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ルーの翼 ~アラナン戦記~  作者: 島津恭介
第一部 フラテルニア魔法学院編
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第五章 ケーファーベルクの初級迷宮 -10-

 ハーフェズが、地下一階と二階を簡単に突破してきた。

 魔力の指環リング・オブ・マジックパワーなんてハーフェズには要らないだろうと思ったが、しっかりドロップしたらしい。


 ハンスやビアンカたちも地下一階をクリアしており、ぼくも負けてはいられない。

 ちなみに、迷宮の地図を他の班に渡すことは学則で禁止されていた。

 マリーに略奪されそうになったが、ファリニシュが取り返してくれた。

 危ない、危ない。


 地下七階の敵は昆虫人(インセクター)だった。

 力が強く、素早く、甲殻も硬い厄介な相手だが、いまのぼくには大した敵ではない。

 翡翠珠刀(ジェイドセイバー)で一刀の許に斬り捨てながら、ボス戦まで辿り着く。


 ボスは鹿角甲虫人(スタッグビートル)だった。

 長く強い二本の鋏のような角を生やした強敵だ。

 本来の虫だと顎なんだが、人型のせいか角の位置にあるようだな。


 その角を振りかざしながら突進してくるが、直線の動きすぎて容易に行動が読める。

 すれ違い様の翡翠の断頭ジェイド・ディカーピテイションで首を落として終わりにした。


 地下七階で出たのは、魔法の袋(マジックバッグ)だった。

 五十個まで入る高級品だ。

 正直有難い。

 いまのは二十個までしか入らないからな。


 帰り道に迷宮の前でハンスたちと会う。

 カレルが、にやにや笑いながら近付いてきた。

 首を傾げていると、地下二階で骸骨(スケルトン)を見たマリーが、悲鳴を上げて気絶したという。

 女の子らしいところもあったんだな。

 まあ、カレルはその後にマリーにぶん殴られて悶絶していたけれど。


 ハーフェズは、もう地下三階と四階を走破していた。

 本当に追い付かれそうだ。

 相手が多数いても苦にしないからな、ハーフェズは。

 力押しでどんどん進んでいける。


 焦っているのを見抜かれたか、ファリニシュが帰り際にぼくの口の中に何かを放り込んだ。

 これは──ペレヤスラヴリの飴玉(タフィー)か。

 ミルクとバターと砂糖が入っていて、甘い。


「甘いものも時にはよしでござんすよ、主様」


 片目を瞑るファリニシュに、思わず苦笑してしまう。

 全く、この狼には敵わないな。


 地下八階には、粘体生物(スライム)が徘徊していた。

 通常の攻撃では効果がないので、火焔刃(フレイムブレード)で焼き払っていく。

 数が多いときは面倒なので、魔糸陣(ストリングフィールド)の魔法の糸を火の属性に変質させ、八方に飛ばして焼き尽くした。

 思い付きでやってみたけれど、意外といけるなこれ。


 ボスは巨大な粘体生物(スライム)で、強酸攻撃が面倒な相手だった。

 あんなのに捕まって溶かされたら地獄の責め苦だ。

 接近戦は遠慮したい。


 そう思って聖爆炎(ウアサル・ティーナ)で吹き飛ばそうとしたが、爆散した破片がまた集まって再生してくるよこれ! 


 以前のぼくだったら、焦って攻撃して自滅していたかもしれなかった。

 だが、落ち着いて観察すると、核になっている魔力反応があるのがわかる。

 ファリニシュに飴玉(タフィー)を貰った効果があったかな。

 観る力も、前に比べたら上がっているのかもしれないな。


 もう一度聖爆炎(ウアサル・ティーナ)を放ち、破片が飛び散るところを翡翠の断頭ジェイド・ディカーピテイションで核のみ斬った。

 そろそろ単純な敵ばかりじゃなくなってくるなあ。

 気を引き締めていかないといけないかもしれない。


 こいつから入手したのは、再生の指環リング・オブ・リジェネレイションだ。

 怪我の回復が早くなるという効果らしいが、実際ちょっとした切り傷程度なら瞬時に治った。

 段々値段の付けられなさそうなものが手に入るようになってきている気がする。


 そう言えば、サルバトーレの班もようやく試験を突破したらしい。

 何故か意気揚々とぼくのところにやってきて、いい気になるなよ、と宣言して立ち去っていった。

 あいつとは最近余り絡んでないのに、何でわざわざぼくに言いにきたのだろう。

 彼は余り練習しないから、最近ではカレルやアルフレートにも負けっ放しのようだ。

 中途半端な早熟児がすぐに追い越されていく典型だな。


  地下九階は、断崖の道だった。

 下へ下へと細い桟道を下りていかなければならない。

 足場が悪い上に、襲ってくるのは人面鳥(ハルピュイア)だった。

 出現すると同時に風刃(グィー)で切り裂いていくのだが、いかんせん数が多い。

 途中で指環の魔力を使い切ると、翡翠珠刀(ジェイドセイバー)の使用を増やして魔力を温存する。


 それでも、刀の魔力も自分の魔力も使い果たす寸前まで戦い抜き、ようやく桟道を下り切ることができた。

 これは結構きつい階層だな。

 ハーフェズ以外はみんな魔力が保たないだろう。

 空中の敵は戦いにくいし、難易度上げすぎじゃないか。


 その日は最奥の間の前で一夜を明かし、魔力の回復を待った。

 万全の状態にして入った最奥の間には、人面鳥の女王レギーナ・ハルピュイアが待ち構えていた。

 風の魔力を操る難敵な上に、部下の人面鳥(ハルピュイア)が二十羽は並んでいる。


 女王は気流の防護幕スクリーン・オブ・ストリームを自在に操ったので、ぼくの風刃(グィー)が無力化され、激戦になった。

 空中から襲い掛かる人面鳥(ハルピュイア)を、魔力の糸(マジックストリング)で叩き落とし、翡翠珠刀(ジェイドセイバー)でとどめを刺す。

 だが、手数の差は圧倒的で、ぼくは瞬く間に魔力障壁(マジックバリア)を消耗させられた。


 人面鳥(ハルピュイア)が半減した辺りでようやく楽になってくる。

 魔力障壁(マジックバリア)も破られ、あちこち傷を負っていたが、再生の指環リング・オブ・リジェネレイションのお陰ですぐ回復したので助かった。

 手数が減れば雑魚の人面鳥(ハルピュイア)は相手にならず、短時間で全滅させる。


 人面鳥の女王レギーナ・ハルピュイアは、怒りの羽根の刃(ウィングカッター)を飛ばしてくる。

 無数の羽根の弾丸に、通常なら為すすべもなく切り刻まれるのであろうが、ぼくはハーフェズの相手でこういうのには慣れているのだ。

 硬質化(インデュレイション)を発動し、羽根の弾丸の中を突っ切ると、交錯した瞬間に翡翠の断頭ジェイド・ディカーピテイションで女王の首を落とした。


 ふう、地上戦ならともかく、空中からあの数に襲われると流石に対処が難しいな。

 魔道具に頼った戦いをしてるようじゃまだまだだ。


 光の粒が消えた後に残ったのは、軽身の足甲(ライトフェザー)だった。

 跳躍力を上昇させる効果があるらしい。

 これは面白そうだね。


 ハーフェズが地下八階に到達したと聞いたのは、戻ってからだった。

 恐ろしい速度だな。

 ぼくが苦労して進めた初級迷宮を、軽々と突破してくる。

 ハンスが地下三階、ビアンカが地下二階、サルバトーレがまだ地下一階を彷徨っているというのに。


 それでも、地下十階にはぼくが先に行けそうだ。

 できれば、明日には決着をつけたいところだよ。


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