表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

6話 殺した者同士の会話

 



 べへモス。


 魔王軍最強の幹部にして、俺の前の体に致命傷を与え死に至らしめた存在。


 人類の大敵にして、魔王の次に位が高い存在。


 恐らく本気を出せば1日で国一つは滅ぼせるほどの力を持っている。


 そんな化け物が今。



「なるほど、根っこから抜かないとダメなんですね。」


「ああ、そうしないとすぐまた生えてきてしまうからな。」


「なるほど。」


「三人とも、そろそろ休憩にしないかしら。お茶とお菓子もあるわよ。」



 俺の家の庭で俺と父と一緒に雑草抜きをしている。



 いやなんでだよ。



 * * * * *


 時は少々前に遡る。


 俺はホワイトグリズリー事件の真相を確かめるため、森へと訪れた。


 そこで幸か不幸か、べへモスと出会ったのだった。



「答えろ。なぜお前みたいな奴がこんなところにいるんだ。」



 なぜだ。

 なぜこんな化け物がこんなところに来ている。

 ありえない。ありえてたまるか。


 なぜこいつがここに来たのかは分からないがここでどうにかしなければ。


 最悪俺ごと村が滅ぼされる。



「みたいな奴、とは命の恩人に向かってひどい言い方だな~。俺がいなかったら君は今頃あの世だったんだよ?」


「命の恩人、だと?」


「そうだよ~。」



 こいつが俺の命の恩人?

 何を言っているんだこいつは。


 こいつに命を奪われることはあったが命を助けられたことなんて一度もないはずだ。



「どういうことだ?」


「察しが悪いな~。ホワイトグリズリーをやったのは俺だって言ってんだよ。」


「なに?」



 こいつがホワイトグリズリーをやった?


 確かにこいつの実力ならホワイトグリズリーごときそこらへんの蚊をつぶすかのごとく狩れるだろう。


 だがなぜ。

 なぜそんなことをする必要がある。



「なんの目的でそんなことを?」


「さっきから質問ばっかだね君。それは俺がここに来たことを考えればおのずと分かるはずだよ。」


「お前が……ここに来た意味?」


「そうそう。君なら分かるだろう?『最強の勇者』。」


「なっ!?」



 なぜこいつがそのあだ名を知っている?

 そのあだ名を知っているやつはこの世界には俺以外存在しないはずだ。



「なぜその名を知っている。」


「おーおー警戒モード。ま、今の君じゃ俺を倒すことなんて到底不可能だけどね。」


「答えろ。」


「だから自分で考えなって。俺は先生じゃないんだよ。」


「ちっ……。」



 前の世界と変わらず頭にくる野郎だ。


 いますぐ討伐したいところだが、あいにく今の俺にはそんな力はない。

 ここはおとなしく奴とコミュニケーションをとるのが最適解か。



「お前がここに来た意味……。」


「そうそう。俺みたいな魔王軍の重要人物が普通こんななんもない田舎にくるわけないじゃん?」


「なぜか俺のあだ名を知っている……。」


「さてなぜでしょーか?」


「……。」



 魔王軍の幹部がこんなところに。


 普通はまずありえない。

 もし攻め落とすにしても幹部がくることなんてまずない。来たとして下っ端だろう。


 魔王軍の幹部ってのはそうそう前線に出て来ることはない。

 魔王軍の仕組みとして基本は下っ端たちが宣戦布告を行ったり戦闘を行ったりしている。


 幹部っていうのは基本後ろのほうで指示を出す。

 たまに自ら前線で指揮をとる酔狂な奴もいるが。


 しかもこいつほどの大幹部となってくると魔王軍の仕事で前にでることはほぼ100%ないだろう。

 基本はずっと本部となる魔王城にいるはずだ。


 つまりこいつが直接来たということは……。



「魔王軍関係ではなくお前自身がこの村に用があって……?」


「ピンポーン。正解。まあ正確には"この村"じゃなくて"君に"だけどね。」


「俺に……?」



 こいつが俺に用事?


 なぜ?


 こっちの世界に来てからはこいつに会ったのはこれが初めてなはずだ。


 こいつの耳に届くほど名声を轟かせているわけでもない。

 今の俺はまだ普通の子供より少し強いだけの一般人にすぎないはず。


 そんな俺に用? 魔王軍の幹部が?


 うーむ分からない……。



「悩んでいるね。もう答えは教えたようなもんなんだけどな。」


「はぁ?」


「まだわからないのか……意外と頭悪いね君。」


「なんだとコラてめぇ!」


「こらこら、女の子がそんな怖い口調で喋っちゃだめだよ。全くしょうがないなあ、じゃあヒントをあげるよ。」


「ヒント? てかもう答えを教えろよ。」


「それはいやだ。君の悩む姿を見ることができないからね。」


「うわっ変態だ……。」


「変態言うな。じゃあヒント。俺も2回目だ。」


「はぁ? 2回目?」



 なんのことだ? 2回目?

 何が2回目なんだ?



 ここに来るのが2回目?

 ……ありえない話ではないが来る意味が分からない。


 俺と話すのが2回目?

 ……少なくとも俺は覚えがない。こいつと話していたら嫌でも記憶に残るはずだ。


 うーん……。

 何が2回目なんだ?


 俺も2回目……。俺も2回目か……。



 ん? 待てよ?


 俺"も"?


 "も"ってことは他にも2回目の人物がいるってことか?


 ここにいるのは俺と父と奴だけ。

 父は眠っていてこの会話に入っていない。


 つまり奴のいう"も"にあたる2人目の人物は俺?


 俺と同じ2回目?


 俺が2回目なこと?



 ……おいおい、まさか。



「お前も時間逆行者……なのか?」


「ピンポーン。正解。やっと理解した?」


「嘘だろおい……。」



 俺以外にもいたなんて。

 しかもよりによってこいつ。

 おいおい……マジかよ……。



「全く驚いたよ。君に殺されたと思ったら次の瞬間24年前に戻ってたんだもん。夢かと思ったよ。」


「おいまて……。お前が時間逆行をしたことは分かったがなぜ俺も逆行者だと分かった? 俺の記憶がない可能性だってあったはずだ。」


「まあいろいろあるけど……。まず第一にもともと君を疑ってたんだよ。俺の時間が戻ったのは君に殺された時だし。もしかしたら犯人は君なんじゃないかって。」


「おいおい。俺もなんでこんなことが起こったかは分かんねーぞ。」


「だろうね。君馬鹿だし。」


「なんだとてめぇ!」



 どんだけ人を小馬鹿にすれば気が済むんだこいつは!



「怒んないでよ。事実なんだし。」


「うがあああああ!」


「落ち着きなって。怪我してるんだろ君。」


「え?あっ……痛だだだだだ!」


「ほら馬鹿じゃん。」



 しまった。怪我のことを忘れてとびかかったせいで怪我がくっそ痛い!

 落ち着け……落ち着いて痛みを鎮めるんだ……。


「ふぅー……ふぅー……。」


「落ち着いた? じゃあ話を戻すよ。」


「ふぅー……ああ。」



 ふぅ。痛みがなんとか引いてきた。



「実はね、君のことを疑って5年前くらいからずっと君のこと監視してたんだよ。ばれないように。」


「まじかよきめぇ……。」


「まあ君に欲情したことは一度だってなかったけどね。君外見は可愛いかもしれないけど中身はただの脳筋馬鹿だし。」


「なんだとてめえ! あいたたたた…。」



 さっきからずっと馬鹿馬鹿いいやがって。

 いちいち癇に障る野郎だ。



「そんなことはどうでもいいんだよ。話を脱線させないでよ。」


「お前が勝手に脱線したんだろ。」


「監視しているうちに疑念はほぼ確信になっていったかな。君年不相応に大人びてるし。」


「まじか……。上手く子供を演じれていると思っていたんだが……。」


「まあ疑念が完全に確信に変わったのはホワイトグリズリーの時かな。ただの子供が腐っても魔物であるホワイトグリズリーに怪我を負わせるなんてできるわけないしね。」


「その時も俺のこと見てたのかよ……。」



 マジのストーカーじゃねえか。

 美女のストーカーは大歓迎だが男はお断りだ。



「で、確信に変わったから君を失うわけにはいかないと思ってホワイトグリズリーを狩ったわけ。君が違和感を覚えてここに調べにくるようにわざと不自然な殺し方をしてね。」


「で、俺はまんまとお前の策略に引っかかってここに来ちまったってわけか。」


「そうそう。思い通りにいってよかったよ。」


「ていうか見てたんならもっと早く助けろよ。お前が事前に助けてくれてたら俺こんな怪我なんてしなかったんだぞ。」


「いやいや事前に助けてたら君俺の外見に驚いて襲ってくるだろう?しかもあの時は村の住民達が君のこと探してたし。もし君の説得にもたついてる間に村の住民に見つかったらそれこそ話し合いなんてできなかっただろうしね。」


「いや俺あいつの攻撃のせいで死ぬところだったんだぞ。俺がもし死んだら元も子もねえだろうが。」


「それはあれだ。君だったらいけるかなーって。」


「どんな理論だよ……。」



 もしかしてこいつ馬鹿なんじゃないだろうか。



「まあこれがいままでの顛末かな。なにか分からなかったところは?」


「お前は学校の先生か。」


「ないっぽいならいいか。」


「スルーすんな。」


「じゃあとりあえず……」


「ちょっと待て。一番大事なことを聞けてねえぞ。」


「ん? 何?」


「なんでお前はまだここにいる。時間逆行が俺のせいじゃないと分かった時点でもう俺に用はないはずだ。」


「え? ……ああ、それ言ってなかったね。」



 もしこいつが危険な理由で残っているのなら野放しにはできない。


 俺の命に代えても……なんてかっこいいことは言えないが、王都に連絡して討伐隊を組んでもらうぐらいならできる。



「そんな怖い顔しないでよ。別に君や君の村のことをどうこうとかは考えてないから。」


「本当だろうな?」


「本当本当。ていうかもしそのつもりだったらとっくにやってるって。」


「それはまあ……確かに。」



 悔しいがこいつにはそんなこと簡単にできるほどの力がある。

 こいつの言う通りもしそのつもりなら俺と話すなんてことはせずにとっくに行動に移しているだろう。



「じゃあなぜ?」


「ちょっと警戒を解いてくれたね。単刀直入にいうと俺この村に住むから。」


「は?」



 なにを言っているんだこいつは。


 この村に住む?

 冗談だろ?



「君と話そうと思ったのはそれを伝えることが目的でもあったし。」


「まてまて意味が分からん。」


「馬鹿だから?」


「ちげえよ。これに関しては頭の良し悪しあんまり関係ねえよ。」


「そうかな? で、なにが分からないの?」


「全部だわ。お前がここに住む意味も分かんねえしなんでそんな決断に至ったのかもわかんねえ。」


「えー分かってよー説明するの面倒くさいんだよー。」


「無茶言うな。」



 分かるわけねえだろ魔王軍幹部がこんな田舎に住む意味なんて。



「はあーしょうがないなぁ。じゃあ順を追って説明するよ。」


「ああ。」


「じゃあ説明する前に質問。君はこんなことがおこったのはなんでだと思う?」


「こんなこと?」


「時間逆行だよ。自然にこんなことが起こるわけないだろう?」


「それはまあ……確かにそうだがそれとお前がここに住むことと何の関係があるんだよ。」


「関係おおありさ。で、なんでだと思う?」


「それはまあ……考えたことがなかったから……わからん。」


「はぁー……やっぱり馬鹿だね。」


「いちいちことあることに馬鹿っていうな!」


「じゃあ無能。」


「もっと駄目じゃねえか!」



 こいつ……本当はただ俺を馬鹿にしたいだけなんじゃねえのか?



「全く……お気楽なもんだね。こんな前代未聞なことが起こったのにそれについて一切考えないなんて。脳内お花畑にもほどがあるよ。」


「ぐっ……。」


「君が馬鹿だから勝手に話を進めるよ。結論からいうと、俺は君に原因があるんじゃないかと考えたんだよ。」


「俺が原因……? だから俺は何も知らねーって……」


「君が無意識なうちに何かトリガーを引いたんだと思うよ。だってこの時間逆行いくらなんでも都合が良すぎると思わない?」


「都合が良い?」


「ああ。時間逆行で戻った時間はちょうど君が生まれた時。しかも君には記憶があって、体は君だけ前の世界と違う。あまりにも君基準で世界が戻っている。」


「いわれてみれば……確かに……。」


「なんで俺の記憶が残ったかは分からないけどね。ともかく、ここまで君が主軸になって世界が逆行しているのなら君が何かをしたことによって世界が戻ったと考えるのが普通だろう。」


「なるほど。」



 今まで時間逆行の原因なんて考えたこともなかった。

 だが言われてみれば確かに俺が主軸な気がする。なぜ今まで気が付かなかったのだろう。



「ぶっちゃけ僕はこの時間逆行を恨んでいる。」


「はぁ? なんで?」



 どうした急に。



「当たり前だろう。時間が戻ったせいで俺が24年間やってきたことは全てパアになった。恨むなって方が難しい。別に今までの人生が悪かったわけじゃないしね。」


「まあ……普通はそうだけど……。」


「だから、俺はもう二度と時間逆行はしたくない。ここまでは分かる?」


「馬鹿にすんな。分かるに決まってんだろ。」


「そこで、君の村に住むことにしたんだ。」


「まてまてまた話が飛んだぞ。」



 その間を説明しろ。話が飛びすぎだ。



「はぁ……。まだ分からないの? だから、君を野放しにしてたらまた時間が戻る可能性があるの。」


「はあ? どういうことだ?」


「いいかい?君をほったらかしにしていると、また君が何かの拍子に時間逆行のトリガーを引いて時間が戻るかもしれないだろう?」


「あっ……。」


「考えてなかったのかい? だから俺に馬鹿にされるんだよこの馬鹿。」


「うっうるせえ!」


「でも、俺はもう二度と時間逆行はしたくない。じゃあどうするか。答えは一つ。君がトリガーを引かないように常に監視するしかないんだよ。」


「……なるほど。それで俺の住んでいる村に住むってことか。俺を監視するために。」


「おっやっと分かった? そういうことだよ。」



 なるほど。やっと理解した。

 だが何個が解せないことがある。



「しかしそれならなぜ俺を殺さない? 俺を殺せばそんな面倒なことをしなくても済むだろう。」


「もしかしたら君の死が時間逆行の原因かもしれないだろう。どうやって戻ったかわからない以上あんまり君に迂闊なことはできないんだよ。」


「ああ、確かに。」



 俺が戻ったのは前の俺が死んだ時だ。

 それが原因な可能性もあるのか。



「まあ……大体わかったがどうやって村に住み込むつもりだ?」


「それはまあ……誰か村人を一人殺してなりすまそうかなと。変身術も使えるし。」


「はぁ!?」


「駄目?」


「駄目に決まってんだろ!」



 何考えてんだこいつは!



「でもそれ以外に村に入り込むすべがないし。」


「この森にでも住んでろよ!」


「いやだよ。こんな野性味あふれた場所。」


「とにかくそれは駄目だ!絶対に駄目だ!」


「じゃあどうすればいいのさ。」


「ほかの手段を考えろ!」



 そんなこと許せるか!

 魔族には人側の常識がないから困る。

 とにかく絶対に阻止しなければ。



「うーん……。あっそうだ。じゃあ君の家に住ませてよ。それなら君も安心だし俺も監視しやすいしでwin-winだよ。」


「はあ!?」


「これなら万事解決だ。」


「ちょちょちょちょちょっと待て。」


「うん? 何?」


「何?じゃねえよふざけんな!なんでお前なんかと!」


「じゃあ村人を殺してもいいの?」


「ぐっ……。」



 こいつが家に?

 冗談じゃない。

 何か他の案を…。



「よし。そこで寝てるの君のお父さんだよね?『スリープ』解除。」


「何か……っておい!」


「んんう……?」


「おっとこの姿じゃまずいな。変化っと。」


「ちょっとまてぇ!」



 あの野郎、父と話をつける気か。

 行動が早い、早すぎる。なんとか打開策を……。



「あれ……俺は一体……。」


「あのぉ……。」


「ん?どうしたんだいお嬢ちゃん。君みたいな子がこの森にいると危ないよ。」


「なっ!?」



 あの野郎、父が警戒心を持たないように小さい女の子に変化しやがった。

 しかもなんであんなに見た目の完成度が高いんだよ。



 髪は腰まで伸ばしたロングの銀髪でやけにサラサラだし。


 目はぱっちりとしてて真珠のようにきれいな銀色だし。


 肌は異様に白くて雪みたいだし。


 なぜか服まで白いワンピースに変わってるし。



 パッと見儚げで美しい幼女じゃん。

 くそが。俺も一瞬可愛いと思っちまった。



「実は……魔物に襲われてここまで逃げてきて……。」


「なっ!? こんなかわいい子を襲うとは悪逆非道な魔物め! 退治してやる!」


「いえ……魔物からは逃げ切れたんでいいんですけど……親とはぐれてしまって。」


「親と? そういえば君村の子供じゃないね。見たことない顔だ。」


「ええ……私達家族は旅をしながら生活しているんです……。それで寝ている間に魔物に襲われて……。」


「それで逃げてきたのかい?」


「そうです……それで親とはぐれちゃって……うう……。」


「おおおいおい! 泣かないでくれよ。弱ったな……。」


「だから、親が迎えにくるまでしばらくお兄さんのおうちに泊めてくれないでしょうか……。」


「ええ?……仕方がないなぁ。」


「ちょっちょっと。」



 くそ、話に入り込めない。どんどん話が進んでいく。

 ていうかこいつなんでこんなに演技上手いんだよ。腹立つわ。



「ライもいいか? こんなかわいい子をこんな危ないところに置き去りにはできん!」


「いやお、私は……」


「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません。」


「よし、そうとなれば帰るか。早くママに知らせないと。ママも反対はしないだろう。」


「はい。」


「いやだから……」


「いきましょうか、ライさん。」


「よし、帰ろう。今日はぱーっとパーティだ!」



 この野郎。俺が反対しようとしゃべり始めたら露骨に話を途切れさせやがる。



「諦めなよ。もう話はついたんだよ。」


「てめぇ…。」


「どうしたんだ二人とも。早く行くぞ。」


「はい。さっ、行きましょう。」



 うわこいつ手を握ってきやがった。

 今すぐ振り払いたい。振り払って父を連れて全力疾走をしてこいつと離れたい。



「うーん……。なにか大事なことを忘れているような……。まあいいか。忘れてるってことは大したことじゃないだろ。おっと二人とも。もう手なんか繋いじゃって。もう仲良しなのかい?」


「誰が……」


「そうなんです。もうすっかり。」


「ははは。微笑ましいね。あ、そういえば君の名前は?」



 こいつ……俺に喋らせねえつもりかこら。



「そういえば名乗っていませんでしたね。私は『スモモ』といいます。」


「スモモちゃんか。短い間だろうけどよろしくね。本当の親が見つかるまでは俺のことを本当の親だと思ってくれて構わないからね。」


「はい。ありがとうございます。」



 くそっ……父はもうすでに手遅れだ……。

 なんとか、なんとか策を…。



「これからよろしくお願いしますね。ライさん。」


「あ、ああ……。」



 駄目だ……思いつかない……。

 くそぅ……。








 この日から俺にはもう一人家族が増えた。


 残虐非道で最悪最凶な家族が。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ