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第二話 僅か数発の銃声

サラエボの街に、数発の銃声が轟いた。


 所は変わってオーストリア=ハンガリー帝国。帝国では1889年、奇しくも第四回パリ万博と同じ年に事件が起きた。マイヤーリンク事件である。

 皇太子が愛人と共に変死体で発見された。暗殺、心中など、死因は定かではない。

 しかしながら、このような事件が起こるほどオーストリア帝室は揺れていた。


 そして1900年――第五回パリ万博と同じ年――の6月28日――ヴェルサイユ条約の締結と同じ日――に帝国の皇位継承者、フランツ・フェルディナント大公がチェック人の伯爵の娘、ゾフィー・ホーテクと結婚した。

 この婚姻には多くの苦難が付き纏ったが、大公を皇太子ではなく皇位継承者とするなどのいくつかの条件を認めてようやく漕ぎつけた。

 ところがゾフィーは宮廷の貴婦人の格好の餌食となる。

 大公もゾフィーも、老いた皇帝フランツ・ヨーゼフが崩御するまでの辛抱だと思い、必死に耐えた。

 ところが皇帝は元気なままで14年が経過した。

 大公はゾフィーを気の毒に思い、ある提案をした。

 ――今度の軍事視察は丁度結婚記念日と重なるから、一緒に行って現地の人に祝ってもらおう。


 こうして二人は二度のバルカン戦争などで荒れていたバルカン半島の街、サラエボへと向かったのであった。


: : : : :


 ――1914年6月28日 オーストリア=ハンガリー帝国領サラエボ(黒手組カヴリロ・プリンツィプ視点)


 私はこの上なく緊張している。しかし、それが愛する祖国のためであるというのなら、私は必ずやってみせる。

 アピスは言っていた。セルビアは偉大であり、セルビア人の住む領域は皆セルビア領でなければならない、と。私も激しく同意する。

 このボスニア・ヘルツェゴヴィナの地を奪うのはほんの序章に過ぎないのだ。

 幸いなことに、標的はオープンカーに乗っているという。これは正しく神が与えた奇跡であろう。

 なんとしても目標を達成しなければならない。

 しかもなんだ。我々に対する挑発か?

 何故よりによってコソボの戦いでオスマン帝国に大敗して長きにわたって支配されるようになった日にやって来るのか?

 断じて許せない。必ず成功させてみせよう。祖国に栄光あれ!


 パレードのルートに沿って仲間が何人か配置されているはずである。

 私に回ってくるまでには誰かが成功してくれていると信じているが、逃したというのなら私が何としても止めを刺す。そして私こそが祖国の英雄となるのだ!


 ……もうとっくに爆発音や銃声が響いてもおかしくない頃である。

 もしや他の皆は躊躇っているのではないのだろうか。

 それならば私こそが……


 ――その時、爆発音が彼の耳に届いた。この場合、すぐに持ち場を離れなければ取り調べを受けてしまう。


 誰かは知らないがやってくれたようで良かった。後は亡くなったことを確認するだけだ。

 願わくば私が英雄となりたかったが、目的は果たせた。


 ――大公夫妻の暗殺は成功したものと思い込んでいた彼は、少し時間が経ってから失敗の報を聞いて落胆していた。


 何だよあの野郎。ヘマしやがって。何としても見つけ出してやる。

 それにしても車ねぇ……ひょっこりと私の前にでも現れてくれれば良いけどそんなことなんてある訳……



 ……あった!

 間違いない。この二人は標的に違いない。


 これは好機だ。護衛も油断している。何があったのかはしらないが、今を置いて他に好機はない。

 懐から拳銃を取り出して彼らに銃口を向ける。


「統一か死か!」


 狙いは初めから決まっている。

 女の方の腹部だ。


 けたたましい音と共に放たれた銃弾は狙い過たず命中した。

 続けて放った弾も男の首に命中した。

 男の方は血を大量にながしながらも女を心配して声をかける。


「ゾフィー、死なないでおくれよ……お腹には私たちの子どもがいるではないか……」


 そんな事くらいは百も承知だ。

 だが、お前たちの事情など知ったことではない。

 今度こそ間違いなく成功しただろう。


 神よ、ありがとう。


: : : : :


 まだ19歳の少年が放った僅か数発の銃弾は、結果として数千万もの人々を殺した。

 その中には多くのセルビア人も含まれており、祖国は一度滅びた。

 セルビアでは国民の16%以上が亡くなった。

 ここにおいてセルビアの首相は黒手組が戦争の原因であると判断し、組織を解散させ、首謀者を銃殺したのだった。

 一方のプリンツィプは服役中にその短い生涯を終えた。


 ――こうして世界は開戦まで秒読み状態になった。


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