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1話

あたしは葉子。


周囲からは葉ちゃんと呼ばれている。あたしは今は十歳だ。精神年齢は二十二歳なんだが。

あたしの生まれ変わった世界は平和だがファンタジックな場所で。

生まれた国は西和国といった。だが、八歳の頃にあたしは両親の取り決めにより西和国から遠く離れた大陸にあるホーリックス皇国に一人で行かされた。

皇国に住む皇帝陛下のご子息ー第二皇子のフエリックス様の妃となるべく公爵家に養女として引き取られる。

西和国での葉子という名前を取り上げられてヨハンナと新しい名前を付けられた。あたしは記憶も封印されてヨハンナ・フエン・ホルストとして生きることを強いられたのだった…。



西和国での記憶を封じられていたあたしは髪の色も変えられた。黒髪だったのを薄い茶色にされ、瞳も濃い茶色だったのに青にされた。

顔立ちだけは変えられなかったが。ホルスト公爵家の現当主のお父様は名をフイルダン・フエン・ホルストという。お母様はイレーニアといった。

お父様は青銀の髪に紫の瞳の美丈夫で性格も穏やかだが冷静な人物だ。お母様も白銀の髪に青の瞳のすごい美人で明るく大らかな女性だった。

お二人にはご子息が一人いて名をオルキスという。オル兄様とあたしは呼んでいる。

オル兄様はあたしよりも三歳上で十三歳の明るく利発な少年だ。ホルスト公爵家で出来た家族はあたしを暖かく包んでくれてはいた。記憶をあたしが取り戻したのはつい半年前の事だった。


あたしが記憶を取り戻したのは皇子ことフエリックス様と顔合わせをした時

だ。

フエリックス様は黄金の髪に琥珀色の瞳が印象に残るとても優しそうな柔和な顔立ちの青年だった。横にはお父様がいる。

『さあ、ヨハンナ。こちらが第二皇子のフエリックス殿下だ。挨拶をなさい』

低い声でお父様があたしに促す。仕方なく膝を折って着ていたドレスの裾を摘んだ。頭を下げて目上の方に対する挨拶をする。

『初めまして。わたくしはホルスト公爵の娘でヨハンナ・フエン・ホルストと申します。以後お見知りおきを』

わずか、十歳ながらに淑女の挨拶をするあたしにフエリックス様はくつりと笑ったらしかった。あたしは頭を下げていたから気配でわかったのだが。

『ふうん。君が公爵の娘さんか。それにしては顔立ちが似ていないな。それにおかしな術を掛けられている。公爵、これを解いてもいいかい?』

『皇子?!』

『…ヨハンナ嬢。ちょっとごめんね』

そう言うや否や、フエリックス様はあたしの下げていた頭を上げるように言う。仕方なく頭を上げると綺麗な琥珀の瞳と視線がかち合う。

フエリックス様はあたしの額に自分の顔を近づけてきた。こつんと小さく額の辺りに何かが当たる音がする。

顔がどアップで迫ってきて慌てた。だが、後頭部を押さえられて動きを封じられた。だが、触れられた場所から温かな何かが流れ込んでくる。

『…かの者の封じられしものを取り戻し給え。今、我は記憶と時を司るウエルデイン神に請い願う。名をヨハンナ。かの者の封印を解かん』

その紡がれた言葉と共にパキンという音が頭の中で弾けた。一気に映像や文字などの大量の情報が頭に流れ込んだ。パンクしそうになる。だが、あたしは何とか我慢した。

フエリックス様は後頭部に回していた手をどけるとくっつけていた額も離した。

『うん。これでよし。ヨハンナ嬢、思い出せた?』

『…ええ。あたしは。ヨハンナではない。本名は葉子です。橘葉子』

『ヨウコか。いい名前だね。ヨウコ殿、君は西和国の人だね。橘といったら西和国の王の盾と呼ばれた名家だ。そこの出身だったのに俺の所に嫁がされるとはな。君の実のご両親はいい度胸をしているよ』

そうフエリックス様はいうとお父様に冷笑を浮かべた。

『…公爵。名家のお嬢さんの記憶を勝手に封印をして。しかも祖国に戻れないようにしてさ。どうするつもりだったんだい?』

『…殿下。その記憶に関しては彼女の実の父の依頼で。悪い事をしたとは思っています』

『ふうん。まあ、自覚はあるのか。だったら二度と記憶を封じるなんて真似はしないでほしいね。彼女は俺の未来の妃だ。祖国の事くらいは忘れて欲しくないしね』

『わかりました。二度と致しません』

お父様は冷や汗をかきながら頷いた。フエリックス様はにこりと笑ってあたしの頭を撫でた。

『じゃあ、これからよろしく頼むよ。ヨウコ殿』

『はい』

頷いてフエリックス様によろしくお願いしますと改めて言ったのだった。


そんな事を思い出しながらも家庭教師から出された課題をやっていた。

「ヨハンナ様。お茶をお持ちしました」

「ありがとう。イアン」

イアンというメイドはあたし付きの子で十四歳になる。あたしが記憶を取り戻す前から仕えてくれていた。

「…ヨハンナ様。無理はなさらないでくださいね。記憶の封印を解いていただいてからまだ一年と経っていないのですから」

「わかった。じゃあ、休憩にする」

あたしは課題をしていた手を止めてイアンが手渡してくれた紅茶を受け取る。

口に含むと熱さも濃いさもちょうどいい。お茶には爽やかな酸味と甘味がしてレモンと蜂蜜を入れてくれたのだと気付いた。

美味しいと言いながら飲んだ。イアンは嬉しそうに笑った。

「よかった。ヨハンナ様に気に入っていただけて何よりです」

「ふふ。イアン、いつもありがとう」

「どういたしまして。ヨハンナ様、そろそろ昼食にしましょう。お米のおにぎりとお味噌汁、筑前煮を用意しました」

あたしはイアンの言葉を聞いて驚いた。

まさか、西和国でも前世で住んでいた日本の料理が出てくるとは思わなかったからだ。イアンはにっこりと微笑んでいた。

「…ヨハンナ様の故郷は西和国だと伺いました。しかも前世の記憶持ちだとか。フエリックス殿下から教えていただきましたので」

「けど。どうやってこのお料理を作ったの。作り方もわからないのに」

「私も実は日本の記憶を持っていて。前世ではありませんが。私は外見を幻術で変えているだけで元は日本人です。ヨウコ様。私は本名を島崎冬子(しまざきとうこ)といいます。イアンはこちらでの仮名です」

ええとあたしは驚いてしまった。トウコもとい、イアンはではと言って部屋を出て行ってしまう。あたしはしばらくは固まったままでいたのだった。

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