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7話

あたしが皇宮に来てから一週間が過ぎた。


フエリックス様とは一日に一度は会ってお茶を一緒にしたりいろんな話をした。時折、頭を撫でたり頬にキスをされたりされたが。

それをお父様と兄様に言ったら「あんのロリコンが!」と憤怒の表情でのたまっていた。いや、挨拶程度にしかこっちは考えていないから。

口にされていないし。フエリックス様はあたしの年齢をちゃんと考慮されている。そこのとこは言ってはおいた。二人はそれでも不満そうにしていた。

今はハンケチーフに刺繍をしていた。ちくちくと縫っていたが。やり方はキャシーに教えてもらった。

客室には誰もいない。冬の穏やかな日差しが窓から部屋を照らす。お昼の二時くらいだろうか。眠気は一向に来ないので刺繍をやることにした。

刺繍する柄はホーリックス皇国でもポピュラーな花で鈴蘭を選んだ。これは難易度が少し高めだがあたしは敢えて挑戦してみた。一生懸命に紙に描かれた図柄を参考にしながら一針ずつ入れていく。まだ、一枚目だ。気合いを入れてやっている。

とりあえず、お父様と兄様、お母様にフエリックス様と。イアンやキャシーに自分と後は誰にしよう。そう思いながら針を止めた。思いついたのは西和国の実の両親だった。あの二人にもサクラやウメの絵柄を入れて贈ってみるか。

そう思ってからまた針を動かす。ゆっくりと時は過ぎていったのだった。



夕方になってから夕食を軽く済ませた。また、寝るまでに刺繍の続きをする。

イアンが心配そうにしていたが。何せ、時間がない。あたしは一枚目を終えて二枚目に取り掛かっていた。

一枚目は自分用だ。二枚目はお父様で。三枚目でお母様、次が兄様にしよう。

うまく出来上がったらフエリックス様のに。考えだすと楽しくなってきた。

集中していたら肩を軽く叩かれた。振り向いたらイアンではなく一人の男性が佇んでいた。

金色の髪に琥珀色の瞳はフエリックス様だ。あたしは一番あり得ない人の出現にひどく驚いてしまった。フエリックス様は心配そうにこちらを見つめていた。

「ヨウコ。君、もう夜も遅いのに。何をしているんだ?」

「…え。殿下、何でここに?」

「…君のメイドが心配して俺を呼びに部屋にまで来たんだよ。そして、お嬢様がいくら呼びかけても気づいてくださらないと。これは一大事だと思って様子を見に来たんだよ」

フエリックス様はふうと息をついた。

「刺繍をするのもいいけど。君はまだ成長期だからね。夜更かしは体によくないよ」

「すみません。お父様達にお別れの餞別として渡したくて。それで作っていたんです」

「そうか。けど、もう寝た方がいい。明日にやればいいと思う」

あたしは仕方なく二枚目の糸で玉留めを手早くした。ハサミでちょきんと切る。

その音が部屋に不思議と響く。糸が付いた状態で針山に針を戻した。ハンケチーフもテーブルに畳んで置いた。服はいつでも寝られるように部屋着用のワンピースを着ていた。

フエリックス様はあたしの頭を一撫でするとおやすみと言って寝室を出ようとする。あたしはお休みなさいと返事をした。

フエリックス様はにこりと笑って手を振りながらドアを開けた。背を向けると寝室を出て行ったのだった。


翌朝、あたしはいつもより早起きした。

キャシーとイアンはまだ来ていない。洗面所に行ってまずは顔を洗う。久しぶりに冷水でしたが両手がかじかんでしまった。それでもクローゼットに近づく。扉を開けて中から自分でも着れそうな黄色のワンピースを出した。下着類も出した。ベッドの上に置いてから鏡台へ行き、簡単に髪用の香油を塗りつける。全体的につけるとブラシで何度も梳いた。艶が出てきたら髪紐を手に取り自分で三つ編みにする。一本の三つ編みにしたらヘアピンをいくつか使って三つ編みの根元を固定した。ぐるぐると巻き付けてまたヘアピンで留めていく。最後に髪用のアシアナネットを着けて微調整をした。

「うん。髪はこれでよしと」

そう言って立ち上がった。前世でも髪を長くしていた時があってアシアナネットを使ってシニヨン風にしていた。普段は一つに束ねるかそのまま流していたが出かける時にシニヨン風にしたりアップ、ハーフアップをしていた。こういう時は前世の記憶があって助かるなと思う。

そんな風に考えていたらドアがノックされた。あたしは意識を切り替えて返事をする。

「失礼します」

キャシーとイアンが入ってきた。二人はタオルや歯磨きセット、ぬるま湯を張った洗面器をいつもと同じく持っている。

「あ、キャシー。今日は水で洗顔をすませたから。歯磨きだけをするわ」

「そうでしたか。だったら髪はご自分でなさったんですか?」

「うん。その変かな」

「いえ。ご自分でなさったにしては綺麗に仕上がっています。では着替えとお化粧をお手伝いしますね」

頷くとイアンは洗面器を返しに部屋を出ていく。キャシーはあたしに立つように言った。立ったらネグリジェを脱がされて下着類も同様にされる。コルセットを装着してから下着類も新しいのに替えた。

その上からワンピースを着て背中のボタンを留めてもらう。靴下と少し高めのヒールを履いた。もう一度、鏡台に戻ってお化粧を薄くしてもらった。

お化粧水や美容液、乳液を塗り込んでマッサージをしてから白粉をはたいて眉毛を描いた。アイピューラーでまつ毛をカールさせてからアイラインとマスカラを塗った。上に淡い色をいくつかグラデーション状に瞼に乗せた。アイシャドーだ。

ベージュや薄いグレー、シルバーを重ねて派手ではないようにする。口紅は反対に薄いオレンジ色で顔色を明るく見えるようにした。チークを入れたらフェイスパウダーで仕上げる。

「お化粧は終わりました。今日は皇妃様とフィオナ皇女様にお会いしますから。失礼のない程度にしましたよ」

あたしはその言葉に驚いた。

「皇妃様とフィオナ姫にお会いします?」

「ええ。お二方がヨハンナ様とぜひともお茶会をご一緒したいと仰せです。どうなさいますか?」

「…わかった。ご一緒しますと伝えておいて」

「かしこまりました」

キャシーはそう言って部屋を出ていく。あたしはしばし呆然としていたのだった。

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