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5話 生還

 



 目が覚めるとそこには知らない天井が広がっていた。



「知らない天井だ……。」


「お前は何を言ってるんだ。」


「うほいっ!?」



 やべっ。まさか返事が帰って来るとは思ってなかったから変な声が出た。


 誰だ。俺に変な声を出させた不届きものは。



「ってバロット?」


「やっと目が覚めたか。他の奴らに知らせてくる。」


「ちょっちょっと……」



 俺が止める声も聞かず、バロットは扉の外へ出て行った。


 あの野郎……可愛い女の子の呼び止めを無視しやがって……だからいつまでたっても彼女ができねえんだ。



 それよりまずどこだここ?

 誰かの家か?……俺の家ではないが……。


 って痛ててててて!


 なにこれ! 全身が超痛い! 特に脇腹の部分が鈍器で殴られたみたいに痛い! なにこれ!?



 体をを見てみるとと包帯でぐるぐる巻きにされている俺の体が目に飛び込んできた。



 なにこれ……俺怪我してんの?


 なんで……。


 今日俺がやったことは朝素振りして、母の朝食の手伝いして、そのあと村の子供たちと一緒にい森に入ってその時魔物に遭遇して……そうだ!ホワイトグリズリー!あいつに思いっきり脇腹を殴られたんだった。


 そしてそのあと思いっきり吹き飛ばされて木に激突して気を失ったんだった。



 そうだったそうだった。


 あまりの衝撃からかすっかり記憶から飛んでいた。



「起きたかライ!」


「やっと目を覚ましたのか!」


「うええええん心配したよおおおお!」


「だ、大丈夫?」


「やっと目を覚ましたのね……。」


「良かった……これ以上テッダに心配かけるようならいっそと思っていたところよ……。」


「テッダ、ロー、ジャンタ、ガンタ、ミラ、メイル……。」



 記憶にひたっていると、この家のドアが急に開き見知った6人が勢いよく入ってきた。


 どうやらみんなずっと心配してくれていたようだ。全員にうっすらと隈が見える。いい子たちだよ本当に……。


 しかしメイル。いっそってなんだいっそって。怖いぞ。ゾッとしたぞ。


 前の世界では『最強の勇者』と恐れられた俺をゾッとさせるとは相当だぞ。



 6人は俺が目覚めたことがよっぽど嬉しいのか、満面の笑みで俺に飛びついてくる。


 特にテッダに至ってはよっぽど心配だったのか、俺を全力で抱きしめてきた。



「よかった……本当に……俺……ライが俺のせいで死んじゃったのかと……ずっと……。」


「ははは。そう簡単に死んだりしないさ。…しかしテッダ。そんなに強く抱きしめられると怪我が……。」


「よかった……本当によかった……。」


「あの……テッダ?おーいテッダ君?ちょ痛い痛い痛い!」


「ううう……よがっだ……。」


「このアマ……テッダとあんなに引っ付きやがって……いっそ八つ裂きに……。」



 あだだだだだだ!体から変な音が鳴ってる!死ぬ!死んじゃう!


 だ、誰かヘルプ!ヘルプミー!



「そのへんにしておけテッダ。ライがこの世の終わりみたいな顔をしている。あとメイル。いくらテッダとライの体が密着しているからといって殺気を飛ばすな。」


「はっ! ご、ごめんライ!」


「ちっ……ごめん……。」


「い、いや……いいんだ……ははは……。」



 はー死ぬかと思った。一瞬三途の川の向こう側で手を振ってるおばあちゃんが見えた。

 おばあちゃんまだ生きてるけど。


 しかしナイスだバロット!あとでお兄さんがいい子いい子してやろう!



「……。(ベシッ)」


「いたっ! なんで!?」


「いや……。なんか失礼なことを考えられているような気がしたから……。」



 憶測で人を叩くとは。まったくけしからん子供だ。


 これはあとでお仕置きだな。おしりペンペンしてやる。



「ライ! 目を覚ましたって本当!?」


「大丈夫かライ! 生きてるか!」


「あ、ライのお母さんとお父さん。」



 おっとこれはマイファザーとマイマザー。1年ぶりと朝ぶりですな。



「よかった……本当によかったわ……。」


「お前が魔物に襲われたって聞いてからろくに寝れなかったんだぞ……たくっ……心配かけさせやがって…。」


「父さん……母さん……ごめんなさい……。」


「いや……いいんだ……お前が生きてくれさえすれば……。」


「本当によかった……。」



 ううむ、二人にはものすっごい心配をかけたようだ。これは素直に反省しなければ。



「ほんとに()()()も目を覚まさないものだからもしかしたら死んじゃうのかって…。」


「ほんとだぜライ。皆めちゃくちゃ心配したんだからな。」


 ふええ?


 5日間も寝込んでたの俺?


 そんな重傷だったの俺?


 ……よく目を覚ましたな俺。


 5日間も目を覚まさないって下手したら死ぬレベルじゃん。



 くそっ俺の体をここまで追い詰めた憎きホワイトグリズリーめ。今度会ったら八つ裂きにしてやる。



「特にバロットなんてどんだけ心配なんだかライは俺の家に泊めて見張るっていって聞かなくて。ライが目を覚ますまでずーっとそばに居続けたんだもんな。俺らが見張るの変わるって言っても聞かずに。」


「え?そうなのかバロット。」


「……。(フイッ)」



 あっこいつ顔をそらしやがった。


 でも俺は知っているぞバロット。お前がそうやって顔をそらしたりするときは恥ずかしい時だ。


 伊達にお前と十年来の付き合いをしているわけじゃない。



 っていうかここお前ん家かよ。



 しかし…バロットがねぇ…。



「そうか……ありがとうバロット。」


「別に……。」


「そこまで私を心配してくれるなんて。私にはもったいない友達だよ君は。」


「……当たり前のことをしたまでだ。」


「このクソガキ……さてはライのことを狙ってやがるな……そうはさせんぞ……ライは将来俺と結婚するんだ……。誰にも渡さねえ……。」


「パパ。どうどう。」



 うん。やっぱりいいやつだなバロットは。


 よく口数が少ないから冷たいやつだって勘違いされやすいんだがいいやつなんだよな。不器用なだけで。



 これはおしりペンペンは必要なさそうだ。


 しかし父よ。俺はあんたと結婚するなんて一度も言ったことがないぞ。

 俺は将来アリアと結婚するんだ。

 男と結婚するつもりは毛頭ない。


「はっ!ごほんっ……しかしライ。親として俺は誇らしいぞ。ホワイトグリズリーに立ち向かうどころかあのホワイトグリズリーを()()()そうじゃないか。これは将来有望だな。」


「ちょっとパパ。今はそんなことよりライが目を覚ましたことを喜びましょうよ。」



 ん? ホワイトグリズリーを倒した? 俺が?


 いやいやそんなまさか。俺は一矢報いただけだ。倒したのはこの村の大人たちだろ?



「そうだったライ! どうやってあの化け物を倒したんだ?」


「そうだよ! すごいじゃないかライちゃん! あんな奴を倒せるなんて!」



 んんん? テッダとジャンタまで同調してる。おかしいな。


 彼らは現場にいなかった父と違ってしっかりと現場を見てるはずだ。


 ……ドッキリか?みんなで俺をはめようとしてる?



「本当にびっくりしたよ。ホワイトグリズリーを探しに大人たちと森の中を探してたら奴の叫び声が聞こえたもんだから急いでそこに向かったら全身黒こげで横たわってるホワイトグリズリーの死体と木の近くで気絶しているライちゃんがいたんだもん。」


「ライ魔法も使えたんだな! すげぇ!」



 俺が魔法が使える?


 いやいや確かに前の体じゃそれこそ天地を焦がすようなえげつない魔法を使えたけど。


 今の体になってからはなぜか前の感覚で使えないようになってたからそれこそ初歩の初歩の魔法だって使えねぇぞ?



 ホワイトグリズリーの全身を黒焦げにできるような魔法なんてもってのほかだ。



「なにかの勘違いじゃないか? 私は初級魔法だって使えないぞ?」


「またまた~隠さなくていいって。」


「そうだぞ。別に隠すことじゃねーじゃん。かっこいいよな魔法が使えるって!」


「え?魔法で倒したのか? てっきり剣術かと……。まさかライにそんな才能があったなんて……。そんなこともわからないなんて父親失格だ俺は……。」


「はいはい落ち込まない落ち込まない。パパは父親失格なんかじゃないわよ。」


「うう~ママぁ~。」


「よしよし。」



 俺が……奴を倒した?


 どういうことだ?




 のちに村の医療者が来ていろいろ言っていたが、終始俺は上の空だった。




 * * * * *



 俺が目を覚ましてから早1週間。


 今の俺は一か月修行禁止を母から言い渡されていた。辛い。



 俺の体だが肋骨がバキバキに折れていた。

 医療者にはよく生きてたなと言われた。俺もそう思う。よく生きてたな俺。



 俺は今、ぼろぼろの自分の体を引っ張って森に来ている。

 もちろん親同伴だ。俺の横では父親が執拗に自分の剣を手入れしている。



 なぜこんな無理をしてまで森に来ているかというと、件のホワイトグリズリー討伐事件の真相を掴むためである。


 確かにあの時俺は奴を倒すことができなかった。

 悔しいが……奴に負けたんだ。


 なのになぜか俺が奴を倒したことになっている。


 村の人たちに聞いて回っても皆が口を揃えて『ライが倒した』というのだ。



 大変不可解である。


 俺はてっきり駆け付けた村の人たちが追っ払ったか討伐したものだと思っていた。

 実際前の世界では倒したのは大人たちだったし。


 だがどうにも違うらしい。


 聞く話によると、駆け付けた時には『もう討伐された後』だったんだと。

 そして近くに俺がいたもんだから皆俺が倒したと思っている。



 だが実際には俺は奴を倒せていない。


 謎だ。前の世界の歴史ではこんなことはなかった。

 まったくもってわけがわからない。



 なので、この事件を解明しようとその事件が実際に起こった現場に向かっているわけである。



 最初は俺一人で行くって言ったんだがさすがに誰も許してくれなかった。お前は死ぬ気かって。


 なので、俺の父親が同伴である。


 父は俺が目を覚ました時にすぐに王都に戻るものだと思っていたのだが、なぜか一向に村に滞在している。


 暇なのだろうか。



 だが村で一番腕がたつのも父なので護衛ってことでついてきた。


 まあ父はこの森の魔物くらいだったら大体は簡単に倒せる実力は持っているからな。

 心強い護衛である。



「任せろよライ。たとえどんな奴が出ようともお前のことは俺が守ってやる。ばっちゃんの名にかけて!」


「なにそれ?」


「ふふふ。かっこいいだろう?」


「いやひいおばあちゃんはうちの村で今でも道具屋の店主やってる一般人なんだけど……。」


「かっこよければいいのさ!」



 心強いのだが…少し不安である。


 どうやら父は最近王都でやっている連続劇の主人公に憧れているらしく、ずっとその主人公の決め台詞を真似ている。


 かっこつけているところ悪いが、ダサいぞ父。



「っと、ここじゃないか? お前がホワイトグリズリーを倒したってとこ。」


「え? あ、そうここだ。」



 どうやら父と対話をしているうちに目的地に着いたらしい。


 そう、ここだ。


 俺が奴と対決した場所。


 俺が激突したため皮が破れている木、間違いない。



 では早速現場検証だ。



 さすがにホワイトグリズリーの死体はないか。

 おそらく村の人たちが持って帰って食料にでもしたのだろう。



 しかし、現場を見てみると確かに誰かが魔法を使った形跡がある。


 あの地面に残っている焦げ跡。

 あんなもの魔法でなければ生み出せない。



 しかも、その焦げ跡は広範囲に広がらずにかなり小さいサイズに収まっている。


 あのサイズは……だいたい俺を怪我させた奴くらいの大きさか。



 威力の高い魔法というのは大体が広範囲になる。

 威力の高い魔法を小さい範囲にとどめるというのはかなりの技量が必要になる。


 ホワイトグリズリーを倒すほどってなると魔法のレベルは中級魔法数発か上級魔法一発。

 そんなレベルの魔法をここまで最小限の範囲に収める…。


 こいつはかなりの魔法の使い手だな。


 それこそ王都の大魔導士レベルじゃないとこんな芸当は……。



「はぁ……やっと来た。まちくたびれたよ。」


「!」


「ッ誰だ!」



 思考を巡らせていると突然誰かの声が聞こえてきた。


 父はすぐさま臨戦態勢にはいる。


 俺はあいにくけが人なため何もできない。

 ただ声の主を探すことしかできない。


 しかしこの声……聞いたことがある。



「ったく……10日以上待ったよ……ニンゲンってのは怪我の治りが遅いから困るね。」


「どこだ! どこにいる!」


「あー……君はちょっと邪魔だね。ちょっと寝ててよ。」


「何をっ……って……なんだ……これ……急に……ねむ……。」


「父さん!」



 急に倒れた父をなんとか支え、地面に下す。


 脈は……正常だ。息は……している。かすかに寝息が聞こえる。

 良かった。どうやら寝ているだけのようだ。



 ……それにしても。



「どういうことだ。」


「はあ~やっと話せるよ。」


「姿を見せろ。」


「はいはい……これでいい?」



 突然目の前の空間が歪み、そいつの姿が現れる。



 銀色の毛を短く切りそろえた髪型。


 だらしなく垂れている銀色の目。


 たるみきった緊張感のない表情。


 10人に聞いたら9人はイケメンと答えるであろう整った顔。


 服装は純白のパーカーに黒のズボン。



 そして……()()()()と額から生えている()()()()



 忘れられない。忘れるわけがない。



「なぜお前がここにいる。





























 べへモス。」



 俺の目の前に現れたのは、魔族であり、かつて俺を殺した張本人。



 魔王軍最強の幹部 べへモスだった。










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