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ルーの翼 ~アラナン戦記~  作者: 島津恭介
第一部 フラテルニア魔法学院編

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第五章 ケーファーベルクの初級迷宮 -11-

 ハーフェズと一緒に迷宮の前に立つ。

 彼は地下八階から、ぼくは地下十階に挑戦する。


「もたもたしていると追い付くからな」


 相変わらず余裕そうな表情のハーフェズが、右拳を差し出してくる。

 ぼくも右拳を合わせると、努めて余裕そうな笑顔を作った。


「抜かせ。一瞬で終わらせてやるからな。先に中等科で待ってるよ」


 そうだ。

 初級迷宮を踏破すれば、中等科に進級することになる。

 単純な魔力の操作に関しては、もう教わることもない。

 後は反復練習で高めればいいだけだ。


「笑顔が引きつっているぞ、アラナン。慣れないことをするもんじゃないな」

「うるせ!」


 斜に構えながら、緩そうに生きてきたように見えるハーフェズ。

 だが、彼が抱える事情が大きなものであることは容易に予想できる。

 あの大魔導師(ウォーロック)が認めるくらいだ。  それなりの理由があるはずだ。


 ハーフェズと別れ、地下十階に向かう。

 門を開けて中に入ると、そこは大きな部屋がひとつあるだけだった。

 部屋の中央には、黒猫が一匹座っている。

 って、おい、あんたシピじゃないか。


「あら、よくわかったわね」

「わかるわ! 何でシピがこんなところにいるんだよ! まさか、あんたが地下十階の相手だってんじゃないだろうな!」


 ぼくが憤慨すると、シピは満足そうに頷いた。


「その通りよ、アラナン。貴方が学院を卒業するには、三人いる黄金級(ゴルト)冒険者の試練を乗り越えてもらう必要があるわ。初等科はわたしの番。遠慮は要らないわよ」


 いや、そんな予想当たってほしくないよ!

いきなり黄金級(ゴルト)冒険者と戦えとか、難易度上がりすぎだよね!

魔術(エレメンタル)神聖術(セイクリッド)はやっぱりなしなの?


「それはなしだと学長に言われているでしょ。その代わり、魔道具(ウティ・マジー)を補助として出してあるのよ。もっとも、ハーフェズはそれも使わないで突き進んでいるけれど」


 ちえっ、煽るのが巧いな、黒猫(ブラックキャット)


「わたしに一撃を当ててご覧なさいな、アラナン。それができたら合格よ。諦めて帰るのも自由。戦い続けるも自由。さあ、始めるわよ!」


 一撃ね。

 倒せと言われないだけましなのか。

 でも、待ってほしい。

 確か、シピって読心(リーディング)魔法(ソーサリー)を持っていませんでしたっけ?


「あら、よく覚えているわね」


 やっぱりだよ!

 考えてること駄々漏れじゃないですか!

 え、これでどうやって一撃当てろっていうの。


「勘のいいアラナンならわかるでしょ。つまり、これはそういう試練よ。わたしに心を読まれても攻撃を当てることができるようになりなさい。その程度のことができなくては、イフターハ・アティードとは戦えないわ。彼にはわたしの読心(レクチュール)が通じなかったのは覚えているわよね」


 さいですか。

 要するに、ぼくに延々空振りを続けろとそういうことですか。

 なんて展開は、シピも望んでいるとは思えない。

 心を読まれないよう工夫しろということか。


 原理を考えてみよう。

 読心(リーディング)だって、魔力を使ってぼくに干渉していることに違いはない。

 ならば、魔力障壁(マジックバリア)の応用で防げるんじゃないか?

 初等科の試験なのだから、試験範囲だって初等科で習うことを元にしているはずだ。


 よし、魔力障壁(マジックバリア)のイメージを変えてみよう。

 物理攻撃を防ぐだけじゃなく、精神波も防げるように。

 心に防壁を作るイメージだ。


「いい発想よ、アラナン。さて、何処までそれが通じるかしら」


 黒猫が尻尾を振り回してぼくを挑発する。

 うーん、的が小さくて狙いにくいな。

 剣の技法って、あんな低い位置にあるものを斬るようにはできていないんだけれど。


 とりあえず、身体強化(ブースト)を最大に掛ける。

 同時に魔法の糸(マジックストリング)を張り巡らし、一斉に黒猫に襲い掛からせた。


 その瞬間、シピの姿が消えた。


 はっとして周囲を見回すと、部屋の奥にある石像の陰に(うずくま)っている。

 く、影渡り(シャドウムービング)まで使うのか。

 あれじゃ、本当にシピの影すら踏めそうにないぞ。


「発想は悪くないわよ、アラナン・ドゥリスコル。もう少し工夫して煮詰めなさい」


 うん、やるべきことは段々わかってきた。

 まず、精神障壁(マインドバリア)を完成させ、次に影渡り(シャドウムービング)を防ぐ方法を見つける。

 おいい、それって言うほど簡単じゃないよね?


 とにかく、影渡り(シャドウムービング)で移動できそうな位置を確認する。

 影ができているところ──うん、結構たくさんあるな。

 ざっと見たところ、十五ヶ所はある。

 あれだけあると何処に移動するか予測するのも難しいな。


「あんまりのんびりしていると、こっちから行くわよ」


 考え込んでいると、くすくす笑いながらシピが宣言してきた。

 はっとする間もなく、足許の影が伸び上がってぼくの体を縛り上げる。


影縛り(リエゾン・ドンブル)よ。貴方の使っている魔法(ソルセルリー)もいいけれど、あれは貴方の体から魔力の線リーニュ・デネルジー・マジクが繋がっていて、視える人には簡単に避けられちゃうわ。もう少し実戦的な方法を考えなさい」


 自分の影に縛り上げられるという何とも情けない格好で黒猫にお説教を食らう。

 正直泣きたい。


「貴方にはこれはまだ解けないでしょうし、今回は解除してあげるわ。次は避けなさいよ」


 前足を舐めながら黒猫が魔法(ソーサリー)を解除する。

 体を縛り付けていた黒い影が消滅し、ぼくは地面に投げ出された。

 畜生、シピの闇魔法(ダークマジック)を正直嘗めていたよ。

 黄金級(ゴルト)冒険者ってこんなに強いのか。

 シピは全然本気じゃないのに、手も足も出ないぞ。


「心を揺らしてはいけないわ。動揺すると、精神障壁(バリエール・マンタル)が崩れるのよ」


 人は元々誰でも心に障壁を持っている。

 それを意識することで強化できるの、とシピは言う。

 シピの読心(リーディング)でも、読めるのは表層の意識だけだ。

 魔力によってその障壁を強化すれば、心を読まれることはなくなる。


「それじゃ、もう少し障壁(バリエール)想像(イマジネ)しやすくしてあげるわ」


 黒猫が赤い口を開け、にゃあと()いた。

 すると、ぼくの頭の中で何かががんがんと鳴り始める。

 思わず膝を突くと、両手で頭を抱えた。

 何だ、これ。

 どういう攻撃なんだ。


闇魔法ソルセルリー・レ・テネーブルは、人の心に作用する魔法。いまは、貴方の精神障壁(バリエール・マンタル)に直接攻撃を掛けてるのよ。そっと触っている程度だけれどね」


 な、成る程。

 嫌でも精神障壁(マインドバリア)を意識できるよ。

 嬉しいな、くそっ。


 指環の魔力を注ぎ込んで、攻撃を仕掛けられている障壁を強化する。

 すると、何とか頭痛は治まった。

 ふむ、頭痛がしないくらいに強化すれば、心は読まれないということかな。

 シピ先生、なかなか優しいじゃないか!


 おっと、ゆっくりしている暇はない。

 魔力も無限じゃないんだ。

 心が読まれないうちに、勝負を決めよう。


 まずは、魔力の糸(マジックストリング)を伸ばす。

 見られているというなら、数で勝負だ。

 シピが飛びそうな影に全て糸を張り巡らす。

 ふう、これで準備完了だ。


「さあ、追い詰めたぞシピ! 課題をクリアさせてもらおうか!」

「あら、淑女に襲い掛かるとか紳士のやることではなくてよ」


 黒猫の前に立ちはだかると、更に魔力の糸(マジックストリング)で逃げ道を塞ぐ。

 だが、油断はしない。

 相手は黄金級(ゴルト)冒険者だ。


「そうね……及第点を上げてもいいんだけれど、まだちょっと早いかしら。だから……」


 黒猫が赤い口を吊り上げた。


「こんなのはどうかしら……闇黒(オプスキュリテ)

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