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4話

あたしはお母様と兄様、ウエスティンさんとの四人でフエリックス様の執務室にたどり着いた。


ノックをウエスティンさんがする。返事をする男性の声がした。

「良いとのことです。お入りください」

促されてお母様を最初に中に入る。兄様が次に入室してあたしは最後になった。

執務室の机にはお父様以上の書類がたくさん積み重ねられていた。

その中から金色の髪と琥珀色の瞳の青年が出てくる。以前よりも大人びた感じだが。フエリックス様だとすぐにわかった。

「殿下。婚約者のヨハンナ様がおいでになっています。母君と兄君もご一緒ですよ」

「…あ。ヨハンナ殿、来てくれたのか。ごめん、書類仕事が終わらなくてね。もう少し待っていてくれ」

フエリックス様が申し訳なさそうに眉を下げながら言う。あたしはお父様で慣れているので緩く首を横に振った。

「いえ。気にしないでください。わたくし達は別室で待ちますので」

「ヨハンナ殿。つれないな。せめてこちらで待っていてくれないか。部屋の中にソファがあるだろう。そこで時間潰しをしていたらいいよ」

「わかりました。ではヨハンナ、オルキス。そちらのソファで待ちましょう」

お母様が代わりに返事をした。ウエスティンさんがすぐに気づいて応接セットのソファにまで連れて行ってくれる。

あたしとお母様が二人で隣同士で座った。兄様は向かい側の一人掛けのソファに座る。

ウエスティンさんはそれを見届けると紅茶の用意を始めた。適温で淹れると手早くお母様や兄様、あたしの前にあるテーブルに置いてくれた。

後、お茶菓子でクッキーやワッフルを出してくれる。クッキーはジンジャー、生姜入りで今は冬になるのでちょうどいい。ワッフルは上にホイップクリームと木苺がアクセントになっていて見るだけで美味しそうだ。

皿に盛り付けてテーブルに置かれた。フオークとナイフまで用意された。

お母様と兄様は紅茶を飲みながらもクッキーを食べている。ちなみにワッフルはあたしだけだ。ナイフでワッフルを切り分けてフオークに刺す。ホイップクリームをからめて口に運ぶ。ほかほかのワッフルと甘いクリームが合う。木苺も食べるとほどよい甘酸っぱさでほっぺが落ちるほど美味しいとはこの事かと思った。

「ヨハンナ。あなたはワッフルが本当に好きね。ウエスティンさんもいつも悪いわね。お茶菓子を出してくれるから」

「いえ。ヨハンナ様が美味しそうに召し上がるのを見るのは嬉しいですから。

気になさらないでください」

「でも。このジンジャークッキーは美味しいわ。紅茶と合わせると合うのよね」

「喜んでいただけて良かったですよ。このクッキーとワッフルはメイド長の特製です。存分にお召し上がりください」

「ええ。そうさせてもらうわ」

お母様は一つを食べ終えると二つ目に手を伸ばす。このジンジャークッキーは片手一杯に乗るほどに大きい。食べるのに時間がかかる。

兄様も三つ目に入ろうとしていた。そんな風に紅茶とジンジャークッキー、ワッフルを食べながらフエリックス様の仕事が終わるのを待ったのだった。



小一時間ほどが経ち、フエリックス様はやっと仕事が一段落したらしい。

あたしの近くにやってきて頭を撫でてくる。確か、フエリックス様は今年で十六歳になるはずだ。あたしとは六歳差である。

「…ごめん。だいぶ、待たせてしまったな」

「謝らなくていいですよ。フエリックス殿下がお忙しいのはいつもの事ですし」

「君は物分かりがいいね。十歳とは思えないよ」

フエリックス様は苦笑した。お母様や兄様も生ぬるい目で見ている。

「ふふ。殿下とヨハンナは仲がよろしいですわね。うちのオルキスにも見習ってほしいわ」

お母様がいうと兄様は嫌そうな顔をした。

「母上。ヨハンナと婚約者のフエリシアを一緒にしないでください。フエリは私を馬鹿にする。ヨハンナほど可愛いくないし」

「…オルキス。フエリさんの悪口は言わないの。殿下の御前なのよ」

「それでもです。フエリは私と同い年だけど姉貴面してくる。それが嫌なんですよ」

とうとう親子喧嘩になってしまった。フエリックス様と顔を見合わせた。

「…なんか、兄様の事を刺激してしまったようですね。殿下、どうしましょう」

「どうしようも何も。俺には止めさせる方法はないよ」

「はあ。とりあえず、庭園に行きましょうか?」

「わかった。じゃあ、行こう。ヨハンナは上にショールを羽織った方がいい」

「そうですね。ウエスティンさん、行ってきますね」

あたしが声をかけるとウエスティンさんは頷いてくれた。

「わかりました。ショールを用意しますのでお待ちください」

「すいません」

「お気になさらずに。では少し失礼しますね」

ウエスティンさんは殿下付きのメイドにショールを持ってくるように命じた。

あたしはしばらく待ったのだった。


メイドが薄いオレンジ色のショールを持ってきてくれた。今、着ているドレスに色を合わせてくれたようだ。受け取り自分で羽織ろうとした。

だが、フエリックス様がひょいと取り上げた。どうしたのだろうと思っていたらふわりとあたしの肩にショールを掛けてくれた。

そのまま、胸の辺りで器用に結ぶとにこりと笑った。

「これでよし。庭園はさすがに寒いから。しっかりと巻き込んでないと風邪をひくよ」

「ありがとうございます」

「どうしたしまして。じゃあ、行こう」

あたしの手を握ってフエリックス様はゆっくりと歩き出す。あたしもちょこちょこと付いて行く。何せ、あたしは十歳児だから身長も百五十もない。

フエリックス様はあたしとの身長差が二十五センチくらいはある。て事は低くても百七十センチはあるようだ。

それでも、頭一つ分は小さいあたしに歩幅を合わせてくれたり気遣いをしてくれる所は紳士といえた。

庭園に着くと手を引かれたままで冬咲きの薔薇などを眺めた。フエリックス様は薔薇について説明をしながらゆっくりと歩いた。あたしも付いて歩きながら説明を聞く。

「この庭園にはハーブも植えてあるんだ。ジャスミンやラベンダー、南国のハイビスカスとかね。ハイビスカスの葉を水に漬けておくと洗髪料になるし」

「へえ。ハイビスカスは聞いた事があります」

「そうなんだ。後、西和国産のネムノキがあってね。これもこの木の皮をはいで煮出すと洗髪料になるよ」

あたしはよく知ってるなと思いながら相槌を打つ。フエリックス様としばらくハーブの話で盛り上がったのだった。

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