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第四話 シュリーフェンとモルトケ


 ビスマルク失脚以降、ドイツ帝国はフランス、ロシア帝国の二大国に対応する必要があった。

 その中で時の参謀総長、シュリーフェン伯爵が考案した作戦こそが有名なシュリーフェン・プランである。内容は、まず防御の固そうな独仏国境付近ではなくベネルクスの中立を侵して半ば奇襲のような形でフランスへと侵攻した後、ロシアに対応するというものであった。

 この作戦の重要な点はロシアでも独仏国境でもなく、ベネルクス方面に戦力を集中することであった。

  開戦が間近に迫った1913年、シュリーフェン伯爵は遺言で「もっと右翼ベネルクスを強大にせよ」と言い残してこの世を去った。

 それではその翌年、実戦ではどのようになったのか、順を追って見ていきたいと思う。


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 開戦した後、最も動きのあったのは西部戦線(独仏戦)であった。

 ドイツ帝国は早速シュリーフェンプランを発動してみると、想定とは違ったことが次々と起こった。

 まず、形式的と思われていたベルギー軍の抵抗は実際には本格的になったことである。これにより計画から遅れが生じたとともにベルギー領内の鉄道が破壊されたことで物資の輸送にも支障をきたし、その後の戦いに影響を与えた。

 次に、ロシアが想定以上に早く侵攻を開始したことである。これは、帝国領を少しでも失いたくなかった小モルトケ(普仏戦争で活躍した大モルトケの甥)が東部戦線(独露戦)に原案より戦力を増やしたこととヒンデンブルク、ルーデンドルフ両名の活躍によって被害の拡大は食い止められた。

 そして最右翼の進軍速度である。作戦では部隊は扇のような形で進軍するとされていた。しかしそれでは最も先にあたる最右翼での進軍速度は当時の限界を超えていた。これによって各部隊の足並みは乱れた。

 極めつけは小モルトケによる悪名高い、作戦計画の「改悪」であった。改悪ではないという説も無論あるが、少なからず影響を与えたに違いない。その改悪とは――右翼からの戦力の移動であった。シュリーフェンプラン唯一の取り柄であった西部戦線右翼への集中が行われなくなった。これによって作戦はオリジナルほどの効果は持たない。

 この作戦に関しては多くの検証がなされた。有名なものには、先程挙げた進軍速度を理由に実現不可能というものがある。

 しかしながら、かなり減らされようとも右翼はパリ目前まで到達した。


 ドイツが勝てる可能性は、そう多くはなかった。そしてパリを目前にして、その一つは潰えたのであった。


 ドイツの最右翼――クルック将軍が率いる第一軍はパリまで数十キロに迫っていた。しかしこのとき、彼は気づいてしまった。隣にいるはずの第二軍との距離がかなり開いていたことに。クルック将軍はこの間を敵に突かれては味方と分断されて孤立してしまうと判断し、東へと方向転換をした。これが世にいうクルックターンである。恐らくは右翼の人員が減っていたことが原因ではないだろうか。

 何はともあれ、ちょうどその頃にフランスでは大規模な反攻が予定されていた。かくして両軍はマルヌ川付近で会戦(大規模かつ重要な戦闘)が行われることになった。それこそが世界大戦の趨勢を決した(第一次)マルヌ会戦である。

 ドイツ第一軍は東方のフランス第五軍に対応していたが、パリからフランス第六軍が出撃したことで辛い戦いを強いられた。ドイツ第一軍は一先ずフランス第六軍に攻勢を集中し、押し返した。ところがそれによって開いたドイツ第二軍との間をイギリス海外派遣軍(BEF)に突かれたことで形勢が悪化し、撤退した。

 このとき、パリからは第六軍が崩壊しないようにタクシーで兵士が前線へと輸送された。このことがフランスの団結を高めたという。時代は最早、被害が限定的である局地戦ではなく、国家の全力を尽くして戦う凄惨な総力戦へと移行していた。


 これ以上の撤退は避けたいドイツ軍は塹壕を掘り始めた。塹壕はその性質上、一度背後に回られると脆いため瞬く間に広がり、西部戦線では英仏海峡からスイス国境まで展開された。そして塹壕の発生は防御優位を招き、戦線が膠着した。ここに人類史上初の世界大戦は長期化に至ったのであった。


この世界大戦の主要な構図は、フランス、イギリス、ロシア帝国対ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国となっています。


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