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喫茶店の客

喫茶店というのは閉鎖感が大切だ。なぜ閉鎖感が大切なのかといえば、客が落ち着くからだ。狭いところは落ち着く。外界のことを考えなくて済む。向こうの席から突然「おい!そこの野郎!」なんて言われないか、なんて妄想をしなくて済む。

閉鎖感は心に平和をもたらしてくれる。なのにこの店はなんだ。なんて開放的なんだ。店員も(せわ)しない。店員がああも頑張って働いてしまっては客が仕事のことを忘れられない。落ち着けない。だから店員はすごく暇そうにしているべきなんだ。店のマスターはおいしいコーヒーを出す他に暇そうにすることも仕事なんだ。

ああなんてわがままな客だろう。こんなことを考えているのは、私が心に落ち着きを持っていないからだ。あぁ。でも違うだろう?喫茶店には平穏を求めにやってくるものだ。後は、友人とこってり話すためくらいだ。どちらも落ち着いた雰囲気でしかそれを生み出すことはできない。だから喫茶店が良いのだ。ああ、いつものように行きつけの喫茶店へ行けばよかったんだ。今日の私はどうかしている。平穏を求めるならば、挑戦といえるこの「新しい店に入ってみる」ということをしないべきだったんだ。私は今 そんなことも考えられないのか。なんて愚かな。愚かな客なんだろう。さて、そうだ。ココアを飲もう。甘いものは精神に落ち着きをもたらしてくれる。

手拭きのビニールを開けて手を拭き、ストローの袋を開けてアイスココアに刺す。一口。甘い。ああ甘い。甘ったるい。いいな。これはいい。ついゴクゴクゴクと飲んでしまった。喉が渇いていたからさっき水を少し飲んだというのに。ダメだな。やはり今 私は落ち着いていない。水。口直しだ。なぜか分からないが、ついサンドイッチ的なものを買ってしまったのだ。肉が入ってる。ココアとはミスマッチだ。食べたいから買った。それだけだ。一口。二口。うん。ほぼレタス。レタスとタレとパンの味。噛み付くところを間違えた。でもうまい。この空間でメシがまずかったら救えない。救われない。今度は肉のところを。うーん。卵。肉より卵の後味がする。卵抜きの方がうまいんじゃないのか?人によるか。一口。おお。肉。これぞ肉。そして水を飲む。水がなくなってしまった。お冷はセルフサービスのようだな。店員に目線を送ってみたが忙しそうだ。しかもこのお冷は、自分で汲んできたもの。面倒だ。でも行かねば。このサンドイッチ、水でリセットしながらでないと落ち着けない。

ふぅ。面倒だった。あむっ。うーむ。レタスがシャキシャキ。シャキシャキ!さてあと半分。ココアを飲んでみる。うんミスマッチ。肉が見えているところをガブリ。パンの間から出た卵をぺろり。うーん。おいしい。あー、だいぶ落ち着いてきたかもしれない。でも寒いな。水を取ってきたとき、暑くて上着の脱いだんだが……今日は雨だろう?ならば、冷房ではなく除湿をするべきだ。これは間違いない。もし喉が渇いたとしてもそれは店のコーヒーでも飲めばいい。その方が店にとってもいいはずだ。全く訳のわからないことをしている。これは何度だ?18度くらいなんじゃないだろうか?バカなのか?まぁいい。私は私のことで手一杯。レタスのところをパクリ。シャキシャキ。水を二口。そうか。これか。水を飲んでしまっているから余計に寒いんだ。そして暖かいコーヒーが飲めるように敢えて寒くしている。勘弁してほしい。あれだ。喫煙席、禁煙席に追加する形でホットティー室、アイスティー室もそれぞれ付けて4部屋設けるべきだ。なんかトラブルか。大変だな。店長はいないようだ。ああ。また嫌なことを思い出してしまった。肉のところをガブリ。目を伏せても視界に入ってくる謝罪中の店員。大変だな。あぁ。もう落ち着かない。心がこちらまで痛くなってくる。ああ、ああ、ああ……「申し訳ございませんでした。私のミスでございます」そんな言葉をこんな店まで来て聞かなければならないのか。ああ。救われない。救えない。私は私すら救うこともできないし、あの店員を助けることもできない。なんて愚かな。弱い。残りのパンを無理やり口に詰め込んだ。水を飲んで柔らかくする。ああやはり喫茶店の店員は暇そうにするのが仕事だ。ここがそういう店ならば、ここは喫茶店ではないのだろう。私の勘違いだった。寒いし、辛いし、落ち着かない。あぁ、あぁ。サンドイッチは美味しかった。既にあるものをアルバイトが重ねただけだろうが、美味しかった。これがチェーン店の強みであろう。ほかの強みはなんだか分からないが。あー、あー。(せわ)しないな。はぁ。この世界に平穏などないのだろうか。アイスココアの上に乗ったクリームをかき混ぜて溶かした。少しは落ち着かせてくれるだろう。あーおいしい。だめだな。もうだめだ。このココアをさっさと飲んで、家に帰ろう。

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