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7話 強くなりたい

 



 べへモスが俺の家に住み着いてから約1か月後。


 俺の怪我も完治し、体も自由に動かせるようになった頃。


 そろそろ村の人たちにべへモスを紹介しようってことになった。


 まず第一に年の近い子供たちに紹介するよう親から言われ、俺は村の広場にいつものメンバーを集めべへモスを紹介することにした。



「「「「「「「……。」」」」」」」


「どうも。スモモっていいます。よろしくお願いします。」


「私の家に居候することになった子だ。皆もよろしく頼む。」



 目の前で固まる子供たち。

 まあ当然だろう。急に新しく村に住み着く子供が来たんだから。


 しかもその子の見た目が超絶美形。


 普通なら言葉を失うだろう。あまりにも脳に入ってくる情報量が多すぎる。



「ああ。よろしく。」



 右手に持った本から目を離さずに挨拶するバロット。

 俺は全く興味なしといった雰囲気をかもし出している。


 お前はブレねえな。



「……はっ! よ、よろしくなスモモ! 俺はテッダ。何かあったら気軽に相談してくれ。」


「やめときなよ。こいつ馬鹿だから。あ、俺はロー。何かあったら俺に聞け。なんでも教えてやっからよ。」


「ローてめえ! かっこつけてんじゃねえぞ!」


「それはお前だろ! お前いつもなら絶対にそんなこといわねえだろ!」


「よよよよろしくくくくぼぼぼ僕はジャ、ジャ、ジャン、ジャンタタタタタ」


「ぼぼぼ僕はガガガガガンタタタタ」


「……大丈夫?」



 大丈夫かこいつら。

 テッダとローはいい恰好を見せようとしてるしジャンタとガンタは壊れた機械みたいになってる。


 べへモスも少し心配になったのか声をかけている。



 ……そういえばこいつらって村の外の人間と会ったことなかったな。

 つまり、べへモスが初めての村の人以外の女の子ってわけだ。


 ……もしかして照れてんのかこいつら?

 初めて見るタイプの女の子にドギマギしてんのか?


 ウブすぎんだろ。



「私はミラ、よろしくね! それにしてもあなた、可愛いわねー。一瞬女神様かと思っちゃった。ねえねえ。その髪ちょっと触らしてもらってもいい?」


「新たな恋敵? テッダは渡さないわよ…。」


「よ、よろしく……。」



 女子陣はいつもの調子でべへモスに話しかけている。

 そのおかげか、べへモスは押され気味だ。


 うん。頼りになる。


 男子勢も彼女達を見習いたまえ。



「だいたいお前に相談乗りなんてできるわけないだろ! 馬鹿なんだから!」


「なんだとてめえ! 馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」


「よよよよよよよろろろろろろ」


「しししししししくくくくくく」



 まだやってたのかこいつら。

 ……ったく、手間がかかる奴らだ。



「はいはい、テッダとローはそこまで。スモモが見てるぞ?」


「はっ! いや違うんだスモモ。いつもの俺はこんなんじゃなくてもっとクールなんだぜ。」


「うんうん。いつもの俺らはこんな細かいことで喧嘩なんてしねえから。」


「ははは……そうなんだ……。」



 うん。やっぱり馬鹿だこいつら。


 だが、こっちは解決した。


 ジャンタとガンタは……。



「「あばばばばばばばば」」



 駄目だ。壊れたまんまだ。

 しょうがない。こういう時は。



「せいっ。」


「「ぐはっ! ……はっ! 僕は一体何を……。」」



 よし。叩いたら直った。

 やはり壊れた友達には強めのボディブローに限る。



「二人とも、大丈夫か? 壊れてたぞ?」


「え……? こ、壊れてた?」


「どういうこと?」


「まあ、知らなくていいさ。」


「「……?」」



 二人ともさっきまでの自分を知ると赤面になりながら全力疾走で逃走する気がする。

 だってべへモスの前だし。可愛い女の子の前だし。



「えっと……あ、よ、よろしく……。ジャ、ジャンタっていいます……。」


「ふ、双子のお、弟の、ガンタです……。」


「あ、うん。よろしくね。」


「「あばばばばばばばばば」」



 あっこいつら。

 べへモスがほほ笑みかけたらまた壊れやがった。



「まあ、俺はクールな人間なんだけど隣にいるローは間抜けな馬鹿だからあんまり頼りにしないほうがいいぜ。」


「そうそう。俺はクールでナイスガイなんだけど隣にいるテッダは村一番の勉強ができない奴だからあんまり会わないほうがいいぞ。馬鹿がうつる。」


「「……。」」


「二人とも無言で互いの胸ぐらを掴みあうのはやめなさい。」


「あ、あはは……。」



 なぜなのか。いつもは仲いいじゃんお前ら。

 なんで今日に限ってそんなに喧嘩するわけ?



「うーん。やっぱりサラサラ。それにすごく綺麗。ねえねえ。この綺麗な銀髪を保つ秘訣とかないの?」


「テッダに近づくなら容赦しない…。」


「えっと……。」



 あーあ駄目だこいつら。やっぱり俺の手に負えねえ。



「ず、ずいぶん個性的な子たちだね。」



 唖然としたべへモスが俺に耳打ちをしてきた。


 うーん。こいつの困った顔を見るのもなかなか悪くない。

 こいつが前森で会ったときに俺を言葉でいじめた理由がなんとなく分かった気がする。



「飽きなさそうだろ?」



 なので俺は満面の笑みでそう返してやった。



 ささやかな復讐だ。




 * * * * *




「はぁー疲れた。監視していた時からうすうすキャラ濃いなーと思ってたけど実際に接してみると圧がすごいね。元気な子供だ。」


「だろ? 俺の自慢の友達だ。」


「これから彼らと付き合っていくのか。めんどくさ……。」


「ご近所付き合いは大事だぞ? 特にうちみたいな田舎はな。」


「まじでえ……うへー。」



 現在俺はべへモスと一緒に人目のつかない森の中に来ている。


 あの後、さすがに収拾がつかなくなったので解散にした。


 テッダとローは相変わらず喧嘩するし、ジャンタとガンタはすぐ壊れるし、ミラとメイルは自分の道を突き進むし、バロットは我関せずで大変だった。


 いつもはあそこまで暴走しないのだが、皆が皆いやでもべへモスのことを意識していたせいだろうな。


 特に男子陣。

 男子陣があまりにもウブすぎた。



 ふと前を見ると相変わらず美少女に変化したままのべへモスが映る。


 うん。どこからどうみてもまこうことなき美少女だ。


 黄金比な配置の顔、雪のような肌、腰まで伸びた輝くような銀髪、ぱっちりとしていて宝石のように美しい銀色の眼、少々小柄な体型、慎ましい胸。


 中身がべへモスだと知っていなかったら危うく惚れそうになるレベルだ。


 べへモスがこんな美少女に変化しなければこんな事態にはならなんかったんだがな。



「……何その目。」


「いや、なんでそんな美少女に変身したのかなって。」


「しょうがないじゃん。君の父親が一番引き取ってくれそうな見た目がこれだと思ったんだから。ニンゲンの世界ではこの姿は需要が高いんだろう?」


「まあ……あながち間違いじゃないが……。」


「だろう?」



 俺の問いかけにどや顔で返してくる。

 全く後悔してませんって顔だ。少しイラっとする。


 さてはこいつ、子供たちのあの収拾のつかない事態を引き起こしたのは自分の見た目だって気づいてないな。


 やっぱりこいつ馬鹿だろ。



「しかし……本当にやるの? 俺としては今すぐ帰ってゴロゴロしたいんだけど。」


「お前の目的は俺の監視だろ? じゃあ俺を常に見張れよ。」


「うわぁ……めんどくさー。なんでこんなことやるのさ。」


「無論、強くなるためだ。」


「……やっぱり君、脳筋だね。」


「うるさい。」



 べへモスの小言を耳に入れながら、家から持ってきていた木刀を構える。


 精神を集中させ、『先読み』を発動させる。



「よし……やってくれ。」


「はあ……。しょうがないなぁ……。俺が助け出す前に死なないでよ?」


「当たり前だ。俺はまだこんなところで死ねない。」


「たくっ……。『魔物呼び』発動。」


「ふうー……。」



 目をつぶりながら深呼吸を行い、精神を落ち着かせる。


 そして目をゆっくりと開ける。


 目を開けるとべへモスの魔法に反応した大量の魔物が俺たちを囲んでいた。



「何回も言うけどやばいと思ったら止めるからね。」


「分かっている。」


「じゃあ……健闘を祈る。」



 そう言い残しべへモスは木の上へ飛び移った。


 これで俺の周りには大量の魔物しかいない。


 ……よし。



『実戦修行』開始だ。




 * * * * *




 そもそもなんでこんなことをしようと思ったのか。


 時は少し前、俺の体が大体癒えてきたころ。

 母には内緒で父と木刀での模擬戦をしていた時まで遡る。



「たあ! せい! はあっ!」


「よっ、はっ、たっ。そろそろ休憩にしようかライ。」


「はぁ……はぁ……うん。」



 はぁ……やはり久しぶりに戦っても父は強い。

 いまだに攻撃が当たりそうにない。



「しかし……俺が王都に戻っても修行を続けていたんだな。見違えたぞ。」


「え? 分かるの?」


「ああ。以前とは比べ物にならないものになっている。こう、前より体をうまく動かせている感じがするな。」


「体をうまく動かせている?」


「なんというか……前まではやろうとしていることと体がうまくかみ合っていない感じがしていたんだが、それがなくなったというか。」


「うまくかみ合っていない……。」


「いい師匠でも見つけたのか? 独学でここまでいくとは考えにくい。」


「いや、師匠なんて……。」


「まさか独学か? やはりライは天才だった……。」



 うーん。


 確かに修行をしていたのは確かだが、父がいうような成果は出ていただろうか。

 どちらかというと、逆にあまり成果は出ていなかったような気がするが。


 だが確かに今日はいつもより体が動かしやすかった気がする。



 なぜだろう?

 あの修行がここまで成果を出したとは考えにくいし。


 謎だ。



「……? どうしたライ? 急に黙りこくって。」


「え? あ、いや、なんでもない。」


「そうか? ……ってまずい! そろそろママが起きる時間だ! 早く家に戻るぞ!」


「う、うん。」



 何故だろう?


 分からない。




 その夜。


 俺は早速べへモスに原因かわからないか聞いてみることにした。



「……ということなんだ。何かわからないか?」


「急に部屋に入ってこないでよ。俺完全に着替え中だったじゃん。寝巻に着替えている最中だったじゃん。これって覗きだよ?」


「お前の裸なんて見てもなんとも思わない。それよりわからないか?」


「君確か前は男だったよね……?」



 失敬な。当たり前だろう。今でも心は男のままだ。



「うーん……。急に体が動かしやすくなった理由か……。」


「そうだ。何か思い当たることはないか?」


「えっと、体の動かしやすさに気づいたのはいつ?」


「ん? 今日だが。」


「じゃあ逆にそれを感じずに最後に戦ったのはいつ?」


「感じずに? そうだな……。ホワイトグリズリーと戦った時だろうか。」


「うーん……。それじゃない?」


「は? それ?」



 それ? それってなんだ?



「ホワイトグリズリーと戦ったことだよ。君はホワイトグリズリーと戦うことで強くなったんじゃない?」


「どういうことだ?」


「さっき君は今までは心と体にずれがあったっていってたじゃない?」


「ああ。」


「その原因は恐らく君の前世の記憶のせいだと思う。」


「前世の記憶?」


「君の前世は聞いてた限りだと才能の塊だったそうじゃないか。言うならば前世の君は最初から強かったんだろう。」


「まあ確かに。」



 言われてみれば前世で苦労した記憶はほとんどない。



「そのせいで、君は格上の相手と戦うことがなかった。前世の君ならそれでも大丈夫だったのかもしれないが、今は違う。」


「なぜ?」


「君が極端に弱くなってしまったからだよ。確かに他の同年齢の子供たちとは比べ物にならないかもしれないが、前世の君と比べたら天と地の差だろう。」


「ふむ。一理ある。」



 こいつにこう直接弱いといわれるのは頭に来るものがあるが、あながち間違いではない。


 前世の俺は初の戦闘でも相手はホワイトグリズリーよりはるか格上の魔物だったが簡単に狩ることができた。



「前世の記憶のせいで、君の戦い方は格下をいかに早く鮮やかに倒すことができるかを重点においた戦い方なんだよ。」


「なに? そうだったのか……。」


「そりゃそんな戦い方が今の体と適合するはずないだろう。体も追い付くはずがない。だから今までは心と体がちぐはぐだったんだと思うよ。」


「なるほど……。」



 ふむ。納得した。

 道理で今まで動かしにくかったはずだ。



「だが君はホワイトグリズリーと命がけの戦いをしたおかげで格上と戦う戦い方を見つけた。そして君も気づかぬうちにそっちが体に馴染んでその戦い方がメインの戦い方になったんだろう。」


「なるほどそうだったのか。やっとわかった。」


「もういい? 俺眠いんだよ。もう寝かせてくれ。」



 なるほど。全て理解した。


 俺が今まで体をうまく使えていない感じがしたのも、あの戦いの後急に体を動かしやすくなったのも、そういうことだったのか。


 確かに父との模擬戦じゃ命がけとはいかなかった。当然だが。

 そんな戦いじゃ新しい戦い方を見つけることなんて不可能だっただろう。


 それが、ホワイトグリズリーと戦うことで嫌でもこの体にあった戦い方を見つけたってことか。



 その次の瞬間、俺の頭に電流が走った。



 まてよ……これは修行に組み込めるんじゃないのか?


 命がけの戦いによる経験値。これはかなりの量だ。


 父とやる模擬戦のような修行とは比べ物にならないほどの経験値が見込めるのではないか?



 なら命がけの戦いをするにはどうすればいい?


 簡単だ。また魔物と戦えばいい。


 しかしまた単騎挑んでも恐らく次は間違いなくやられるだろう。あの時は偶然べへモスがいたから助かったんだ。


 俺はまだ死ぬわけにはいかない。なので条件としては『安全に命がけの戦いをおこなうことができる』だ。


 うーむ。いささか矛盾している。だがいうなればこういうことだ。



 しかしどうやればそんなことができるのか……。



 悩む俺の瞳に、眠そうにしている魔王軍の幹部がうつり込んできた。



 これだ!



「なあべへモス。」


「ん?」


「安全に命がけで魔物と戦える方法を知らないか?」


「は?」






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