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【2、下弦の月】

「ごめんなさい」

「……」

「王女様から聞いたわ」

「……」

「勘違いだったわ……」

「……」

「本当に……心から謝るわ」

「……」

「マットの……愛を……叶えたかっ……たのおぉ!!ごめんなざい……!」

「……」


 マットは朝まで酒場にいたようで、お酒臭い匂いを残したまま無人の食堂で水を飲んでいた。

 マットは私の方を見ない。そりゃそうだ。私の顔なんて見たくないだろう。


 私なんて見えていないかのように、マットはだるそうに席を立ち寮へと戻っていった。



******



 それでも、マットと私は同じ職場の同僚だ。嫌でも顔を合わせ、仕事をしなければいけない。


「マット、おはよう。ごめんなさい」

「……」


「マット、従僕のアリソンから伝言のメモよ。それとごめんなさい」

「……」


 同僚として顔を合わせても、視界にも入れてもらえない。

 私はマットの同僚でもあるけれど、もはや全自動謝罪マシーンだ。語尾はごめんなさい。抑揚をつけてごめんなさい。


「マット、今日もごめんなさい。お疲れさま」


 たまに逆になるのもごめんなさい。

 笑顔を崩さないように挨拶をしたら、サッと背中を向けて唇を引き結ぶ。笑顔笑顔。そのままいつものように、背中でマットの足音を聞きながらフェードアウトしようとしたが、今日は風向きが変わった。


 マットの足音がこちらに近づいたのだ。

 え!?と勢いよく振り向けば、思ったより近くにマットが立っていた。


 私を見下ろす視線には、前まであった甘さなんて一ミリもない。


 は、と息が漏れた。


「……わかったよ。謝罪は受け取った」


 この視線や声を受けて、恋人同士だった頃のマットの仕草ひとつひとつには熱があったのだと今更気付く。

 もう無くなってしまったけれど。でも。私の視界のマットがぼやけてしまう。


「ま、、、マッドおぉお!!」


 思わずとびかかってしまいそうになり、ぐっとこらえる。

 マットも来る!と咄嗟に身体が動いたのか、前のように受け止めてくれるかのように手を広げて、ハッと下した。


 あぶないあぶない。わたしたちは、どうりょう。


「謝罪は受け取ったが、俺とお前は同僚で、それ以上でも、それ以下でもない。ウロチョロするな。邪魔だ」

「うぅ……ありがどう……ッ! 同僚に、なるっ、なるぅうう」

「……」

「うわああああん!!」

「……」


 マットは心底うんざりした顔をしていたが、謝罪を受け入れてもらえてよかった。

 次の日からは心を改め、マットとは普通の同僚として接することにした。


 まだマットは固い態度を崩さないが、同僚として接する中でまた気軽に話せるような間柄になれたらいいな。そう。同僚として、普通に、普通に過ごす中で。


「おはようマット」

「こんにちはマット」

「お疲れさまマット」


「うざい。無意味に話しかけるな」


 普通に挨拶していただけなのに、同僚にうざがられてしまった。解せぬ。


 仲を深める最初の一歩は挨拶からじゃないのか。

 まだ挨拶+天気の話しの段階まで進んでいないのに、早速うざがられてしまうとは。


「同僚の適切な距離感よ」

「もう一人の護衛に同じ量話しかけてから言え」

「むむむ……ッ。……ごきげんよう、ハリー」

「ごきげん……よ……ふは、勘弁してくれ!」

「笑うな」


 ハリーは肩まである金髪を揺らし、大笑いを始めてしまった。

 ゲラなのかしら。


「本当にエリーはかわいいな、好きになっちゃったよ。ふはッあははは!」


 大笑いしながら可愛いって言われた気がしたけれど、冗談かしら?

 新しいラブストリーは突然にってやつ?




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