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ルーの翼 ~アラナン戦記~  作者: 島津恭介
第三部 イスタフル激動編

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第三十六章 タル・イ・マルヤーンの迷宮 -4-

日頃「ルーの翼」を御愛読頂き、誠に有難うございます。 ページ下部から、ブックマーク、評価など頂ければ作者の励みになりますので、できましたらお願い致します。 (要ログインです)  

(このデル・シアーのもとに辿り着く人間がいるとは)


 陰々と頭の中に念話が響く。

 この死霊(ルフ・マルデフ)は、尋常の魔力ではない。

 その証拠に、ぼくの領域支配ドミーネン・シュタイアルンクと拮抗し、主導権を譲ってこない。


「お前も八色の雷か」

(そうだ。このアンシャンの市街を警護する者。わたしが八色の雷の二、デル・シアーだ)


 黒い雷が、死霊(ルフ・マルデフ)の周囲を覆っている。

 あれは、マリーやジリオーラ先輩ではちょっと近づけないだろう。

 ぼくでも、何発も受けたら障壁が保たない。

 ファリニシュの援護を受けるべきか。


 死霊(ルフ・マルデフ)が右手をかざすと、黒い雷が火花のようにスパークしながら飛んでくる。

 ぼくとマリーは障壁で防いだが、なんとジリオーラ先輩は長剣で雷撃を受け流した。

 流水(コッレンテ)って、斬撃以外も受け流せるんだ……。

 流石に高等科生である。

 剣と魔法の技倆は半端ではない。


「こいつは魔法使いのようやな。接近すれば、勝機はあるで!」


 流水(コッレンテ)で黒い雷を捌きながら、ジリオーラ先輩が前に出る。

 だが、前に出れば、稲妻の密度も上がる。

 数歩進んだところで、それ以上前に出られなくなった。

 踏み出すには、被弾する危険も負わなければならない。

 そんな境界にまで来たのだろう。


「援護するよ!」


 雷撃は、ぼくも得意の魔術である。

 そもそも、ぼくは魔術師なのだ。

 本来、空がないこの地下空間で雷撃を落とすのは難しい。

 だが、これだけ雷の魔力が満ちているならば、それを利用して雷撃を撃つことができる。

 障壁に当たって散った雷撃の魔力を掌握し、白い雷光に変えて叩き返す。

 たちまち、空間が黒と白の雷光で氾濫した。


「援護おおきに……。これなら行けるで!」


 デル・シアーの黒い雷をぼくが相殺したため、ジリオーラ先輩に向かう雷撃が半減した。

 その程度なら、先輩は流水(コッレンテ)で捌ける。

 華麗に黒い雷光を受け流しながら、先輩が加速した。


(小癪な)


 デル・シアーの空洞の目が、赤く輝く。

 左手を掲げると、不気味な魔力が集まっていく。


奪命(ケシュタン)


 ぞわっと全身の毛が逆立った。

 死霊(ルフ・マルデフ)の左手が、青白い光を放つ。

 思い出したのは、あのセンガンの母親。

 死の女王の使徒、アルトゥンの使う魔法。

 生死球アドミラル・バ・ウーケル


「マリー、聖杯(グラアル)だ!」


 咄嗟に、声を出す。

 あのときは、身体から生命そのものを奪い取られる感覚を味わった。

 あんな経験は、そう何度も味わいたくはない。


 青白い光に捉えられたジリオーラ先輩が、がっくりと膝をつく。

 だが、聖杯(グラアル)の発した輝きが、その不気味な光を蹴散らした。

 先輩の息は、荒い。

 が、命に別条はないようだ。


(アアアアア、邪教の神器……!)


 死霊(ルフ・マルデフ)が、悲鳴を上げる。

 やはり、聖杯(グラアル)は苦手のようだな。


「大丈夫?」

「た、助かったで。おおきに」


 ジリオーラ先輩が、下がった。

 デル・シアーの奪命(ケシュタン)を警戒したのだろう。

 雷撃と違い、あれは防ぐことができない。

 先輩の目に、怯えがあった。


「ぼくが、行きます」


 マリーやジリオーラ先輩の力を上げるために控えていたが、この敵はなかなか強力だ。

 マリーが聖杯(グラアル)で援護すればジリオーラ先輩でも斬り込めるだろうが、奪命(ケシュタン)のショックですぐには無理だろう。

 ぼくが出るしかないようだな。


 相変わらず、黒い雷が無数に放たれる。

 それを白い雷で相殺しながら、前進する。

 一定の距離まで詰めると、デル・シアーは左手を上げる。

 奪命(ケシュタン)

 射程距離が短いのか、距離が近くなるとこれを使ってくる。

 だが、これの防御法はわかっている。

 太陽神の翼エツィオーグ・デ・ルーを起動すると、その光の翼で全身を覆い、死の魔法を弾き返す。


「初見ならおまえの勝ちだったかもな!」


 滑るように懐に入り込む。

 デル・シアーは魔法使い。

 ここまで接近すれば、対処するすべはない。


 両手に紅焔(ジャラグティーナ)を纏い、死霊(ルフ・マルデフ)に喰らわせる。

 死霊(ルフ・マルデフ)に通常の打撃は効かないが、全てを燃やし尽くす神の焔は有効だ。

 全身を炎に包まれたデル・シアーが、金切り声を上げる。

 火炎は、死霊(ルフ・マルデフ)の存在ごと焼き尽くすのだ。

 炎が消える頃には、デル・シアーがいたあたりには黒いしみのような跡しか残っていなかった。


「アルトゥンの方が、強敵だったな」

「ブリュンの西の原野で会ったあの女魔術師ね。確かに、アラナン、あの女に殺されそうになっていたものね」

「うちは、こいつにやられかけたんやけどな」

「まあまあ。ちょっと相性が悪かったんですって」


 自分がやられた相手をぼくが簡単に倒したので、先輩は機嫌が悪い。

 とは言っても、イスタフルの武将たちでも、あの死霊(ルフ・マルデフ)には苦戦したはずだ。

 ジリオーラ先輩が弱いわけではない。


 ぼくが勝てたのは、魔術師と拳士の両方を高度に修めている上に、神の加護があったからだ。

 そんな存在、そうそういるわけではないからね。


 デル・シアーを倒し、暫く市街を探索する。

 市街というか、むしろ死の街だな。

 徘徊しているのは、死霊(ルフ・マルデフ)だけだ。

 まあ、並みの死霊(ルフ・マルデフ)相手なら、ぼくじゃなくても蹴散らせる。

 ジリオーラ先輩は長剣に魔力を纏わせて斬り裂くし、マリーは聖杯(グラアル)を掲げただけで浄化してしまう。

 むしろ、この敵はマリーと相性が悪すぎる。

 触れることもできず、一方的に浄化され消えていく。


「どうやら、市街区から貴族区へ行くには、障壁があるようだな」


 突き当たりに、崩れかけた日干し煉瓦の壁がある。

 乗り越えようとしても、見えない神力の壁があって抜けられない。

 何処かに門があるかと探してみると、遠くない地点に存在していた。

 だが、そこには大きな魔獣も立ち塞がっている。


「デル・シアーを倒したか。だが、この八色の雷が三、ライェダンは甘くはないぞ」


 獅子のような顔の巨獣。

 全身に、雷光をまとっている。

 そして、巨獣に従う六人の従者が控えていた。

 いずれも、瘴気を発する甲冑で武装している。


「今度は、一体じゃないのか」

「面倒ね」

「なんやろか……雷獣? そんな感じなんやろか」


 甲冑の従者たちは、格が高い死霊(ルフ・マルデフ)のようだ。

 デル・シアーほどじゃないにせよ、市外にいた雑魚よりは強力だろう。


「あの従者はうちらで相手にするで、マリー」

「わたし一人でも十分じゃないかしら」


 ジリオーラ先輩の気力が戻っている。

 あれなら、従者は任せてもいいだろう。

 雷獣は、ぼくが相手をしよう。



 

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