やってるんで。嘘つくとそっちの方が怖い事になるんで。美しいのはエルエダ様ですよ』

「貴方、白雪ちゃんが美しくないって言うの?叩き割るわよ嘘つきが」

『いやぁ、白雪様、確かに美しいですよ?でもどちらかと言えば可愛らしいって評判です。可愛さを問う質問なら白雪様ですけど、この世で1番美しい人って聞かれたらエルエダ様一択ですねー。周辺諸国も、白雪様は可愛い、エルエダ様は美しいって事でフィーバーしてますし』

「…」

『そんな落ち込まないでくださいよぉ。

というか、そんなに白雪様に会いたいなら、毎日の自分磨きをやめてみては?』

「別に磨いてないわよ。最低限の事しかしてないわ。でも白雪ちゃんと会う時に、最高に綺麗でいたいから、最低限はしっかりやるの。あの可愛くて綺麗な白雪ちゃんの、義理とはいえお姉さんなのよ?見窄らしかったら白雪ちゃんに恥をかかせる事になるのよ?そんなの耐えられない!白雪ちゃんの自慢のお姉さんでいたいの!」

『んー、大変ですねー(ふて寝してる間にメイドたちが毎日磨き上げてる事は言わんとこ)』

「本当に、大変よ…。私一応この国の王の妻なのに、何で毎日毎日他国の王侯貴族達から求婚の書状が届くわけ?お陰で夫がブチ切れてほぼ城にいないし。だというのに私から白雪ちゃんを取り上げて城を追い出すし。こんなの結局、前と何も変わらないわ。退屈…いえ、あの頃は人と触れ合う事が楽しい事とは知らなかったから、今の方が苦しい」


しゅん、と落ち込む姿すら、庇護欲を掻き立てるだけ。しかしこれが数ヶ月も続けば哀れみも出てきてしまったのか、鏡はどーしよっかなー、と少し困った後、仕方なく白雪の今の様子を見せてあげる事にしました。


『内緒ですよー?』

「ええ!ありがとう」


花が綻ぶような笑顔を見せたエルエダだが、鏡に映った景色に衝撃を受けて固まった。


『どうしましたー?』

「し、」

『し?』

「白雪、ちゃんが……見知らぬ男たちと同居してるぅううう!!?」

『ああ、森の小人達ですねー』


破廉恥!と叫んでエルエダは気を失った。すぐさま現れたメイドたちに、また身体を磨きに磨き上げられるんだろうなと思いながら、鏡はそれを見送った。


……うん。


『明日はバール…の様なものかなぁ』


残された鏡…の破片を通して話を聞いていたその人物は、曜日を数えてそう言った。


今日も明日も明後日も。

毎日凶器を振りかぶる、女王が誰より美しい。まあそれも当然だ。


「だって、私の妻だもんね。

…さて、今日もやろうか。あと5つの国の王と3つの国の王子と、9つの国の貴族を黙らせないといけないし。……この辺の国細か過ぎないかな。最早領地ってうちの爵位持ちが持ってるくらいの大きさしかないよね?…ああそれよりも、早く帰ってあげなくちゃ。寂しくて泣かれたら私が悲しい」


今日も明日も明後日も。

多分女王は白雪姫に会えない。


鏡はきっとこう答える。


『今日も明日も明後日も。この世で1番美しいのはエルエダ様です』

読了ありがとうございます。

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